□可愛い彼氏
1ページ/1ページ






青春学園中等部男子テニス部1年生レギュラー、期待の新人ルーキ。
それが私の彼氏の肩書(のようなもの)だ。
運動出来て顔もよくて頭もいい、もう最強で最高の彼氏。
1年生の仮入部期間中にも関わらず強豪らしい男子テニス部でレギュラーになって。
ファンクラブとか親衛隊とかまで出来るくらいにモテモテな人。

そんな人が私の彼氏ともなれば、私の友達にも
「なんであんたたちが付き合ってるのかわからない。どう考えても不釣り合いでしょ、あんたが」
といわれてしまうほどだ。
…まぁ私もそう思う。
もったいないくらいにカッコイイ彼は、きっと私なんかよりも可愛くて頭もよくて釣り合う人がいるだろう。
けれど少し悲しそうな顔をして「俺のこと信じてくれないの…?こんなにも悠香のことが好きなのに」なんて言われたらもう何も言えなくなると思うんだ。
告白は、彼──越前リョーマからだった。
普通に「前から気になってました、よかったら付き合ってください」みたいなことだった気がする。
当然その当時にはもうスーパールーキーとして有名だったし私も知ってたし、こんな人にコクられるなんて玉の輿みたいじゃないかって少し不純な気持ちもあったけど。
今ではもう好き、大好き。

だって、リョーマ君はいつも二人きりになるところっと態度が変わるんだ。

「それ、おいしそうだね」

お昼の時間になり、私とリョーマ君は付き合い始めてからいつも一緒にご飯を食べるようになっていた。
お弁当はだいたいお母さんが作ってくれるんだけど、最近は私もちょっとだけ作るようになったりして。

「えっと…卵焼き?」

それはこのお弁当の中で唯一私が作ったものだ。
いつもの黄色くて綺麗に形成されているはずのソレは少し歪な形をしていて、うっすらと焦げ目が付いている。
はっきり言ってしまえば、失敗作だ。

「そ。…悠香が作ったんでしょ?食べたい」

やはり不恰好な卵焼きは私作のものだとバレていたらしい。
当たり前といえば当たり前だけど。

「見たらわかると思うけど、失敗してるから……」

「悠香が作ったのだから食べたいんじゃん。失敗とか成功とかそこまで気にきてないし」

リョーマ君曰く、重要なのは味や見た目じゃなくて誰が作ったからしい。
…いやいや絶対味と見た目は重要だと思うな。

「………ダメ?」

渋る様子を見せる私に、リョーマ君が残念そうに眉根を寄せて、こてんと首を傾げた。

ここだけの話、リョーマ君は私と二人きりの時とそうでない時の態度の差が激しい。
いや正確には周りに人がいても私にはデレデレだけど、他の人にはツンツンしてて…。
二人きりになった途端に、人がいる時以上に甘えたになるのだ。
説明が下手だから分かりづらいかもしれないけど、とにかく簡単にいえばリョーマ君が可愛いと言うこと。

「……一口だけだからね」

「やった」

例えば、こうやって失敗作である私の卵焼き一つで嬉しそうに笑ったりとか。

果たして誰が想像出来るだろう。
クールで生意気だと言われているスーパールーキーが、

「あーん」

頬を緩ませて私からの"あーん"を待っているだなんて…!
一口サイズに切ったソレをリョーマ君の口の中にいれれば、リョーマ君は目を細めてどこか幸せそうに咀嚼し始めた。

リョーマ君が甘えただと知ったのは、当然ながら交際を始めてからだ。
付き合い始めたその日からスキンシップが激しくなっていったり、今では所構わず急にハグされたりキスされたりする。
嫌ではないけど少しどころかかなり恥ずかしくて。
でも全部私を求めてくれているが故の行動なのだと考えると拒絶することなんて出来ない。
きっとそれは彼女にだけ見せるようなリョーマ君の一面で。
甘えたな、可愛すぎるリョーマ君を知っているのはおそらく私だけだろう。
いや、私だけであって欲しい。
だってこんなに可愛いリョーマ君、誰にも見せたくないんだもん。

「もう、リョーマ君好き!大好き!」

「俺も好きだよ、悠香」

あとは帰国子女だからか、簡単そうに(けれど心を込めて)好きだと言ってくれるしスキンシップは激しめ。
ただ、リョーマ君の可愛さを知ってからは私からのスキンシップも多くなった。

「ぎゅってしたい!」

「する?」

「するー!」

身長は150余センチと決して大柄ではない体躯。
ただ、しっかりと筋肉や骨格は出来上がっていて、すっぽりと私の腕の中に収まるくせにゴツゴツとした体つきのギャップにキュンと胸が高鳴るのがわかった。



可愛い彼氏



(リョーマ君リョーマ君リョーマ君!)

(なに?)

(呼んでみただけー)

(……悠香。悠香悠香悠香悠香)

(なあに?)

(呼んでみただけ)
(こういうのも結構いいね)

((くそリョーマ君てなんでこんなに可愛いんだろう))
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ