□箱庭恋愛
1ページ/1ページ





ずっと前から好きな人がいる。
彼は私の1つ下で、学園では知らない人がいないというくらいの有名人。
帰国子女で、テニス部のレギュラーで、クールで、ファンクラブまであるくらいモテモテだ。
当然彼に好意を寄せている女子生徒なんて腐るほどいるからか競争率が半端ないことになっている。
部活動で疲れているから休み時間はゆっくり寝たいだろうに、彼の周りにはいつもあっという間に人だかりができるようでうるさいから眠れないらしい。
だから静かな授業中についつい転寝をしては先生に怒られるのだとか。
彼の周囲の女子生徒たちはお構いなしのようだ。
自分の気持ちしか考えない人が、彼の気持ちを手に入れられるわけないのに。

ちなみにその彼、越前リョーマは私のイトコである。
家は徒歩1分以内の超ご近所さんで、昔から家族ぐるみの付き合いがあるからか仲がいいつもりだ。
まぁ、家に帰るとまずどちらかの部屋に入り浸ってたまに一緒に寝たりするんだから仲が悪いわけはないんだけど。

で、今リョーマは私の部屋にいる。
昔はリョーマのこと、弟としてしか見られなかったのに。
…いったい、いつから意識するようになったんだっけ?

「……愛海姉さん?」

「んー?」

とはいえリョーマも私のことは姉としか思ってないみたいだけど。
私のベッドに寝転がって雑誌を読んでいたリョーマに呼ばれて振り返る。
リョーマは雑誌を読み終わったのか、ベッドに座ってじっと私のほうを見ていた。

「どうしたの?」

「…喉渇いた。なんか飲むものある?」

「あー…冷蔵庫にファンタがあったから、持ってくるね」

「ん、ありがと」

リョーマはそれが言いたかっただけなのか、再びベッドに寝転がって雑誌を開いた。
ああ、もう。
こんな憎たらしいはずの態度すら許せてしまうなんて相当だ。



******************



ずっと前から好きな人がいる。
それは昔から家族ぐるみの付き合いをしている愛海姉さん。
家も近いし、年ごろとはいえ昔からの知り合いだからと俺は愛海姉さんの部屋に堂々と入れて、姉さんもたまに俺の部屋に来る。
ちょっと前までは一緒に風呂とかも入ってたけど、さすがに今それやったら俺死ぬ気がするから最高でも一緒に寝るくらい。
まあ、寝るときの癖なのか俺を枕と勘違いしてるのか寝惚けて抱きついてくるのだけは心臓に悪いんだけど。

部屋に入った瞬間に鼻孔をくすぐるのは愛海姉さんの匂いで。
ベッドに寝転んでるときが一番いい匂いがする。
香水みたいに人工的なものじゃなくて、でも花みたいな自然のものでもない、説明はできないけどとにかく愛海姉さんの匂い。
変態みたいな言い回しになるけど、この匂いが近くにあるだけで安心するっていうか嬉しくなるっていうか…。
だから俺は姉さんの部屋の中で、姉さんのベッドの上が一番好き。

「お待たせー」

階段をあがってくる音がすると思ったら、姉さんが部屋の扉を開けて中に入ってきた。
お盆に乗せられているのは2つの氷が入ったグラスに、ペットボトルのファンタ。

「ありがと」

「どういたしまして」

姉さんは綺麗好きだ。
だからベッドの上で何かを食べたり飲んだりする行為が嫌いらしい。
ベッドから降りれば、姉さんはテーブルにグラスを置いてファンタを注ぎ始めた。

喉渇いたってのは姉さんを振り向かせたくて咄嗟に出た嘘だったのでそれほど喉が渇いているわけではない。
けれどせっかく姉さんが取りに行ってくれたんだから飲まないわけにもいかない。
渡されたグラスに口をつければ、姉さんは同じく注いだグラスを手に持ちながら俺の名前を呼んだ。

「何?」

「…リョーマはさ、」

そこまで言ってから口をつぐむ姉さん。
何かを言おうとしているが、それを言ってもいいのかどうか悩んでいるようだった。

「……いつまで、ここに来るの?」

「は?」

「だからっ…!あとどれだけ私の部屋に来るのかってこと!」

愛海姉さんはなぜか少し泣きそうで、それはつまり遠まわしに来なくなったら寂しいって言ってるんだろうか。
…うん、そうとしか解釈できないよね。
まあ勘違いでもいいや、どうせ俺が姉さんのこと好きなのは今更だし、てか姉さん本人以外知ってるし。
姉さんの手からグラスを取り、テーブルに置く。
わずかに涙を浮かべている姉さんが可愛くて愛しくて、思わず押し倒してしまった。
へっ、とか、うそっ、とか声を出す姉さんに思わず笑みが漏れる。

「愛海姉さん、安心してよ。…俺、一生姉さんから離れる気なんてないからさ」

「え」

「好きなヒトと一緒にいたいって思うのは普通でしょ?…てかまあ、おばさんとおじさんにも愛海をよろしくって言われてるし」

姉さんはそこでようやく俺の言葉の意味を理解したのか、今度こそ本当にぽろぽろと涙を流した。

「だからさ、俺はこれから先もずっとここに来るよ。…ダメ?」

「ダメじゃ、ない…」

「そ。よかった」

さすがに姉さん押し倒して見下ろしてて、その上涙目で顔が赤い姉さんに跨ってる状態じゃ理性が持たない。
姉さんの額にキスを落としてから体を起こし、残っていたファンタを口に含んだ。

あんなこと言っておきながらきっと俺の顔は真っ赤だろう。
…ああ、情けない。
情けないけど、でも、姉さんも同じく顔真っ赤にしてるし、想いは伝わったかなってことでよしとする。



箱庭恋愛



((わー、わー、あんなこと言われちゃったんだけどどうしよう!))
((どうしようどうしようリョーマかっこよすぎる!))

((うわー言っちゃったよ馬鹿か俺))
((おじさんとおばさんにもよろしくって言われたとかいらないだろ))


((((穴があったら入りたい…!))))
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ