神の愛娘。

□第八話
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モヤモヤとしたわだかまりを抱えたまま、合宿の日が来た。

いつものようにリョーマ君を電話で起して、集合時間までに余裕を持ってつけるように家を出る。

…きっと、リョーマ君は時間ギリギリなんだろうな。

それから、バスの中で寝たりして。

安易に想像がついたリョーマ君の姿に一人で笑みを浮かべた。

傍から見たら変な奴かも知れないけれど、口角が上がるのが抑えられなかった。


こんな変な顔は誰にも見せられないな、と思い持ってきた本を開く。

一応マネージャーだし、仕事はするけど。

私は文芸部員なのだから作品を執筆したり読んだりする権利はある。
もちろん、いつでも執筆できるようにパソコンも持ってきた。
先生に許可は貰ってるしね。

今回は大荷物にならないようにと本を持ってこれなかったから、たぶん執筆ばっかりしてると思う。

本を読みながら歩いていると、あっという間につくもので。
集合場所である校門前には、まだ誰もいなかった。

「…姫路さん?おはよう、随分早いね」

「大石先輩。おはようございます…そうですね、時間に余裕を持ってつきたかったので。そういう大石先輩こそまだ集合時間の30分前ですよ?」

「あはは、集合時間より早めにつくようにしてるんだ」

「ああ、わかります。遅刻してしまうよりは早くついて待っていたほうが良いですものね」

「そういう事だよ」

大石先輩と軽く話しをして、再び本に視線を戻す。

「手塚。おはよう」

「おはよう」

大石先輩の声とは別の声が聞こえたので顔をあげる。

「…あ、手塚先輩。おはようございます」

「おはよう。随分早いな」

「大石先輩にも言われました」

「そうか」

手塚先輩に挨拶をしてから、大石先輩と二人で打ち合わせのようなことをし始めた。
私は全くもって関係ないので本を読み進める。





一冊読み終わったところで顔をあげると、おおよその人が来ていた。

「…ようやく気づいたようだな」

「…すみません、全く気づきませんでした。おはようございます」

「おはよう」

「よ、お前よくそんな分厚い本読めるよなー」

「フシュー…」

乾先輩、桃城先輩、海堂先輩、不二先輩、菊丸先輩。
手塚先輩や大石先輩は既に来ていたので、後はリョーマ君とあの人のみという事になる。

「チーッス」

集合時間の5分前でリョーマ君が来た。

「おチビが遅刻しないなんて珍しいにゃー」

「そっすよね!越前って完璧遅刻組じゃねーか。いけねーな、いけねーよ」

菊丸先輩、桃城先輩が茶々を入れる。
…遅刻しないなんて珍しいってどういう事。

「…まさかリョーマ君、いっつも私が起してから二度寝してるんじゃないでしょうね…?」

「………」

笑顔で聞いてみれば、リョーマ君はバツが悪そうに帽子を下げた。

「毎日モーニングコールしてるんだからちゃんと起きなさい!まさか、大会で遅刻した、なーんてことはないでしょうね?」

「………」

「あるんかいっ」

クソ、リョーマ君め…。

「何のために私が毎日起してあげてると思ってんのよ。遅刻しないためでしょーが、ちゃんとテニスできるようにでしょーが。今度遅刻したって話聞いたら起さないからねっ!」

「…気をつける」

と、突然後ろから笑い声が聞こえた。

「ク、クク…っ」

「何笑ってるんですか不二先輩」

「いや、ごめんごめん。キミ達二人が新婚みたいな会話するから」

「してねーんですけど!?」

「前より遅刻の回数が減ったのは瑠璃ちゃんが起してたからなんだね」

なぜナチュラルに名前呼び。

「…まぁ、そうですけど。ところでもう集合時間ですよね」

「うん、そうだね」

「加奈がまだ来てないにゃー」

「寝過ごした可能性89,2%…」

…オイオイ、マネがそんなんでいいのか?

「みんなぁ〜!」

直後、あの人の声が聞こえた。
思わず体が強張る。

「…瑠璃」

小さく名前を呼ばれ、リョーマ君に近づく。
リョーマ君はそっと私の手を握ってくれた。

「ごめんねぇ、お化粧に時間かかっちゃってぇ…」

「…以後気をつけるように。ではバスに乗ろう」

今回のバスは氷帝の部長さんが用意してくれたんだって。
お金持ちだね。

…ちくせう金持ち爆発しろ。
とか思った私は悪くない。
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