そうこ 


□3周年企画
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『夢想』



薄れゆく意識の中で『愚かなレプリカルーク』という言葉が耳にこびりついて離れない。
そして、ルークの世界は崩れ落ちた。



ゆっくりと目を開けたルークは、木目の天井をぼんやりと眺めた。
今までの数少ない経験から言えば、自宅ではなくたぶん宿だ。
けれど、何故ここにいるのか。
その問いを自分にした時、記憶は師匠の言葉と壊れゆくアクゼリュスをルークの脳に叩きつけた。

「っ…!!」

思わず跳ね起きたルークは、ベッドの上で荒い呼吸を繰り返す。
何が夢で何が現実なのか、まだ判断することができない。

すると、扉が開いて見知らぬ黒髪の男が部屋に入ってきた。

「―――――?」

男はルークを見ると口を開いて、声を発した。
だが、彼の言葉をルークは理解することができなかった。

「…なに、言って…」

掠れた声でルークが返すと、彼も驚いたように目を見開いた。
それから困ったように後頭部を掻くと、彼は
コップに水を入れてルークに差し出した。

ルークはコップと彼の顔を何度か見てから、恐る恐るコップを受け取り水を飲んだ。
思った以上に喉が乾いていて、飲み始めれば一気に飲み干してしまった。

「―――?」

また彼が何か言ったが、やはり何を言っているのか解らない。
けれど、彼が空になったコップを指差したので恐らくおかわりの確認だと思い、ルークは首を横に振って俯いた。

一体、何がどうなっているのか。

さっきまでアクゼリュスにいたはずだ。
そこでヴァン師匠の言う通りに障気を消そうとして…

『愚かなレプリカルーク』

その言葉と冷たい声音がハッキリと耳に残っている。
けれど、そこで記憶は途切れていた。

コップを握る手が、カタカタと震えている。

…ここは、どこだ。
アクゼリュスは、どうなった。

心は急くのに、体は動こうとしない。
しばらく顔もあげられずにいると、ルークの足の上に何かが落とされた。
反射的に顔を上げると、彼は静かにルークを見詰めていた。
それから、無言で落としたものを指差した。

その指を辿り見ると、本らしきものが足に乗っていた。
ルークがそれを認識すると、彼はルークの手からコップを奪った。

彼の行動よりも、その本に意識がいっていたルークは空いた手でその本を手に取った。
見覚えのある本だが、ルークの記憶と大きく違う部分があった。
本の表紙には、赤い宝石のような菱形の石が埋め込まれていた。
それ以外は、ルークの日記だ。

ルークが適当なページを開くと、自分の字でその日の出来事が綴られていた。
やはり自分の日記だと確信したルークはページをめくり、ルークにとって昨日のページへ行き着いた。

そこには、もうすぐアクゼリュスへ到着すると書かれていた。

それを何度も読み見直し、昨日までの現実を確認した。
その翌日にアクゼリュスへ到着し、障気の満ちるアクゼリュスの惨状を今でもハッキリと思い出せる。
やはり自分はアクゼリュスにいたはずだ。
なら、ここは障気の消えたアクゼリュス?

日記を閉じたルークは、ベッドを飛び出て窓へ向かった。
足がもつれて、窓にへばりつくように倒れながらも外の景色を目に焼きつけた。
そこには、ルークの記憶にはない景色しかなかった。

ドクドクとやたら音をたてる心臓をもてあましながら、ルークは振り返り彼を見た。

「…ここは、どこだ…?」
「―――。」
「ここは、どこだって言ってんだよ!!」

怪訝な彼の表情に耐えきれず、ルークは衝動のまま彼の胸ぐらを掴もうとした。
けれど足は上手く動いてくれず、彼に届く前に膝から崩れ落ちた。

「――――?」

心配そうな声音だろうと意味の解らない音の羅列にルークは耳を塞いだ。

「師匠は?イオンやブタザルは、どこに行っちまったんだ…?アクゼリュスは、どうなったんだよ…!!」

答えのない疑問が次々と沸き上がっては、ルークを追い詰める。
それをどうすることもできなくて、ただ嘆き喚く。
絶望に目を閉じ、すべてを遮断したくなった。

「――――――!」

厳しい声音とともに、頭を叩かれ衝撃が走った。
驚いて顔をあげれば、彼のキツイ視線が突き刺さった。

「っ…!」

怯えるルークの顔を見た彼は表情を弛め、しゃがんでルークと視線の高さを合わせた。
そして彼は自分自身を指差した。

「――リ。」

上手く聞き取れずルークが不思議そうな顔をすると、彼はもう一度ゆっくりと彼は名乗った。

「ユーリ。」
「…ゆーり…?」

何とか聞き取れた言葉を口にした瞬間、ユーリは嬉しそうに微笑んだ。

「―。―――?」

それからユーリは、今度はルークを指差して首を傾げた。

「…ルーク。」
「るー…く?…ルーク。」

ユーリの口から自分の名前が聞き取れた時、ルークは初めて自分の名で泣いた。

 
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