神の愛娘。

□第五話
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月曜日。

教室に入り、席についた瞬間大勢の女子に囲まれた。

「ちょっと姫路さん!これどーゆーことよ!!」

そんな事を言ってきたのはクラスメイトの、栗色の髪の可愛らしい子。
確か…天宮玲子(あまみやれいこ)さん。
バンッ、という音とともに机に置かれたものは写真。

「…え、これ…」

写真を手に取り、見るとこの前の(リョーマ君曰く)デートをしていた時のものだ。

「これ、越前くんと姫路さんでしょ?二人っきりってことはデート!?」

天宮さんが顔を近づけてくる。

「えっと…」

何といえば良いのかが分からずどもる。

と、突然手に持っていた写真が誰かにとられた。

「へー、よく撮れてんじゃん」

「あ、リョーマ君…おはよ」

「はよ。…で、何やってんの?」

私に挨拶をしてから天宮さんを睨むリョーマ君。

「越前くん、姫路さんとどういう関係なの!?」

「アンタに関係ない」

リョーマ君はバッサリと切り捨ててから写真を持ったまま席につく。

「2人って、付き合ってるの…?」

「だから、アンタに関係ないじゃん。何回言わせるわけ?」

リョーマ君はそう言って頬杖をつく。
これで無駄な騒ぎは収まるだろう。

「…っあたしが関係を聞いてるのは!二人を応援したいからなの!」

が、誰も予想しなかったであろう事を天宮さんは言った。
いや寧ろ叫んだ。
おかげでクラスメイトに注目されている天宮さん。

「…は?」

リョーマ君は唖然と天宮さんを見上げる。

一方の天宮さんはといえば握り拳をつくっていて、どうやら本気のようで。

「姫路さんと越前くんってお似合いだと思うし、噂じゃ斎藤加奈も越前くんを狙ってるって話だし!
あ、もちろん、ファンクラブとも話はつけてあるわ!安心してちょうだい!
少なくとも、温厚派のファンクラブは二人を応援してるから!」

嬉々として語る天宮さん。
ちょっと待って、応援ってなんだ。

「ふーん…だってさ。どーする?瑠璃」

リョーマ君がニヤリと笑いながら私を見る。

「どうするって言われても…」

「まあ、邪魔するわけじゃないならいいんだけどね。
天宮…だっけ?あの人の事知ってるんだ?」

「あの人…?」

リョーマ君は天宮さんに問う。
しかし、私とリョーマ君の間で通じるあの人呼びは、天宮さんには通じないようだ。

「斎藤加奈…先輩の事。名前だしたくないからそうやって呼んでるの」

私が言えば、納得するように頷いた。

「えっとね、転校初日でテニス部マネになったミーハー女って有名なの。
しかも、男子と女子の前じゃ態度違うらしいし、男子もイケメンじゃないと態度悪いみたいだし、いい話は聞かないよ。
なんでレギュラーはメロメロなのかって皆不思議がってるの」

メロメロって死語じゃないの…?
せめて首ったけとか言おうよ。

「やっぱミーハーなんだ?」

「そう!しかも“レギュラーは加奈の王子様なんだから、手を出したら許さないわよ”って言ってるらしいよ」

イタイ人だ。

「気持ち悪い」

リョーマ君が顔をしかめて言った。

「…それはそうと天宮さん」

まあ、ひとまずその話は置いておこう。
私が天宮さんを呼べば、可愛らしく首を傾げる。

「なぁに?」

「チャイム鳴るよ?」

「え」

私がそう言った瞬間、HR開始のチャイムが鳴り、担任が入ってきた。

天宮さんは名残惜しそうにバタバタと足音をたてて自分の席に戻った。



SHRが終わると、天宮さんが二度やってきた。

「さぁ、あたしに全てを話すのよ姫路さん!越前くんでもいいわ!」

「アンタに話をする意味がわかんないんだけど」

やっぱりリョーマ君が切り捨てる。

「応援のためなんだってばー…二人を応援し隊だって出来てるんだよ?」

「なにそれ怖い」

主にファンクラブが。

…あれ?私、いつイジメられてもおかしくない状況だよね?

死亡フラグ確定?

「で、二人は付き合ってどれだけたつの?」

「付き合ってないよ」

リョーマ君が間髪いれずに答えた。

「…え?またまたー、そんな嘘つかなくても」

天宮さんはそれを信じていない。

「嘘ついてもしょーがないでしょ。まだ付き合ってないんだよ、一回で理解してくんない?」

天宮さんは顔を歪める。

「え、じゃあ、何?姫路さんはリョーマ君の彼女候補ってだけなの?」

おいおい天宮さん。
その言い方じゃあ私がリョーマ君の彼女ポジションを狙ってるみたいじゃないか。

「違う。俺が瑠璃の彼氏候補なの」

リョーマ君が訂正を入れてくれた。

「…そういうことか。でもまあ恋人になるのは時間の問題ってわけね!了解了解、皆にそういっておくよ」

「皆って誰」

「もっちろん二人を応援してるメンバーよ!じゃあ言ってくるわね!」

そういって天宮さんは教室から走り去った。

「…嵐が過ぎ去るってこういう事なのかな」

「そうなんじゃない?」

私の呟きをリョーマ君は拾ってくれた。
あれ、独り言のつもりだったんだけどな。
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