□だって好きだから
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あ、リョーマだ。
愛しくて愛しくてたまらない存在に、鈴のように可愛い声でそう言われた。
それは紛れも無く俺の大切な大切な彼女、愛海のものだ。
嬉々として振り返り、愛海の顔を見た瞬間──思わず固まってしまった。

「……リョーマ、あのね、えっと…」

愛海は綺麗に整った眉を寄せ、困ったような表情で俺に手を伸ばしてくる。
可愛い可愛い大切な愛海の頬は、まるで何かに叩かれたかのように赤く染まっていた。

「何それ」

「えっと………と、友達の手がたまたま当たっちゃって!」

明らかに言い訳じみたその言葉。
愛海の事は全てにおいて信じてやりたいけど、でもそれは愛海が傷ついていない時だけだ。
愛海は優しいから。
だからきっと、叩かれた相手をかばっているのだろう。
もしかしたら、脅されているのかもしれない。

「…愛海?俺には話せるでしょ。……それとも、俺にウソつくの…?」

眉を寄せ、傷心したように言えば、愛海はばっと顔をあげてぶんぶんと首を横に振った。
ああ、もう。
ホント愛海は素直で可愛いんだから。

「あ、あのねっ、えっと…」

愛海は非常に言いづらそうにどもりながらそう切り出した後、信じられない事を口にした。
要約すれば、俺と愛海が付き合っている事が気に食わない女に殴られたらしい。

はい、そいつ死刑決定。
俺の大事な大事な愛海に手ぇだしてただで済むと思うな。

「……あのね、リョーマ?」

「何?あ、愛海は何も心配しなくていいよ。俺に全部任せてくれれば大丈夫だからさ」

「っ…」

愛海は何か言いたげに口を開閉したが、結局何も言わずに俯き、小さくこくりと頷いた。
いい子、と頭を撫でてやれば、愛海はくしゃりと顔を歪めて泣きそうな表情を見せる。
それでも俺に心配かけたくないのかなんなのか、泣きそうな表情のまま無理矢理に笑みを浮かべていた。
…そんな、無理に浮かべた笑みですら愛おしい。

愛海、と名前を呼んで抱き寄せれば、愛海は素直に俺の腕に抱かれる。
ぎゅ、と袖を握ってくる愛海はどこか悔しそうで──それがまた、俺の中の加虐心をますます掻き立てるのだった。

普通の男なら、彼女に対しては笑顔が1番似合うとか言うんだろうけど…俺は違う。
俺が1番愛海に似合うと思う表情は、泣きそうになりながらも笑みを浮かべる、歪んだ表情だ。
それが何より愛海に似合う。
もちろん普通の笑顔も好きだけど。
…てかまぁ、俺が愛海を嫌うわけないし嫌いな部分なんてあるわけないし?
とりあえず、愛海とじっくり話してから女シメようかな。
どんな方法にしよう、そう考えては愉しんでしまう俺はやはり桃先輩が言うように歪んでいるのかもしれない。



だって好きだから



((好きなヤツのために生きたいと思うのは至極当然のことじゃん?))
((ただ好きなだけなのに、何が悪いわけ?))
((少なくとも俺はただ全力で愛海を愛してるだけ))
((もちろんそれはこれからも変わらない))
 

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