□Rescue drama
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私は昔から何でも姉と比べられてきた。
姉は私と違って何でも出来て、両親に可愛がられて、甘やかされて育ってきた。
一方の私はこれといって何かができるわけでもできないわけでもなく。
優秀な姉のあとに生まれた愚図な私を、口には出さないが両親も失望しているようだった。
変わらず愛情を注ごうとしてくれているけど、小さな姉贔屓は確実にある。
だから私はちょっとでも褒めてもらいたくて頑張って、努力せずとも出来る万能な姉と違って努力に努力を重ねていた。
…でも、たとえそれでテストで90点を取っても、姉は100点をとるのにね、なんて言われて。
深い意味はないのだろうけれど、その一言は私の今までの努力を全否定するものだった。

「…あー腹立つ」

だけど、もう習慣付いてしまった睡眠時間を削ってでの勉強を今更やめることはできなかった。
早く寝ようとベッドに入っても寝られなくて、結局は2時過ぎまで勉強して。
そのうち食事の時間もずれていき、家族団欒という時間は私の中から消え去った。
階下のリビングから聞こえる賑やかで楽しそうな声を聞かないように、私はいつも音楽を聴きながら勉強をするのだ。

「………死ねばいいのに」

姉と私とを比べるのは両親や親戚だけではない。
全く関係のない同級生も姉と私を比べ、私がひどく劣っていることを嘲笑うのだ。
イジメと呼べるのかどうかすらわからないくだらない嫌がらせ。
私が無反応なのが気に食わないのか、そのうち殴る蹴るといった暴力に訴えてくるようになった。
ホント、人間ってくだらない。
いっそ私が死ねば皆笑って暮らせるんだろうけどね。

「随分物騒なこと言うね」

「……越前」

否、一人だけ姉と私を比べないやつがいた。
クラスメイトの越前だ。
姉は男子テニス部のマネージャーをしていて、越前も世話になっているから他のレギュラーたちみたいに比べると思ってたんだけど、そこは予想外。
小さく笑みを浮かべるこの男は、きっと私に対する嫌がらせに気づいていない。
ただクラスから浮いてるやつ、程度の認識だろう。
別にそれでも構わないけど。

「嫌いなやつに死ねって言って何が悪い?」

「それで実際死んだら罪悪感残るでしょ」

「残らないんじゃない?だって嫌いなんだから」

だからあいつらは私に毎日死ねって言うんだよ。
きっと越前にはわからないだろう、知らないだろう。
テニス部のレギュラーで、容姿も整っていて、頭もよくて、非の打ちどころがない越前には。
劣ってしかいない私のことなんて、理解できないはずだ。
…しようとしてすらいないのだろうけれど。

「そんなもん?」

小さく疑問符を浮かべ、フェンスに持たれる私の隣に来る。
まぁ越前にはわからないよね。
死ねって言われたことも、死ねって思ったこともないだろうから。
そう簡単に口にしちゃいけない言葉なんだろうけど、毎日浴びせられる私にとっては至極軽い言葉に聞こえる。

「……さっき、クラスの連中が言ってること聞こえてきた」

しばらくの沈黙のあと、ぽつりと越前が口を開いた。
何が、と問えば越前は眉を寄せてどこか泣きそうにもみえる表情で説明する。
私の存在が腹立つとか死ねばいいのにとか、いっそ殺してやろうか、とか言っていたらしい。
バカだねあいつらも。

「初めて言ったって感じしなかったし…もしかして、篠宮前から言われてた…?」

「まぁね」

肯定すれば、越前はそうと応えて俯いた。
表面上は仲の良いクラス、とでも思っていたのかもしれない。
でも所詮人間なんてそんなもんだ。
絶対誰かを見下して、自分を持ち上げて生きていく。
そんな醜くて汚い生き物だなんて今更始まったことじゃない。

「平気なの?そういうこと言われて」

「別に、もう慣れたし。あの人と比べられることも、蔑まれることも、見下されることも。…もう全部慣れた」

あの人、とは当然姉のことである。
越前にもそれはわかったのか、まるで自分が言われているかのように下唇を噛んでいた。

「…何やってんの、血ぃ出るよ」

「そんなの、どうだっていい。……俺、知らなかった。あいつらが篠宮に何やってて何言ってるか」

「そんなもんでしょ。あいつらもバレないようにやってるんだから」

越前はテニスの試合に負けたように悔しそうで。
他人事の話なのに、どうしてそんな表情を見せるのか不思議になる。

「篠宮は、悔しくないの」

「別に。あいつらに対して何か思った時点で負けるんだよ。あいつらは苦しんで泣いて悔しむ姿をみて喜ぶんだから」

「……冷めてんね」

事実なんだから仕方ない。
泣いてやめてくださいって懇願しようがあいつら喜ぶだけでやめないんだから。
だから何されても無視すればいい。
殴られても、蹴られても、蔑まれても、何をされても。

「でも、本心は平気なんかじゃないでしょ」

「平気に決まってるでしょ。何言ってるの?」

「平気なわけないじゃん。相手にしなければいいって、自分の訴えが聞き入れられないから諦めただけだし」

思わずカッと頭に血が昇るのがわかった。
越前に何がわかる。
何が言いたい。
私に何をさせたい。
激昂したまま叫ぶようにいえば、越前は私の腕を引っ張った。
突然のことにバランスを崩し、前のめりになる。
それを支えたのは越前で。
気がついたら私は、越前の腕の中にいた。

「…平気なら、そんな泣きそうな顔してない。自分は平気って思いこんで、強がってるだけだよ」

「うっさい、離せ!」

「ヤダ」

「お前バカじゃないの!?」

ヤダって…餓鬼じゃないんだから。
しばらく暴れてみたところで越前は私を離す気はないらしい。
どう頑張っても運動部の筋力には勝てなくて、結局私はされるがままになった。




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