□not trustworthy
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マネージャーの仕事にも、レギュラーから嫌われるのにも、お姉さま方の呼び出しにもようやく慣れてきた。
お姉さま方が呼び出しをしてくるのはだいたいが休み時間か部活の前で、おかげで私は部活の遅刻常連者というくくりになってしまった。
まあ、別に真面目にやりたいわけじゃないしどう思われても構わないんだけど。
わざわざ呼び出しになんて応じなければいいんだろうけど、ねぇ?
呼び出しをしてくるのは女の子だし。
私、基本女の子の誘いは断らない主義なんだよね。
暴力に訴えてくるのも極々一部だけだから、いい加減にしてよっ!と顔を真っ赤にしながら怒鳴ってくる彼女たちなど可愛らしいものだ。
もちろん香奈ちゃんには負けるけど。


「合同練習?」

「そう!精市先輩が言ってて、正式な発表はまだみたいなんだけど」

そんな中、香奈ちゃんの口から飛び出てきたのは、他校との合同練習が行われることになったというものだった。
部長直々に教えてもらったらしく、他の部員に伝わるのは本当はもう少し先らしい。
ま、彼自身もまさか秘密だよと教えた香奈ちゃんから、私に伝わるなんて思いもよらなかっただろう。

「……ね、梓紗ちゃん」

「んー?」

先ほどまでにこにこと笑っていた香奈ちゃんは、唐突に表情を変えて声を潜める。
どこか心配そうな眼差しに首を傾げれば、香奈ちゃんは言いづらそうにゆっくりと口を開いた。

「梓紗ちゃん、もしかして…みんなとうまくいってないの?」

驚いた。
人類みな友達…とまではいかないまでも、博愛主義っぽい鈍感な香奈ちゃんがそんなことを言い出すなんて。
それとも、香奈ちゃんが気づくくらいには私が嫌われているのか。

「私と香奈ちゃんが仲良いから、嫉妬してるんじゃない?ほら、先輩たちみんな香奈ちゃんのこと大好きだし」

「えっ…そんなことないと思うけど…」

ほんのりと頬を赤らめた香奈ちゃんは、私と仲がいいというところに反応したのか、みんなに好かれていると言われたことに反応したのか。
実際、先輩たちが私を嫌ってるのはその理由が大半だと思うんだよね。
それか素直に私を生理的に受け付けないか。

嫌われても平気、なんて気の強いことは言わない。
だってチキンですから。
人から嫌われるのは悲しいし、正直傷つく。
でも…あの人は、絶対私の味方になってくれるから。
だから、耐えられるんだよ。
香奈ちゃんも私と友達でいてくれるしね。

「ところで、合同練習ってどこと?」

「えーっとぉ…確か、東京の学校だよ!」

学校名は聞いたらしいが、東京にあるということしか思い出せないらしい。
うんうんと必死に思い出そうとする香奈ちゃんが可愛くてつい笑みを漏らせば、香奈ちゃんは「なんで笑うのー!」と頬を膨らませてしまった。


「…というわけで、今週末は青学と合同練習をすることになったからそのつもりでね。練習とはいえ、立海が王者であることに変わりはない。みんな、無様な姿は見せられないよ」

香奈ちゃんから話を聞いた、数時間後。
今日の練習が終わるというときに、部長からそういわれた。
セーガク…どこかで聞いたことあるな。どこでだっけ。
立海と合同練習ができるってことは、それなりに強豪のはずだけど。
…ま、いっか。どうせ考えたところで思い出せないんだし。

集合時間はいつもより30分早いらしく、遅刻などしないようにと念を押す部長。
私にも視線が向いているから、主に私に向けて言っているのだろう。
遅刻するのはお姉さま方に呼び出されてるからだってば。
さすがに土曜日に呼び出し食らうことはないだろうし問題ないよ、たぶん。
…いやお姉さま方熱心だしな、耳も早いだろうから可能性はあるか。気を付けよう。

「それと、青学にはマネージャーがいないみたいだから。神野さん、その日は青学の担当を任せるよ」

「…はい」

ってことは、二校分の仕事を私と香奈ちゃんでするってことか。
面倒くさい…。
隣で「楽しみだね〜」と笑いかけてくる香奈ちゃんには申し訳ないけど、その日は仮病を使ってでも休みたくなった。
しないけど。どうせホントに風邪ひいても疑われるだろうし。
お姉さま方に殴られて腕にアザができたときも、腕が痛いって言ったところで信じてもらえなかったし。
なんなんだろうね?香奈ちゃん以外は信じられません病か。
私の言葉最初っから最後まで疑ってかかってるし、まともに話なんて聞いてくれないし。

香奈ちゃんは「梓紗ちゃんならみんなとすぐ仲良くなれるよ!」っていうけど、生憎私は私を嫌う人間と仲良くなりたいと思えるほど心広い人間じゃないのよ。
挨拶しても無視されたり、作ったドリンク捨てられたり、無駄にタオル汚して来たりするような連中よ?
他のお姉さま方も、こんな輩のどこに惚れたんだか。
結局顔か。世の中顔なのか。
私は時々、本気で殺意が芽生えるよ。
そのきれいな顔を二目と見れないくらい殴りたくなるんだよね。
誰かに刺されればいいのに。

「梓紗ちゃん?どうしたの、怖い顔して…」

「……何でもないよ。ちょっと考え事」

「そう?…何か無理してるんなら、いつでも相談してね」

困ったようにふわりと微笑む香奈ちゃんは、まあ誰がどう見ても可愛いよね。
私に向けられたその笑顔に、周囲から舌打ちが漏れたのが分かった。

お前らの性格悪さがバレて香奈ちゃんに嫌われてしまえ。




「…マジでか」

仮病で休みたいなぁ、なんて思っていた土曜日。
目が覚めた瞬間から、頭がガンガンしていた。
気怠くてお母さんに体温計を借りれば、仮病を使うでもなく実際熱が出ていて。
38度5分。……休むか。
まあ連絡先って香奈ちゃんのしか知らないんだけどね。
携帯電話を開いてみれば、アラームに気が付かなかったのかもう集合時間になっていた。

「……あ、もしもし…香奈ちゃん?」

『梓紗ちゃん!どうしたの?もうみんな集まってるよ』

「ごめんね…なんか、風邪ひいちゃったみたいで。今日いけないから、そのこと伝えて欲しくって…」

『えぇ!?だ、大丈夫なのっ!?…っあ!』

心配そうな香奈ちゃんの声。
不意に遠ざかったかと思えば、次いで聞こえてきたのは香奈ちゃんのものではなかった。

「いいから今すぐ来なよ。そんな仮病、通じると思ったら大間違いだからね」

仮病じゃねぇっての。
…ほらね、やっぱり信じてもらえなかった。
ぶつっ、と切られた電話に溜息を吐き、仕方なく怠い体に鞭打ってのろのろと着替えることにした。
あいついつか殺す。




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