短めな話

□刹那
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外で風にあたっていた時のこと。
ふと、裏手が崖っぷちだという話を思いだした。



ーー刹那の感情。



飛び降りてみたい。



そう思った。

別に死にたいとか、そういう感情はない。
ただただ、飛び降りてみたい。

その先なんて知らない。

興味もない。


柵をつたって玄関の恐らく真反対まで辿り着く。


生温い潮風を吸い込んだ。


一歩、また一歩と足を踏み出す。

気配で分かる。

あと数メートル先は崖。
大地は、足場は、当然途切れている。



ああ、飛び降りてみたい。



また一歩、崖に近づく。


飛び降りてみたい。



波の打ち付ける音が、

濃い潮の香りが、

こちらにおいでと誘ってくる。


霞む様子のない衝動。



どうにかなってしまいそう。

いや、もうどうにかなってしまっているのか。


ああ、誰か、助けて。


助けないで。



どうか抱きしめて。



どうか突き飛ばして。




どうか愛して。





どうか殺して。
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