□眼中にもない。
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※微最強夢主設定。
リョーマ君が夢主にベタ惚れ過ぎて(夢主の妹ちゃんに対して)ひどい。

夢主の妹ちゃんがただ不憫なお話。

苦手な方はご閲覧の中断をおすすめします。





青春学園中等部の3年生である園田悠香には、1年生に一人妹がいる。
妹、園田有希は、姉である悠香と比べて全てが劣っている言われ続けていた。
たとえば運動。
たとえば勉強。
たとえば容姿。
たとえば信頼。
たとえば──…。
家にいても学校にいても、どこにいても悠香と有希は比較された。
そして、そのたびに有希は「あんなに素敵なお姉さんがいるのに、妹の方は…」と蔑まれ憐れまれるのだ。
そのたびに有希は傷つき、悲しみ、諦めてきた。
両親は娘二人に平等に愛情を注いでいるつもりなのだろうが、有希本人からすれば両親はやはり姉贔屓であった。

どこにいても居場所がない有希。
そんな有希が唯一心安らぐ場所が、男子テニス部だった。
有希は男子テニス部のマネージャーである。
そして男子テニス部のレギュラーたちは、唯一悠香と有希を比較しないのだ。
だからこそ有希は男子テニス部レギュラーたちの居場所を心地よく思い、そのせいでますます他の生徒たちに反感を買うようになっていた。

青春学園中等部の男子テニス部。
強豪であり容姿も整っているレギュラーたちは、女子生徒から非常に高い人気を持っていた。
ファンクラブや親衛隊がレギュラー1人1人に出来るほどには人気があるのだ。
だからこそ、男子テニス部のマネージャーは女子生徒たちに嫌われる。
もちろん真面目に仕事をして信頼されているなら仕方なしに認めるのだが、彼女たちは有希のことを認めるつもりなどなかった。

なぜなら、青春学園中等部の女子生徒の大半が、盲目的に悠香のことを尊敬していたからだ。
その妹であり、しかもすべてにおいて劣っている有希は必然的に女子生徒たちから嫌われていた。

「有希!」

けれどそれを知ってか知らずか、姉である悠香は学園で妹の姿を見つけるたびに嬉しそうに頬を緩めて声をかけてきた。
そのたびに有希は肩身の狭い思いをし、そしてこの後にクラスメイトたちに吐かれるであろう暴言に怯えるのだ。

「移動教室?」

「…うん、美術……」

「そっか。有希は手先が器用だから、きっといい作品ができるんだろうねぇ。…楽しみにしてるっ」

ニコニコと、まるで有希の中の怯えに気付かないように。
ありがとう…と消え入りそうな声で返事をする有希だが、実際のところ有難いともなんとも思っていない。
むしろ悠香が有希を褒めるたびに、慰めるたびに、クラスメイトたちからの風当たりはますます強くなっていくのだから。
もちろん姉に悪意などないだろう。
ただ純粋に、妹のことを思って発言しているだけだ。
けれど。

「あ、悠香先輩っ」

「きゃっ」

突如として、有希の脇をすり抜けて一人の男子生徒が悠香の名前を呼びながら抱きついた。
それは男子テニス部の1年生レギュラー、越前リョーマだった。
リョーマは、有希が淡い恋心を抱く相手なのだ。
自分には見せないほどに頬を緩ませたリョーマが悠香に擦り寄るように抱きつき、それを満更でもなさそうに受け入れる悠香。

二人は、恋人同士であった。
そして恋人同士のじゃれあいを見せつけられるたびに、有希の中でどす黒い何かが膨れ上がり、ズキズキと胸が痛くなる。

「あ、あの…もう、行くから」

「あっ、有希!」

それ以上想い人と苦手な姉のじゃれあいを見ていられなくて、有希は教科書で顔を隠しながら脇をすり抜けた。
有希とリョーマはクラスメイトである。
リョーマは有希に直接暴言を吐くことは一切ないのだが、その代わりに暴言を吐かれて泣き出す有希を冷めきった目で見てくるのだ。
有希はリョーマが好きだ。
けれどリョーマは、有希のことを嫌っているようにも見えた。

「別にいいじゃん、今は俺のこと見てよ」

有希の後ろから、どこか不満そうなリョーマの声が聞こえる。
何をどう頑張っても努力しても姉には勝てなくて、有希は美術室に向かいながらじわりと涙を浮かべた。


「……あいつ、マジでむかつくよねー。なんであんなのが悠香先輩の妹なわけ?」

美術室に入れば、教師がいないのをいい事に聞こえるように言われる悪口。
…といっても実際は教師がいようがいまいが関係なく常に言われているのだが。
なぜなら、大半の教師も悠香と有希を比べるからだ。
本来、教師は兄弟姉妹親子の間柄にある生徒同士を比較することは許されない。
けれどいまだに比較をする教師は多く、主に有希が害を被っていた。
じわりと胸の中に何かが広がるのを感じ、有希は俯きながら自分の席に着く。

「あたしなら、悠香先輩に恥かかせることしないのになー」

「ってかホントに悠香先輩とは似ても似つかないよね」

耳を塞いでも聞こえる、自分を否定する言葉。
それを聞かないようにしても聞こえてしまい、有希はそれから逃げるように机に突っ伏して寝る体制をとった。

「あ、越前君」

チャイムが鳴る寸前、渋々ながら悠香と離れたらしいリョーマが美術室に入ってきたようだ。
リョーマの指定されている席はちょうど有希の隣である。
有希の伏せっている机にリョーマが荷物を置いたのか、僅かな振動があった。
それと同時に、リョーマが席に座る音も。
どきん、と有希の心臓が跳ねた。

「また悠香先輩のところに行ってたの?」

「ん、まぁ…」

「どんだけ悠香先輩のこと好きなんだよ」

ケラケラと笑いながら言うクラスメイト。
リョーマが恋人である悠香を溺愛しているのは誰もが知っている事実だ。

「さぁ、どんだけ好きなんだろうね」

「うっわ惚気んなよ!」

きっとリョーマはニヤリと笑みを浮かべて発言しているのだろう。
リョーマは悠香を溺愛しており、だからこそ無意識に惚気を発するのだ。

その言葉を聞くたびに、有希の胸はひどく痛むのだが。

「でもさー、悠香先輩と、随分比べるんじゃねぇの?」

悠香と比べる。
その相手は当然ながら有希のことだろう。
リョーマはクラスメイトの言葉に口を開いた。

「なんで俺が悠香先輩と誰かを比較しなきゃダメなわけ?…相手が誰でも、悠香先輩に勝てるわけないじゃん」

「あー、はいはいゴチソウサマ」

「悠香先輩以外なんて、どうでもいいんだよね」

どうでもいい。
それはすべての女性を否定する言葉。
他のクラスメイトたちからすればただの惚気なのだが、有希にとってはただの惚気には聞こえない。

自分に勝ち目はない、そう突きつけられているようで。

「もし悠香先輩に妹と仲良くしてーって言われたらどうするんだよ?」

その問いに、どくん、どくん、と心臓が鳴るのがわかった。
そして有希はリョーマの本心を聞くことになる。

「──いくら悠香先輩の頼みでも断るよ。…興味ないし?」

「うっわひでぇ!」

有希と悠香は姉妹であり、だからこそ容姿はどこか似ている。
レギュラーとマネージャーとして他の生徒よりも関わりがある。
妹だから、もしかしたら、とも思っていた。
けれど、実際はそんなことは想像するだけ無駄だったのだ。



眼中にもない。



((ああ、あたしの生きる意味ってなんだろう))
((好きな人にも、そうでもない人からも嫌われて))
((あたしとお姉ちゃんは別の人なのに))
((誰もあたしを見てくれない))
((悲しい))
((でも、お姉ちゃんが…憎い))
 

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