□少年Rの思考
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この世に生を受けて以来変えた事のないという、ポニーテールに結われた黒い髪。
ある程度着崩された、けれど違和感のない制服。
成績だって悪くないし良くもない、つまりど真ん中。
テストなんて全ての点が平均点っていうある意味凄い特技を持ったそいつは、どこからどうみても"平凡"な女子中学生だった。
地味すぎるわけでも派手すぎるわけでもなくて。
クラスでも目立つようで目立たない、目立たないようで目立つ、よくわからない存在。

俺とは180度とまではいかないまでも、100度近く異なるヤツ。

それが、俺の前の席でブラブラと足を揺らしているクラスメイトの篠宮。
下の名前は、確か愛海だったっけ。
今は一応授業中。
けれど担当である教師は耳も遠く視力も衰えた、よくやってられるなってほどの爺さん。
内容も古典っていうつまらないものだし、授業を真面目に受けるヤツなんてこのクラスにほとんどいない。
教師も教師で気にしていないのだろう、生徒に問題を当てたりとする事も無く淡々と話を進めている。
一部は寝ていて、一部は手紙を回していて、一部は隠れてゲームをして。
そして俺は、ぼんやりと篠宮の背中を見ていた。
開け放たれた窓から入ってくる風が時折、篠宮の髪をさらりと撫でていく。
………暇だ。
時々、本当に時たまごくごく稀に、篠宮の髪に指を通してみたくなる。
けどそんなに仲良くもない俺がそんな事をすればあらぬ噂を立てられる可能性だってある。
そーゆー噂、無駄に本気にするヤツとか多いから面倒なんだよね。
前は竜崎とデキてるなんてわけわかんない噂あったし…すぐ消えたけど。

ぼんやりと頬杖をつきながらあくびを漏らせば、突然篠宮が上半身を捻って振り返った。

「越前君、シャー芯ある?」

「…あるけど」

篠宮は片目を閉じ、顔の前でお願い、と言わんばかりに両手を合わせた。

「シャー芯もらってもいいかな?ちょうど切れちゃって…」

どうやら途中でシャー芯がなくなったらしい。
そのまま放置するのもアレだし、筆箱の中で眠っているシャー芯ケースを取り出した。
ん、とケースごと渡せば、篠宮は恩に着る!とか言ってケースからシャー芯を取り出す。

「……で、何をやったらシャー芯なくなるわけ」

この授業は生徒のやる気もなければ、おそらく教師のやる気もない。
だから板書なんてものは存在せず、今この授業中にシャー芯がなくなるのは授業に全く関係のないことをしているからと決まっているのだ。
篠宮はふふん、と笑いながらノートを差し出してきた。
そこに描かれていたのは、儚げに微笑む不二先輩。
……なんで不二先輩?
いや、確かに似てるし上手いけど。

「不二先輩、カッコいいよねぇ。だからついつい描きたくなっちゃうのよ〜。眼福眼福!」

確かに不二先輩はカッコいいと思う。
優しいし、モテるし、納得できる。
…けど、こいつが不二先輩の事を褒めるのはムカついた。

「……好きなんだ、不二先輩のこと」

思わず口からでた言葉。
一瞬キョトンとした表情を見せた篠宮はその言葉には応えず、シャー芯ありがとと再び前を向いてしまった。

ずきん、と痛んだ胸の正体を俺はまだ知らない。



少年Rの思考



((あー…てか俺、なんでこんな変態みたいなことしてんの))
((バカバカしい))
((さっさと寝よ……))
 

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