□not trustworthy
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※夢主以外に逆ハー少女がいます。名前固定:河合香奈。
立海R陣が夢主に対して冷たいです。
「そんなの嫌!」という方は、ご閲覧の中断をお勧めします。



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私の友達は、百人中百人が振り返るであろうほど可愛らしかった。
俗にいう美少女というやつだ。
漫画の世界から飛び出してきたのではないかと真面目に問いたくなるほどの彼女と、そこらへんにいるであろうふっつーの見た目の私。
隣に並ぶにはあまりに不釣り合いな私たちが友達…彼女曰く親友という関係になったのには、まあ、いろいろある。

至極簡単にいえば、彼女に懐かれました。

彼女、河合香奈ちゃんはこの立海では圧倒的人気を誇る男子テニス部のマネージャーだ。
だってイケメンばっかだもん、人気もあるにきまってる。
それに香奈ちゃんは可愛いから、レギュラーの先輩たちにもひどく溺愛されているのだ。
結果、紅一点の香奈ちゃんは女子生徒たちの嫉妬の対象となった。
天然の気があるからか自覚はなかったようだけど、私からすればアレは完璧にイジメだった。
まあ暴力に訴えなかっただけマシだけど。
香奈ちゃんを空気のように扱って無視したり、あからさまに避けたり、仕事を押し付けたり、体育では最後までペアを作らせないようにしたり。
香奈ちゃん曰く「たまたまだよー」らしいけど、明らかに意図的なものだと思います。
けれどそんな香奈ちゃんも、さすがに自分にまともに友達と呼べる人がいないと気が付いたらしい。
私が懐かれたのは、単純に友達がいないことを悲しんで泣いていたところに遭遇したからだ。

だって美少女だよ?
美少女が涙目で、たまたま通りかかった私を見上げるんだよ?
美少女の上目遣いだもん無視できるわけないよね。
ということでその日は偶然母に言われて持っていたハンカチを差し出したところ、ひどく懐かれてしまったというわけだ。

「だから、ね?お願い梓紗ちゃんっ」

顔の前で手を合わせて、お願いお願いとごねる香奈ちゃん。
他の女子ならしつこい!と怒鳴りつけられるんだけど、生憎私は可愛い子には弱いのだ。
立海って制服も可愛いし、女子のレベル高いんだよね。
香奈ちゃんはその中でも別格。

「香奈ちゃんの誘いっていうのはすごい嬉しいんだけど、それだけはちょっと…」

「大丈夫だよ、先輩も優しいし!一回でいいから来てくれたらわかると思うの、ね?ね?」

香奈ちゃんが必死そうに頼み込んでくるのは、とあるお誘いだ。
一緒に男子テニス部のマネージャーをしないか、という他の女子であればものすごく喜ぶであろう内容。
だけど生憎私はそんなものに興味なかった。
だって面倒だし。

「だから…」

「ホントに大丈夫だから!いこっ」

「ちょっ…!」

香奈ちゃんの残念なところは、人の話を最後まで聞いてくれないことだ。
いくら可愛くてもそこはムカつくぞ。……ごめんやっぱり可愛いから許す。


「…というわけで、親友の梓紗ちゃんです!」

結局、強制的に連れて来られたテニス部のコート。
香奈ちゃんは完全に私をマネージャー仲間にするつもりらしいけど、どう考えてもレギュラーの先輩たちからふざけるなオーラが出てますよ。

「香奈、ええと、どういうことかな?」

にこりと笑いながら、髪が軽くウェーブした先輩らしき人が問う。
香奈ちゃんはさらに可愛らしい笑顔を浮かべ、ぎゅうと私の腕に抱き付いてきた。
おおふ、香奈ちゃんの豊満なお胸が…。
い、いや、別に私小さくないし。普通だし。香奈ちゃんが大きいだけだし。

「この前、精市先輩が言ってたじゃないですか!わたしの信頼できる子ならマネージャーにしてあげるって。梓紗ちゃん、わたしの親友なので!」

うん、そのセーイチ先輩とやらの言葉は冗談だったんじゃないかな、たぶん。
香奈ちゃんはつい先日までまともに友達がいなかったし、きっと連れて来れないだろうと見越しての言葉だと思う。
けれど──そこに私が現れたせいで、その冗談は冗談として成り立たなくなったのだろう。

「……そう。香奈がそこまで言うんなら仕方ないね」

「ちょ、部長!?何言ってんスか!」

ふぅ、と悩ましげな息を吐きながら返事をした先輩に、もじゃもじゃ頭のひとが声を荒げる。
ええと、確か部長さんが幸村とか言ったっけ。
香奈ちゃん以外の友達もテニス部に興味ない子が多かったからなー、正直全員の名前把握してないんだよ私。

「…じゃあ、これから頼むよ、神野さん」

「はぁ…」

えー、もじゃもじゃさんみたいに反対してくれないの?
あれか、俺の愛する香奈の言葉は絶対だ!的な精神なの?意味わかんね。
明らかに歓迎ムード…ではない中、香奈ちゃんだけは空気が読めないのか「やったね梓紗ちゃん!」と抱き付いてきた。

ぜんっぜん嬉しくないんですけど。

香奈ちゃんは本当に嬉しそうににこにこと笑いながら、仕事を教えるね!とぐいぐいと私の手を引っ張る。
美少女って他の子がやったらムカつくようなことでも許せるから不思議だよね。
背中にびしびしと突き刺さる不快そうな視線に、はぁ、と溜息を吐くしかなかった。



*****************



マネージャーをやらされるハメになって1週間。
香奈ちゃんも経験していたであろういじめが私にも飛び火するようになっていた。
まあ唯一香奈ちゃんと違うことといえば、香奈ちゃんのように天然ではないから私が嫌われている自覚があることと、テニス部の盾がない分好きにできるということだろう。
ぶっちゃけ香奈ちゃんよりひどい目に遭ってると思うよ私。
今日なんて思いっきり蹴られたからね。
マネージャー辞めなさいよ!って言われても、辞めたいのはやまやまだけど香奈ちゃんに泣きつかれたら辞められるわけないじゃない。
香奈ちゃんより辞めるように言ってきたお姉さま方のほうが可愛かったらいうこと聞いてたかも。
いや香奈ちゃんより可愛い女の子なんてまだ見たことないけど。
しかも部活前に呼び出されたから…時間的にもう練習始まってるよね。
そっとコートを覗き込んでみれば、予想通りというか、すでに練習は始まっていて。
あーこれ完全アウトコースですね。

「…あ、梓紗ちゃんっ」

そして黙っていてくれればよかったのに、私に気が付いた香奈ちゃんが大声で私を呼ぶのだ。
おかげで気づかれずにそっと仕事を始めよう作戦が大失敗だちくしょう。

「神野さん。わかってるとは思うけど遅刻だよ」

「すみません」

「どうして遅れてきたの?」

冷やかに私を見つめる部長の隣から、不思議そうに問うてくる香奈ちゃん。
立海での唯一の癒し。

「ちょっと呼び止められちゃって。つい話してたら…」

嘘は言ってない。
部活行く前に無理やり腕引っ張られて忠告という名のお話をしてたから。
まあ、納得されるなんて思ってないけどね。
これが香奈ちゃんなら許されるんだろうけど、遅刻したのは私だから。
先輩たちはどう考えても私のこと嫌いだしね。

「なんだぁ、そうだったんだ!じゃあしょうがないですよね、精市先輩っ」

「え?…ああ…うん、そうだね」

部長は実にいやそうな表情で、「今回は香奈に免じて許してあげるよ。次はないからね」と告げてきた。
香奈ちゃんの言葉なら嫌いな奴に対しても許すしかないんですかそうですか。
私としては助かるけどさ。

「じゃ、行こうか梓紗ちゃん」

「…そーだね」

どうやら香奈ちゃんは今まで仕事をしていなかったのか、わざわざ私の手を握りながら笑いかけてきた。
…先にしてくれてたらちょっとは助かったんだけど、なんて言っちゃだめだよなぁ。



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