□…なんだこれ。
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前作→まさかの展開


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紆余曲折を経て、俺は変態──もとい和泉陽菜と交際することになった。
俺がいつから陽菜のことを好きだとかいえば絶対調子に乗るから言わないけど。

「リョーマ君っ!」

で、今日は部活のないオフの日。
どうせ陽菜も用事があるわけじゃないから、どうせならデートをしようということになって。
…っていうか陽菜がデートデートうるさかっただけなんだけど。
俺が告白するまで嫌われてるって勘違いしてたくせに。
待ち合わせ時間の5分前。
メールで決めた待ち合わせ場所に行けば、そこには既に陽菜が待っていて。
俺に気がついたらしい陽菜がぶんぶんと手を振ってきた。
軽く手を挙げて返せば、陽菜は離れていてもわかるほどの笑みを浮かべて駆け寄ってきた。

「…まだ、時間になってないよね?」

「うん、5分前だね!もう今日が楽しみで楽しみで、ついつい早く来ちゃった」

えへへと笑う陽菜に、思わず息が漏れた。
つい早く来ちゃったって、どれだけ前から待ってるんだよ…。

「……ま、俺が待たせたことに変わりはないし…。一応ゴメン」

「ううん全然、リョーマ君を待つ時間は幸せな時間なので!」

…陽菜が忠犬って言われても普通に納得できるな。
俺のことをじーっと見つめてくる陽菜に尻尾が生えてるみたいに見える。

「…じゃ、行く?」

「うん!どこ行くの?」

「…………どっか、テキトーに」

デートの約束は取り付けたものの(半強制的だった気もしないでもないけど)、特に行きたい場所はない。
陽菜はどこ行きたい?と聞いてみれば、へらっと笑ってどこでも!と答えた。
それが1番困るんだけど…。

「あのね、私はリョーマ君と一緒にいれるならどこでもいいの。ゴミ箱の中でもいいよ!」

「それは俺が嫌だ」

軽く陽菜の頭を叩けば、陽菜は相変わらずへらへら笑う。
今まで散々陽菜を叩いたり(殴ったり?)してたし、今更やめるのはある意味無理だ。
もちろん相手が普通の彼女なら別だけど、むしろ陽菜は俺に殴られて喜ぶマゾヒストだからしょうがない。

「どっか適当に歩く?」

「お散歩ー!」

………陽菜が本気で犬に見えてきた。
散歩で喜ぶとかホント犬。
いや、犬は嫌いじゃないけどなんか違う気がする。
とりあえずこのまま突っ立っているのも妙な話だしと歩き始めれば、陽菜は笑いながら俺の腕に抱きついて来た。




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「楽しかったねー」

陽菜が頬を緩ませながらそう言った。
結局特に行く場所もないからと近くのショッピングモールで時間を潰していた。
約束していたのは午後からだったので昼食の心配もなく、まあ良かったと言えば良かった。

「まだ早いし…このあとどうする?」

ただ、一つ問題が出てきた。
バイトをしているわけでもなく、小遣いが多いわけでもない中学生がショッピングモールで長い時間を潰せるわけもなく。
興味のある店だけ選んで入っても、まだ時間は早かった。

「じゃあ……」

ニヤリと笑みを浮かべる陽菜。
こういう時の陽菜はロクでもないことを言うに決まってる。

「ラブホでも行こうか!」

「黙れ」

やっぱりロクなことじゃなかった。
陽菜を殴れば、さすがに痛かったらしい。
拳骨を落とした頭を抑え、その場にかがんでしまった。

「……ここからそんなに遠くないし、変なことしないんなら俺ん家来てもいいよ」

「えっ!」

その双眸に涙を浮かべ、けれどそれ以上に嬉しかったのか顔をあげてぱあっと花を咲かせた。
ほら行くよ、とその背中を軽く蹴れば、陽菜はうん!と返事をして立ち上がった。



「り、リョーマ君の匂い……っ!」

俺の部屋に入れば、その瞬間に鼻をくんくんと動かしてそんなことを言い出す。
なんだ俺の匂いって。
とりあえず鳥肌が立ったからもう一度陽菜の頭を殴っておいた。

「べ、べべべベッド座っていいですか…!」

「……別にいいけど」

そのどもり具合がまた気持ち悪い。
…気持ち悪いくせに、変態な陽菜を嫌いになれない俺も大概変人なんだろうな。
(一応)俺の許可をとった陽菜は、嬉しそうにベッドにダイブした。
座ってないし寝転んでるし。
バタバタと足を動かして普段俺が使っている掛け布団だとか枕に顔をうずめる陽菜。
…今日の夜、寝る時につい思い出してしまいそうだ。
俺だって健全な男子中学生だし。
陽菜のことはこれでも好きなつもりだし。
例え変態でも、好きなヒトが自分のベッドにいたら…まあ、ね?

「リョーマ君リョーマ君!」

「何……」

溜息を吐いて陽菜に目を向ける。
陽菜は嬉しそうに笑いながら、俺の服をガッとつかんで来た。
突然のことにバランスを崩し、そのままベッドに倒れこむ。
陽菜を潰してしまわないように咄嗟に肘を折ってベッドにつく。
ギシリ、とベッドが軋んだ。
キスをしてしまいそうなほどに近い陽菜の顔。
陽菜はとろんと目をとろけさせ、頬を赤らめて俺の頬に手を添えて来た。
冷たい陽菜の、細い指が。
つ、と頬を滑る。

「〜〜〜〜〜〜っ」

たぶん、今の俺は、自分でも驚くほど赤い顔をしているだろう。
顔が熱い。
湯気が出そうだ。

「ほあらー!」

瞬間、聞き慣れた独特の鳴き声が聞こえる。
カルピンの声がした瞬間、愛らしいタヌキのような容姿が視界に入って来て。
どこか苛立った様子で陽菜に猫パンチを食らわせた。
さすがに爪は出ていないようだが、カルピンは何度もばしばしと陽菜の頭を殴っている。

正直、助かった。
もしここでカルピンが来なかったら、俺……結構ヤバかったかも。
慌てて体を起こせば、陽菜も体を起こしてカルピンに対して怒りをあらわにした。

「ニャンコ風情が邪魔すんじゃないわよーっ!」

なんだニャンコ風情って。

「ほあらーっ!」

ふしゃーっ、と威嚇するようなカルピン。
そしてカルピンに手を伸ばす陽菜。
カルピンは咄嗟に反応して陽菜の手をバシバシと叩く。
けれどやっぱり爪は出ていないらしく、陽菜が一応俺にとって大事な存在だとカルピンも理解しているらしい。
ま、絶対言わないけどね。
カルピンと陽菜のくだらないケンカのような光景に、思わず溜息が出た。



…なんだこれ。



(…カルピン、陽菜、いい加減にしろって)

(だってこの猫が!)

(ほあらーっ!)

((…そんなにハモんなくても))
((なんだかんだで仲良くなりそうだな、この二人))

(リョーマ君ー!)

(ほあらー!)

(っ…急に抱きついてくるなって!)
 

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