短めな話

□そうだ、甘いものを食べに行こう
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ふと、甘いものが食べたくなった。


あまり甘いものは好きではない質なのだが、ごくたま食べたくなる時がある。







そうだ、甘いものを食べに行こう








「…鶸」


「なんだい?」


「甘いものが、食べたい」




思っていることをそのまま口にすると、向かいで胡座をかいて座っている彼に顔をしかめられてしまった。




「それを俺に言った所で、
甘いものが出てくるわけでもないけど?」


「知ってる」




鶸の方へにずるずると移動して
太ももに腕と顎をのせる。




「食べに行こう」


「…今から?」


「そう」




今度は面倒くさそうな顔をされた。



実際面倒くさいのだろう。




「六合のと行ってくればいいじゃないか」


「なんで鴇時が出てくんの」


「どうやら彼は甘いもの好きなようでね、
よく露草を誘っては断られているよ」


「へー」




返事をしつつも、起き上がる気は全くない。

彼は笑顔でこちらを見てきた。




「そういうわけで裕、行くなら彼と行っておいで」


「やだね」




即答してやると、笑顔がぴしりと固まった。



「へっ」




ざまぁみろと言わんばかりに笑ってやる。




「はぁ……」




溜息をつかれつつ、頭を撫でられる。

見上げると彼は降参したように苦笑いしていた。




「わかったわかった、何か甘いものを食べに行こう」


「やったー」




「実は鶸が好きそうな甘味処を見つけてね、
是非とも連れて行きたかったんだよ。」



「…それは楽しみだ」



ふと、何を思いついたのか、鶸が意味ありげに笑った。




「…何?」


「俺は甘味より、裕を食べたいな。」



ぼそりと言われた台詞。



「……は?」


「だからね」



寝転んでいるのを良いことに、素早く上に覆いかぶさられた。


しかし、何も焦ることはない。




「よっ」




立ち上がると、鶸も背にくっついたまま立ち上がる。
そのまま肩に回された腕を掴んだ。


突然、彼がその腕を解こうともがき出す。

だが、どれだけ足掻いても掴んだ手が離れることはない。



「俺が悪かったよ、だから手をはなしてくれない?」



どことなく焦った様子の彼。

まあ、それもそうだろう。



「せーい」


どごっ


「ぐはっ!」



決まった…。

久しぶりに一本背負いをしたので、力加減がいまいち分からなかったのだが、
無事綺麗にできた。




「ったく、なにが決まった、だい!」




痛そうに背中をさすりながら起き上がる鶸。

そんな彼の文句など聞きもせず手を引っ張った。




「ほらー、甘味食べに行くぞー」



「まったく…はいはい、着いて行ってあげるよ」








「…なんともまあ、実に梵は裕に弱いであるな。
そう思わんか、白沢」

「仕方ないですよ空五倍子さん、あの裕さんですし」

「…そうだな」

「でもいいなー、
俺も甘いもん食べたい…」

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