短めな話

□短い短い冬の話
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芯まで凍えてしまいそうに思える、寒い寒い冬の日。地上は雪に覆われ白くなっていく。







短い短い冬の話

※梵ちゃん視線






外の方を見やると、人の姿をした裕はぼんやりと降り積もる雪を眺めていた。


白銀の髪と白い肌が背景の雪景色と若干同化して見えた。

彼女は毎年この季節が来るたびにこんな感じになっている。
今までは何とも思っていなかったのだが、一度気になってしまうとどうしようもなくなってくる。




「梵天?」


「……」


「梵?梵天!」


「…ん?」




自分をを呼ぶ露草の声ではっと我に返った。




「なんだい?」


「急にぼーっとしやがって、どうしたんだよ珍しい」


「…そんなにしてたかい?」


「何回呼んだと思ってんだよ」




呆れた顔をされてしまったので、何回か尋ねると、

三回、

と返ってきた。俺自身も少し呆れてしまう。

だが、露草に呆れられるのは気に食わない。




「お前には関係ないだろう」


「なっ!?」




露草が何かをわめき散らし始めた。
相変わらず図体の大きいばかりの子供だ。



裕の方に視線を戻すと、
露草の声が気になったのか彼女もこちらを見ていた。

やはりぼんやりとした顔をしている。


露草は怒ったままどこかへと行ってしまった。


その様子を目で追っていた裕は
何があったのか尋ねるように俺を見て首を傾げる。

俺はあまりにもどうでもいい内容なので、答える気は全くない。




「眠いのかい?」




俺が話を逸らした事に眉を寄せつつ、彼女はこくりと頷いた。




「おいで」




両手広げ、彼女へ向ける。


裕はぼんやりと俺の手を見た後、ゆっくりと歩み寄ってくる。

そのまま畳に上がり、あぐらをかいた脚の上に乗ってきた。

のばしていた腕を閉じると、
少しもぞもぞと動いて定位置に落ち着く。



眠そうに目をしばたかせる彼女を見ていてふと、思い出した。


そういえば、最近見てないが裕は竜だったか。

竜はウロコに覆われ、どこかトカゲのような姿をしていた記憶があるので、
恐らく冬眠するタイプなのかもしれない。



冬眠……か。



脳裏に巨大な蛇の姿をした人物がよぎった。


あいつも、冬は冬眠していたな。


しかし、裕は毎年眠そうに日を過ごすだけで、
冬眠したことは一度もなかった。




「…鶸?」


「ん…なに?」


「どうした?」




どうやらまたもぼんやりしていたようだ。




「ねぇ、裕」


「ん?」


「君は冬眠したりしないのかい?」


「んー……」




少し間が空く。




「鶸が…」


「俺?」


「鶸と露草が、一人になるから」


寂しい思いはさせたくないから、




と、眠そうに呟くように答えた。

思わぬ返答に口を半ば開いたまま彼女を見つめる。


今の俺はそうとう間抜けな顔をしているだろう。



頭が今の言葉を理解していく程に、
だんだんと頬が緩んでくる。




突然音もなく襖が開いて、先程出て行った露草が返ってきた。


露草は俺の方を見ると何故かその場で固まってしまった。
魚のように口をぱくぱくとさせて。




「な、何やってんだよ、なんたら…」


「何とはなんだい?」


「………」




色々言いたそうな顔だ。

こういうやり取りも面白い。



そんなことを思っていると、裕が俺を腕を解いてちょいちょいと露草を手招きした。




「露草も」



「は?」




呼ばれた露草は迷うように俺を見やる。
俺的には裕だけの方が良かったりもするのだか、
彼女が望むのなら仕方がない。

片腕をのばして、先程したように露草を招いた。




「ほら、早くこないと入れてやらないよ」


「ーっっ」




露草は悩んだ挙句、
若干戸惑うように、腕の中に収まった。

片膝に一人ずつ。

二人共軽いのだが、身体は大きい。
俺自身そこまで大きいわけでもないので二人の肩を持つのが限度だった。


露草は慣れないのだろう、居心地悪そうに眉をよせている。

それと同じくらいなぜか嬉しそうな顔もしているのだが。


裕は満足げな表情で露草を抱きしめた。




「わっ」




二人が寄ったので、腕を回しきれるようになった。

せっかくなので俺も二人を抱きしめてやる。




「おお前ら、なんだよ!?」




顔を赤らめながら照れ隠しに吠える露草。




「たまにはこういうのもいいじゃないか」




露草は目を泳がせて、
観念したようにため息をついた。



露草にこういった事を俺がしてやるのは、多分初めてかもしれない。

こいつだけというのは願い下げだが、裕と二人ならば、

またこうしてやってもいいかもしれない。




気付くと裕の目は閉じられていた。

なんだかんだ言いながら、露草も気の抜けた表情で眠っている。

数時間経てばまた目を覚ますはず。

その時まで、二人の寝顔を堪能していても罰は当たらないだろう。





やっぱり冬はいい季節だ。












「む?梵、一体何をしておるのだ?」
「ああ、空五倍子か。ちょうど良かった」
「?」
「少し枕になってくれないかい?この姿勢は寝にくい」
「…子守りも大変であるな」
「まったくだよ」
多分、俺は楽しそうな顔をしているだろうな。

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