□夢から醒めたように
1ページ/3ページ



※逆ハーオリジナルのトリップ少女がいます。
名前固定:姫盛(ひめもり)明日香(あすか)。
他、名前は出ませんがオリキャラ数人。
また、王道に男子テニス部にファンクラブがある設定です。

上記のことが無理!という方はご閲覧の中断をお勧めします。






全ての授業が終わり、放課後になって約1時間。
1年生たちが在籍するとある教室に、いまだに一人残っている生徒がいた。
宿題をしているわけでも、友人を待っているわけでも、読書をしているわけでもない。
ただ静かに席に座り、ぼんやりと窓から外を見ているのだ。
その先に何があるわけではない。
ただ、視線を向けているだけ。
何か特定のものを見ようとしているわけではないのだろう、その双眸の焦点は合致していないようだった。

「…梓紗」

「あれっ、リョーマ君?」

「何やってんの、こんな時間まで」

突然声をかけられ、梓紗と呼ばれた少女は驚いたように顔を上げた。
頬杖をついていた手を顔から離し、えへへ、と誤魔化すように笑った。
しかし次の瞬間には不思議そうに首を傾げて、立っているために自分より背が高くなっている彼──越前リョーマを見上げた。

「リョーマ君、部活は?まだ休憩時間じゃない…よね?」

「………」

リョーマはいつもの通り、授業と帰りのSHRが終わってから部活に向かったはずだ。
その証拠にリョーマは青と白と赤の三色が入ったジャージ(男子テニス部レギュラー専用のものだ)を着ているし、愛用の白い帽子もかぶっている。
至極当然の梓紗の問いに、リョーマはバツが悪そうに眉を寄せた。

「梓紗──…」

そして梓紗の名を呼ぶ。
何かを堪えるような、怒りのような、悲しみのような、色々な感情がごちゃまぜになったような、僅かに震えた声。
梓紗はそんなリョーマに対して思わず目を見開き、おろおろとした様子で立ちあがった。
リョーマのすぐ傍に立つと、そっと彼の手を両手で包みこんだ。
幼い頃からテニスをしていたせいだろう、少しかたい手のひら。
リストバンドのはめられた彼の利き腕である左の手を両手で包みこんだまま、梓紗はそっとその手を自身の頬に触れさせた。

「…どうしたの?」

「…っ」

優しげな口調での問いに、何かのタガが外れたように思いきり梓紗を抱きしめた。
目を丸くする梓紗だが、突然のハグを突き放すわけでもなく──ごく自然に、彼の背中に腕を回す。

「……大丈夫だよ、リョーマ君。ね、何があったのか…教えて?」

ぽんぽんとあやすようにリョーマの背を、規則正しく軽くたたく梓紗。
リョーマは少しだけ迷うような素振りを見せた後、ぽつりぽつりと言葉を発した。






「───そっかぁ、大変だったねぇ」

全ての話を聞いた後、梓紗はまるで自分のことのように辛そうに眉を寄せていた。
彼が話をしている間も二人の距離が出来るわけではなく、常に抱き合ったままだ。
リョーマが姿をあらわしてからはしばらく経っているのだが、彼から聞く限り今のテニス部に彼に罰を与えるような人間はいないだろう。

「俺…。俺、どうすればいいんだろーね」

ふっと自嘲気味の笑みをこぼし、軽い口調で問うようなリョーマ。
けれどその口調とは裏腹に、"そのこと"をしばらく前からひどく悩んでいたことを、梓紗はよく知っていた。

「…私、先輩に話してくる」

「でも、」

「あのね、リョーマ君」

身体を離してから表情を引き締める梓紗に、リョーマは僅かに戸惑ったような声をかける。
すぐにふわりとした笑みを浮かべた梓紗は、大丈夫だよ、ともう一度リョーマの手を握りしめた。

「私たちはね、"頑張る人たち"のファンクラブなんだよ?今までは男テニレギュラーの人たちが一番頑張ってたから一番応援してたけど、今は違うもの。会長だって、会員だって、皆そう思ってる」

「……今から行くわけ?」

「うん。会長、この時間はまだいるから」

梓紗は、男子テニス部のファンクラブ会員だった。
そのことはリョーマもよく知っているし、そもそも彼女が会員でなければクラスも部活も委員会も違う梓紗との関わりはゼロに等しかっただろう。
といっても彼女がファンクラブに所属することになった理由は、別にテニス部に惚れたからとかそんな甘い理由ではなく友人に誘われたからなのだが。

「俺も行く。どーせ今から戻ってもすぐ終わるし…ってか、ホントは俺らの問題だしね」

「リョーマ君…。うん、わかった。もともと私たちの中でも問題になってたの。リョーマ君が直接頼みに来たってなれば…すぐに行動に移ると思うな」

「そりゃ頼もしいね」

ここ、青春学園中等部のファンクラブは、余所で騒がれるような少しだけ迷惑なファンクラブ会員たちとは少し違う。

まず、応援するのは"部活を頑張る人"。
ファンクラブの中にも部活動ごとに分かれていて、一番人数が多い男子テニス部の他にもバスケ部やバレー部、野球部、陸上や弓道などありとあらゆる種類があるのだ。
人数は少ないかもしれないが、全部活動のファンクラブに会員はいるのだろう。
運動部だけではなく文化部にもあり、別々のファンクラブを兼ねている者もいる。
主に女子がメインではあるが、男子の会員も多くいる、というのが他とは違うところだろう。
ファンクラブに加入するには全員専用のホームページに登録する必要があり、連絡が取りやすいようにメーリングリストにも登録する。
少しだけ面倒かもしれないが、会員同士のつながりも大切にするため必要なことらしい。
ホームページの管理人は代々会長が引き継いでおり、今の会長は確か48代目だったと記憶している。

要するに、"部活熱心な人たちを応戦する会"なのだ。
学園の9割が所属している大がかりなファンクラブ、もちろん教師たちも存在を認識しており、そしてその存在を許可している。
教師の中にも会員がいるらしく、学園全体をひっくるめて…という、まさしく非常に大きな組織なのだ。
決して顔がいいメンバーだけを応援するとか、あまり容姿の整っていない人だけを疎外するとか、そういったことはルール上許されない。
結果ファンクラブができてからは学園内でイジメそのものも消滅したらしく、むしろ教師たちからは信頼すらされているのだ。

ファンクラブの中で一番メンバーの多いのは、当然のように男子テニス部だった。
それは男子テニス部が全国に名をとどろかせるほどの強豪校で、毎日毎日熱心に部活に参加していたからだ。
定期的にレギュラーを決めるために行われる校内ランキング戦も、ファンクラブたちが固唾を飲んで見守る重要な恒例行事である。

──が、ここ最近は少し様子が変わってきていた。
以前までなら最も応援されていたのは男子テニス部の、レギュラーだっただろう。
しかし今は、応援されているレギュラーはリョーマだけ。
あとは平部員を応援するファンクラブのみがいた。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ