□周りは皆恋敵
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私、篠宮愛海にはそれはそれは素敵な彼氏がいる。
同級生である彼、越前リョーマとはクラスは違うが仲が良いと自負している。
リョーマは強豪だという男子テニス部で1年生内唯一のレギュラーであり、数々の大会でも活躍し、注目を集める選手だ。
その上帰国子女であるからと英語も堪能、他の教科でも抜群の成績を誇っている。
翡翠のまじった黒髪や、少しつり上がった琥珀色の瞳を持つリョーマは誰がどうみても端整な顔立ちをしている。

つまり、リョーマは大層モテるのだ。

「愛海、行くよ」

「あっ、うん!」

昼休みになると、リョーマは毎日のように昼食を持って迎えに来てくれる。
そのたびにクラスメイトの女子から送られるのは羨望と嫉妬の入り混じった視線。
もっとも、当然と言えば当然なのだが。
なぜなら、リョーマには1年生女子の実に99%が所属するファンクラブが存在するのだ。
勿論本人は知らない、非公式のものである。

弁当と水筒を持ってリョーマの待つ出入口のドアに向かえば、リョーマはクスリと微笑んで私の頭をポンポンと撫でた。
リョーマの彼女になってわかったのだが、リョーマは一途らしい。
テニスだって飽きることなく生まれた時から続けているし、リョーマがよく飲むファンタだっていつも同じものだ。
愛用メーカーのFILAの帽子だって、壊れたとしても全く同じものを購入している。
人に対しても一途かどうかはよくわからないが───彼女としては一途であって欲しい───私以外の女の話は聞いたことがない。
私とリョーマが交際しているのを快く思わない人は多いし、そんな話が実際あったとすれば確実に嫌がらせとして私の耳に届くはずだから。

私たちは天気が崩れていない限り大体毎日校舎裏の小さな庭のような場所で食事をとっている。
校舎裏にはリョーマがお気に入りだという巨木があり、そのちょうど影になる芝生の上で食べているのだ。
夏は暑いが、それでも木陰の下で風が吹けば気持ちいいため、私たちは大体同じ場所にいる。

「あっ、リョーマ君」

「えっ、リョーマ様っ!?」

校舎裏に向かう途中、リョーマの名前を呼んだのは同じクラスの女の子たちだった。
…竜崎さんと、小坂田さん。
長い三つ編みが特徴的な大人しめな竜崎さんと、ツインテールに泣きぼくろが特徴的な元気な小坂田さん。
2人は確実にリョーマに気がある。
だから私とリョーマが一緒にいると、必ず少し寂しそうな顔をするのだ。
同性の私からみても可愛い彼女達。
リョーマともそれなりに話をするから、ほんの少しだけ心配していたりする。

「何?」

歩みを止めたリョーマは、肩越しに振り向いて呼び止めた理由を問うた。
竜崎さんは嬉しそうに微笑み、頬を僅かに染めながら「あのね、おばあちゃんから伝えるように言われたんだけど…」と話し始めた。
それは私には理解出来ないテニス部の話だった。
竜崎さんのおばあさんは、この青学で教員をしており、男子テニス部の顧問なのだ。
必然的に竜崎さんとリョーマの間に接点は増える。
頬を染めながら話す竜崎さんは、やっぱり可愛らしかった。

「ちょっと、」

突然ぐいっと腕を引っ張られ、リョーマから引き離される。
小さく声をかけて来たのは、少し眉を寄せた小坂田さんだった。
小坂田さんはちょいちょいと手招きをし、私に耳打ちをしてくる。

「リョーマ様とは、上手くいってるの?」

小声で言われたのはそんな問い。

「まあ、それなりに…?」

「なんで疑問系なのよ」

呆れたように言った小坂田さんは、腰に手を当てて私にずいと顔を近づけた。

「いーい?もしちょっとでも隙があれば、リョーマ様はもらっちゃうからね!」

小坂田さんも竜崎さんも、一応私とリョーマの交際を応援している…らしい。
けれど自身の恋心を終わらせたわけではないから、私とリョーマが喧嘩でもしようものならその隙をつくのだと前々から何度も言われていた。
…小坂田さんなりの激励の言葉なのだろうと勝手に解釈している。

「無理だよ。だって私達、仲良いもん」

思わず浮かんだ笑みをそのまま告げれば、小坂田さんははぁと溜息を吐いて頭を抑えた。

「まったく、いつまでたってもチャンスが来ないじゃない……。もうっ、せいぜい仲良く過ごしなさいよっ」

小坂田さんはそう言うと、パタパタと足音を立てて竜崎さんに駆け寄った。
ちょうど話が終わったようで、リョーマは私の名前を呼んで手招きをしてくる。
リョーマの隣に駆け寄れば、リョーマはふっと笑みを漏らして歩き始めた。
何気なく後ろを振り返ってみれば、竜崎さんも小坂田さんも、微笑みながら私に手を振っていた。

…ああ、厄介なライバル達だ。



周りは皆恋敵



(さっき、何話してたわけ?)

(んー、ちょっとね)

(何それ…ま、いいけどさ)

(今日もいい天気だねー)

(…そーだね)
 

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