短編集

□日常的愛情思想
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澪の作る昼飯を食い終わり、俺たちは一緒に比較的近くにあるショッピングモールに向かった。
そこは以前に澪の服を購入した時にも利用した場所である。
澪は相変わらずキョロキョロと挙動不審になっており、人混みが苦手なのか俺の後ろに隠れている。

「澪、どんな服がいいわけ?」

『とくにこだわりは』

メモ用紙を見せてくる澪。
特に何でも良いというのなら、そこら辺の店舗でいいだろう。
すぐ近くにある店に澪の手を引いて入った。
やはり年頃の女だからか、店に入った途端に澪は服を物色し始めた。
気に入った服があったのか、澪は衣服を持って試着室に入っていく。
女ばかりがいる店で俺はそれなりに視線を集めるが、視線を無視して澪を待っていた。
シャッ、と開いたカーテンの先にいたのは新しい衣服に身を包んだ澪。

デニム生地のワンピースの裾には白いレースがついていて、どこか可愛らしさも感じさせるものだった。
どうですか?と言わんばかりに俺を見つめてくる澪。

「似合ってんじゃん」

そう言えば、澪はまるで花が咲いたようにぱぁっと笑った。
結局澪が購入したのはそのワンピースとベルトだけで。
他にも買えば良かったのにと言えば勿体無いからという返答が来た。
目的のものは買ったけど、このまま家に帰るのもつまらないからと渋る澪の手を引いて近くの喫茶店に入る。
実は買い物以外で外でゆっくりするのは今まで一度もなかったのだ。
人目を気にしているのかもしれないからと店の一番奥の角を陣取り、澪を奥に座らせた。

『こんなお店入って大丈夫?服だって買ってもらったばかりなのに』

「俺が来たかったんだからいいの。それとも俺とこーゆー店来るのはイヤ?」

『そうじゃないけど』

「じゃあいいじゃん」

俺の言葉に澪は黙り込み、注文したミルクティーを口に含んだ。
お茶請けとして注文していたクッキーを一口食べる。

『リョーマさんの方見てる人たちいるんだけど知りあい?』

視界に入って来たメモ用紙に、澪が指差す先に視線を向けた。
そこにいたのは竜崎と小坂田で。
俺と隣に座る澪を見て目を見開いていた。

「り、リョーマ様!?」

「リョーマ君!?」

うるさいのが来た。
澪はその剣幕に怯えたのか、俺の服を掴んで額を俺の腕に押し付けて来た。

「ちょっとアンタ!リョーマ様に近づいてんじゃないわよっ!離れなさい今すぐ!」

指を差す小坂田に、澪はガチガチと歯の根を鳴らし、身体を震わせていた。
訝しげに眉を寄せる小坂田を睨みつければ、小坂田と竜崎は肩を揺さぶった。

「澪、大丈夫?」

なるべく優しく問えば、澪は小さくコクリと頷いた。
…これは大丈夫じゃないな。
幸いにも飲み物は互いに無くなっていたし、クッキーは数枚しか残っていない。
伝票を持って立ち上がれば、竜崎と小坂田は後退した。

「帰るよ」

俺の言葉に澪は頷き、顔を隠すように俯いて俺の後についてきた。



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