□ホタルノヒカリ
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土日の休みを利用し、私はおばあちゃんの家に泊まりに来ている。
宿題もないし部活もない珍しい休みであるが、私としては複雑な心境だ。
なぜって、青春台から遠く離れた田舎であるここでは、彼に会えないからだ。
彼はきっと自宅で猫のカルピンと遊ぶか、テニスをするか、寝ているだろう。
それが大抵の休日の過ごし方だと以前聞いた事がある。
ところで彼、リョーマ君は毎日部活で忙しそうだが、いつ宿題や勉強をしているのだろう。
全くしていないとすればそれは凄い。
だってリョーマ君、いつも定期テストで学年上位なんだもん。
テニス上手くて運動神経抜群でカッコ良くて、その上頭もいいなんて人間不公平だと思う。
神はリョーマ君に二物も三物も与えた、なんて。

「愛海ー、ホタル見に行くわよー!」

「はーい!」

とりあえず今からお母さん達とホタルを見に行く。
リョーマ君にも見せてあげたいな、ここのホタルってすごくキレイだから。


先ほどまで書いていた日記帳をぱたんと閉じる。
シャーペンを机に置き、見られたくない日記帳を鞄の奥底にしまった。
もうとっくに日は暮れており、あたりを闇が包んでいる。
玄関に向かえば、お母さんとお父さん、お姉ちゃんが懐中電灯片手に待っていた。
遅いわよ、なんて悪態をつくお姉ちゃんだけど、私たち姉妹は別段仲が悪いわけではない。
むしろ2人で遊びに行ったりするし、他の人たちより仲が良いつもりだ。

「ほら、行きましょ。おばあちゃん達は足が痛いから行かないって」

「ふーん…」

おばあちゃんとおじいちゃんにとっては、もう闇夜のホタルなど見慣れたものなのだろう。
でも私たちは見慣れてなんかいないし、夏におばあちゃん達の家に来た時の楽しみでもあるんだ。

右も左も田んぼがある、細い路を抜ければ、その先には川があった。
お母さんとお父さんが手に持っていた懐中電灯の電気を消す。

「……あっ、いた!」

お姉ちゃんが突然声をあげた。
川の方に目を向けて目を凝らせば、闇夜の中に黄色に似た丸い灯りがあった。
それは私たちの目的のものであるホタルだ。
たしか飛んでいるのがオスで、止まっているのがメス。
闇夜に浮かぶホタルの光は幻想的で綺麗で、思わず息を飲み込んだ。
キレイだね、と隣でお姉ちゃんが言う。
ああ、やっぱりこの景色をリョーマ君にも見せてあげたい。
帰国子女の彼は、おそらくホタルを見たことがないだろうから。
リョーマ君がホタルを見たらどんな事言うのかな。
まだまだだね…なんて言いそう。
安易に想像が出来るリョーマ君に、思わず笑みが漏れた。





「でね、そのホタルがすごくキレイだったんだよ」

休日も過ぎて月曜日。
ホタルの話をすれば、案の定リョーマ君はホタルを見たことがないらしい。
ホタルについて説明してみれば、ふーん、なんて相槌を打って頬杖をついた。

「そんなに言うんなら見る価値あるかもね」

「うん、一回見るべきだと思う!」

私が答えれば、リョーマ君はニヤリと笑って口を開いた。

「じゃ、一緒に行こうか」

「へ?…あ、うん!」

ただの口約束。
リョーマ君の気まぐれだろうし、実行できないかもしれないけど。
…でも、いつかリョーマ君と一緒にホタルを見にいけたら。
そうすれば、きっと私は幸せだと思う。



ホタルノヒカリ


((ま、ホタルなんてどーでもいいけど…))
((どっかに誘うキッカケにはなったかな))
((ホントはホタル見たことあるけど、黙っとこ))

((うわー、リョーマ君と約束しちゃった))
((顔赤くなってないかなぁ…))
 

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