□心の広いひと
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※モブキャラ登場シーン多め。
名前固定:山田美樹。
夢主とリョーマ君が夫婦設定です。
上記のことが嫌だ、というかたはご閲覧の中断をおすすめします。




彼女の気持ちがわかる者は誰もいなかった。
それは彼女の恋愛価値について。
恋多きお年頃でもある彼女、山田美樹は現在12歳。
つい先日中学校に入学したばかりで、まわりの女の子たちは何組の誰君が格好良いだとか、何組の何ちゃんと何君が付き合っているのだとか、恋愛について興味津々だ。
そう、美樹も恋愛に興味があるのだ。
ただ──その相手は、他の女の子たちとは少し違ったのだが。

「ああ、もう。…カッコイイ!」

ほぅ、と頬を赤らめて"彼"を見つめる美樹。
ただその彼というのは、現実にいるわけではない、紙の上の存在。
そう、彼女の恋焦がれる存在というのは、漫画の登場人物。
所謂二次元の男の子だったのだ。

もちろん、美樹は自分が特殊であることを理解していた。
周りの女の子たちのように、現実にいる男の子へ恋をしようとも思っていた。
けれど恋心とやらは自分で思って芽生えるものではない。
故に彼女にとっての恋愛対象は現実的には存在しない二次元の相手。
つまり彼女にとっての失恋とは漫画の展開によって決まるのだ。

「…あら、美樹ちゃんじゃない」

「え?…あっ、梓紗さん!」

にっこりと笑って声をかけてきたのは、美樹の近所に住む奥さんだった。
プロテニスプレイヤー、越前選手の妻。
まだ若いため二人の間に子どもはいないが、ファンたちの間では時間の問題だろうともいわれている。
そんな有名人の奥様だが、美樹も梓紗さんと慕う彼女は近所でも良妻として慕われているのだ。

「こんにちはっ」

「こんにちは。どうかしたの?」

「えっ…。えっと、あの…す、少し相談したいことが…」

美樹は頬をほんのりと赤らめながら、僅かにどもりつつ問う。
梓紗は驚いたように目を瞬かせたが、すぐにふわりと笑みを浮かべてその申し出を了承した。



**********



どくん、どくんと激しく心臓が鼓動を奏でる。
美樹の目の前には、芳しい香りをたてる紅茶が置かれている。
驚きつつも美樹の申し出を了承した梓紗。
お気に入りだという紅茶を差し出し、ソファに腰をおろした。

「…それで、私に相談って?」

「あの…。梓紗さんは、越前選手と好き合って結婚したんですよね?」

「あ…うん、まあ、ね」

美樹の素直な問いに、梓紗は恥ずかしそうにはにかみながら答えた。
恥ずかしそうに頬を赤らめる彼女は、同性である美樹からしても愛らしいと思えるものだ。
だからこそ美樹は、愛し合って結婚したであろう梓紗に相談に来たのだ。

「あの…あたしっ」

「ん?」

優しく微笑む梓紗。
美樹は少しだけ躊躇うように言葉を切り出した。

「…あたし、少しおかしいんです」

「え?おかしいって、何が?」

美樹は紅茶の入ったカップを両手で抱えて、何かを逡巡するように視線をさまよわせる。
そうしてぎゅ、と目を瞑って半ば叫ぶように自分の秘密を訴えた。

「あたしっ!二次元の男の子にしか興味がないんですっ」

こんなことを言って、蔑まれるかも知れない。
ご近所さんからの信頼の厚い梓紗が一言いえば、あっという間に周囲に広がるだろう。
だが──

「何だ、そんなこと」

「…へ?」

梓紗の答えは、美樹の予想とは全く違うものだった。
ばっと顔を上げる美樹に、梓紗はうふふと微笑んだ。

「大丈夫よ。それくらい、受け入れてくれる人がきっといるわ」

「で、でも…」

「私もちょっとした変わり者だったんだけどね?…リョーマは受け入れてくれたわ」

梓紗が変わり者だなんて、想像すらできない。
美樹は不思議そうに首を傾げて「本当に?」と言いたげだ。
ふふ、と微笑み、梓紗は優雅に紅茶を飲んだ。

「まあ、漫画の登場人物が好きって人もいるわ。そこもひっくるめて好きになってくれる人がいるわ、きっと」

「でも…」

「それくらい心の広い人と付き合わなきゃ。後々苦労するわよ?」

クスクスと微笑みながら、口元に人差指をあてる梓紗。
と、突然リビングの扉が開いた。

「あ、あなた。おかえりなさい」

入ってきたのは、梓紗の夫でもあるリョーマだった。
立ちあがった梓紗は、リョーマに近づいた。
リョーマは身につけていたスーツのネクタイをほどき、ジャケットを梓紗に手渡した。

「ただいま。…お客さん?」

「そう。ご近所の美樹ちゃん」

「ああ…山田さんトコの。いらっしゃい、ゆっくりしてってよ」

梓紗の言葉に、美樹がどこの家の人なのか理解したらしい。
小さく微笑みながらいうリョーマだが、美樹は首をぶんぶんと横に振って慌てて立ち上がった。

「いえっ!あんまりお二人の邪魔をするわけにいかないので…!お邪魔しましたっ」

美樹は慌てて立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。
確かに夫婦二人の邪魔をしていると思っても仕方ないだろう。
梓紗は戸惑ったように頬に手を添え、「そう?」と残念そうにつぶやいた。

「…じゃあ、また、いつでも遊びに来てね」

「はい!お邪魔しました…っ」

美樹は手荷物を肩に下げ、梓紗に見送られて家を後にした。


「漫画の登場人物が好き、ねぇ。まるで梓紗みたいじゃん」

「あら、やっぱり聞いてたの?」

恥ずかしそうに頬を赤らめる梓紗に、リョーマは「まあね」と返事をした。
どうやら少し前から帰宅しており、二人の話をわずかに聞いていたらしい。

「言えばよかったじゃん。自分もアニオタだって」

「えー。良いわよ、別に」

リョーマの言葉にうふふと笑みを浮かべる梓紗。
そう、美樹も憧れる近所の奥様である梓紗は──美樹と同種のオタクだったのだ。
しかも、彼女が中学生の頃は二次元にしか興味がなかったという折り紙つきの。

「まったく。梓紗を落とすのにどれだけかかったと思ってるんだか」

「先に好きになったのはあなたじゃない。でもまあ、私はあなたにアタックされ続けなかったらいまだに未婚だったかもしれないけど?」

「だろうね。…おまえの趣味も全部ひっくるめて好きでいられるのは俺だけだよ」

リョーマはふっと口角を持ち上げたまま、自信満々にそう言った。




心の広いひと




(それにしても、美樹ちゃん今は何が好きなのかしら)
(××××?△▲△▲?○●○?)

(そうポンポン名前だしてくる梓紗も梓紗だよね)
((それで周りにバレないんだからある意味尊敬する))
 

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