□七夕の日
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7月7日は日本だけでなく台湾、中国、韓国、ベトナムなどにおける節日の一つである七夕の日である。
国によって祝い方に違いはあるが、日本では短冊に願い事を書いて笹に飾るのが一般的とされている。
つい先日、籍を入れた事により苗字が越前に変わった愛海もまた、七夕はお祝いすべき日であると考える人物だった。

「ねっ、リョーマ!」

「……何言ってんの、ガキじゃないんだから」

折角だから短冊に願い事を書いて笹に飾ろう。
そんな事を言いだした愛海に、リョーマは非常に呆れたような表情を見せた。
そんなリョーマの反応に、愛海はむっと唇をとがらせる。

「何よ〜…。昔は付き合ってくれたのに」

「今の年を考えなよ。普通に俺ら成人してるんだけど?」

盛大な溜息を吐くリョーマ。
愛海はむっとした表情のまま、手に持った短冊をそのままにソファにどさっと座り込んだ。

「…ちょっとぐらい良いじゃん」

不貞腐れたようにソファの肘掛に頬杖をついた愛海は、ふい、とそっぽを向いてしまった。
リョーマはそれを横目に見つつ今日何度目かわからない溜息を吐いた。

「何不貞腐れてんの。今まで何回も付き合ってやったと思ってるのさ」

「………」

「その程度で拗ねんなって…」

リョーマの言葉に反応を示さない愛海に、リョーマも一瞬眉を寄せる。
しかし次の瞬間にはクスリと笑みを浮かべていた。

「……もういい。勝手にしなよ」

それでもリョーマはまるで心底腹が立ったと言うようにソファを立ち上がり、リビングを出て行ってしまう。
ばたんっ!と閉じられた扉に、愛海は吃驚したようにリビングの扉に目を向けた。

「…リョーマ?」

姿の消えたリョーマの名前を不安そうに呟いた愛海は、慌ててリビングを飛び出した。
リビングから続く廊下の先には玄関がある。
リョーマはトントンと靴先で地面を蹴り、靴を履いているところだった。

「ちょっ、リョーマ!?」

「…折角の休日に付き合ってらんない」

「どこ行くの…?」

リョーマはチラリと愛海に視線を向けるだけで何も応えず、そのまま玄関を出て行ってしまった。
無慈悲にばたんと閉まった玄関の扉。
愛海は絶望に満ちた顔でその場に崩れるように座り込んだ。




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