□Rescue drama
2ページ/2ページ





「俺さ、愛海」

しばらくしてから、越前が口を開いた。
離せという意味合いも込めて体を動かしたり越前の体を押したりするが、やはりビクともしない。
っていうか何で名前で呼んでんの。

「…このタイミングでどうかと思うけど、ずっと前から愛海が好きだったんだ」

「は?ふざけてんのアンタ」

「本気だから。…篠宮先輩と比べられてて、そのたびに悔しそうな顔して。きっと努力してるのに誰もそれを認めてやらなくて、でも平気みたいな顔して。…強がってるけど、ホントは弱い愛海のことが、好きなんだよ」

黙れ黙れ黙れ黙れ。
強がってなんかない、弱くなんかない、悔しくなんかない。
好きだなんてそんな虚言に騙されない。

「私はあの人じゃない。…代わりにされるなんてウンザリよ」

「何言ってんの。俺篠宮先輩のこと嫌いだし」

「はぁ?」

姉を嫌いな人なんているはずない。
美人で頭もよくて運動も出来て、私とは違ってすべてにおいて優れているのに。
そんな人を嫌いになって私を好きなるだなんて、あるはずないんだから。

「そんなに自分を卑下しないでよ。…愛海は、愛海が思ってる以上にずっと綺麗なんだから」

「ウソだ」

「ホントだって」

そんなに疑わなくてもいいじゃん、そう言って苦笑を漏らす越前。
だってそんなハズない。
みんな私の存在がイヤで、私が嫌いで、私が死ねばいいのにって思ってるんだから。

「好きだから。…死ぬ、とか言わないでよ」

「私が消えても、誰も悲しまない」

「愛海が消えたら俺が悲しむ。悲しすぎて何もできなくなってそのまま俺も死ぬかも」

「自分だって言ってんじゃん…」

俺はいいの、死なないから。
そう笑う越前が羨ましくて、眩しくて。
気がついたら世界が滲んで、歪んで見えた。

「そのくらいで泣かないでよ…。ねぇ愛海、本気で言うから本気で聞いて。……ずっと好きだよ」

好きだった、って過去形じゃない現在進行形の言葉。
嬉しいのか悲しいのか虚しいのか、私は何も答えずただボロボロと汚い涙を流していた。
そのせいで越前の制服が濡れるけど、越前は文句を言うどころか私の頭をさらに引き寄せて越前の胸板に押し付けた。



******************


「落ち着いた?」

あれからどれだけ経っただろう。
延々と泣き続けていたという事実が恥ずかしくて、越前から離れて座り込んでいた。
そんな私に苦笑を漏らしつつ越前は微笑む。

「ねぇ、俺まだ告白の返事聞いてないんだけど。返事聞かせてよ、俺と付き合ってくれるかどうか。…返事は"はい"か"Yes"しか聞かないけど」

「選択肢一つしかないじゃん…」

あまりに身勝手な越前に、思わず笑みが漏れたのがわかる。
越前は当然でしょ、好きなんだからとクソ恥ずかしい台詞をサラリと吐いてきた。

「ねぇ愛海。俺はこれから愛海を守りたい。だから、できるだけ俺のそばにいて?」

「……ヤだよ、越前のファンから何されるかわからない」

私が断れば、越前はむっとした様子で唇をとがらせた。
普段クールな越前の子供っぽい表情を初めて見た気がして、一瞬可愛いと思ってしまったのは秘密だ。

「じゃあこうしよう。…そもそも愛海が学校に来なければいい」

「自分の家にいたくないから来たくもない学校に来てるんだけど」

私がそう言うと予想していたのか、越前は優しげに微笑んで私の頭をクシャリと撫でた。
頭を撫でられた記憶なんてなくて、一瞬身構えてしまったけれど。
越前は別に気にしていないのか、そのまま一定のスピードで撫で続ける。

「だから、愛海ん家じゃなくて俺ん家にいればいい。母さんも親父も菜々子さんにも許可とったし」

「……何言ってんの!?」

「…愛海が俺ん家に住めばいいって言ってんの。大丈夫、部屋は余ってるしホームステイって思えば」

確かに学校に来なくていいなら大歓迎だけど。
家にいなくてもいいならそれも大歓迎だけど。
でもだからって越前の家に居候っていうのはどうなんだろう。

「そんなことしたら、あの人たちうるさいと思うけど…」

「今まで愛海のこと放置してたんだからそんなの許さない。母さんたちには口止めしてあるし俺が言わなきゃいいだけだし。…今は授業中だから誰も聞いてないしね」

クスリと笑う越前のその瞳に、若干狂気が宿っているように見えたのは気のせいだということにしよう。
越前は私の顎をクイと持ち上げると、そのまま顔を近づけてきて───越前との距離がゼロになった。
すぐに離れたけど、パクパクと金魚のように口を開閉させる私はさぞ滑稽だろう。

「復讐だと思えばいいよ。今まで愛海を傷つけてきたやつらに対して。ホントは死にたいと思うくらい追い詰めてやりたいんだけど、さすがに全員にそれはできないから…。姿を消すことで、罪悪感を植え付ける。ただそれだけだよ」

「越前、怖いよ」

「気のせいじゃない?ねぇ、もう今日から家に来なよ。母さんたちもいつでもいいって言ってるし」

ただただ優しげに微笑む越前。
逆にそれが怖くて、でもあいつらよりもずっと温かくて。
越前が差し出した手に、私は躊躇うことなく手を重ねた。



Rescue drama



(…でもさ越前、どうして私のこと好きとか思うわけ?)

(いきなりソレ聞く?)
(あ、あと名前でいいよ。俺らもう恋人なんだし)

(えっ!?あ、えっと…そういうの、恥ずかしいんだけど)

((恥ずかしがる愛海も可愛い))
(…ま、ならしょうがないけどさ)
(早く慣れてよね)

(う、うーん…がんばる)
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ