戦乱の話

□壱話
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目が覚めてまず衝撃だった事。
草原で寝てた事。


経緯は分からないしこれ以上汚れるのにも耐えられなくて取り敢えず飛び起きる。

「おもっ」

訂正、飛び起きたかった。

予想以上に体が重くて少し腰を浮かせたところで重力に引っ張られ尻餅を着く。
怪訝に下へ目を向けると腰には二本の刀が。
……え、俺って何、侍なの?でも刀と脇差しじゃなくてなんで両方とも刀なの??馬鹿なの???
馬鹿どころかそんなん何時代だよ、と冷静な自分がツッコミを入れてくる。タートルネックやブーツは馴染みがあるのにきっちり着流しを着込んでいる中途半端さ。きっとコスプレ撮影だとか何かそういう集まりにでも参加していたのだろう。
そういう趣味があった覚えは無いが。
悲しい事に携帯はどこをまさぐっても無かった。つらい。

経緯を知る為自分の記憶に頼ろうとするも、何故か非常にぼんやりとしていて状況が飲み込めず頭が混乱する。何かとてつもなく大事な事を忘れている気がするのだが、分からない。
取り敢えずジジくさく「どっこいせ」と膝に手をつきながら物理的に重い腰を上げた。座り込んでても仕方がない、後ケツが汚れる。


いや、しかし…

「眠い」

でも外ってもう土とか虫とか絶対に横になれない。というかこれ以上じっとさえできない。虫が止まってくる、俺が死ぬ。

「クソ、眠い」

で、ドコここ。

360度ぐるりと見渡せど眼前に広がるのは緑だけだった。
眼前のふさふさの芝生、背後の生茂る森、頭上の高い空。
頭を捻ってみるが生憎朧げな記憶じゃなくても自分は専門家ではなさそうなので山の種類なんて分かる筈もなく、目印になるものなんて何ひとつありゃしなかった。今時よくこんな場所を見つけたなとぼやけた記憶の中のコンクリートジャングルと比較して思わず呆けてしまう。
ううん、気のせいじゃなく空気が美味しい。たまになら自然最高。虫がいなきゃもっと最高。
ゆっくり深呼吸をすると大きな欠伸が出てきた。こんな事態じゃなきゃレジャーシートを敷いて昼寝でもしてんのになぁ…。

そのまま景色を眺める事数分、ぐっと伸びをした所でやっと最初の一歩を踏み出した。
現状は全く把握出来てないのだが、手掛かりを見つけるためにもまずは付近に人の気配がないかを探しに行く事にしようと思う。まだ日が高いし焦るのはもう少し後ででもいいだろう、きっと草原の向こうにでも民家がひょっこり出てくるはず。


……はず。


そんな期待を込めて歩き始める事早2時間。
山の麓らしかったので歩いてるうちに人に出会すだろう、そんな甘い考えを持っていたのが間違いだった。


「人っ子ひとり!!だっっっれもいねぇ!!!」


一人叫ぶのも虚しいが心の中で留めてしまうのも余計に虚しくて腹いせに虚空に向かってそう叫ぶ。そして歩いても無駄ならもういいと匙を投げてそのまま座り込んだ。
もう虫とか土とか知ったこっちゃないわ。あと腰が重すぎてしんどい、昔のお侍さんって凄い。
息をつくのも束の間、手持ち無沙汰にも耐えきれずぷちぷちと足元に生えているシロツメグサを取っては輪の形に編んでいく。

なにやってんだか。

でも気は紛れるんだよなぁ、ううん、これからどうしよう。なんて悶々と考えながら少し離れた所に生えていた青い花を摘み差し色にする。
そんなこんなで、遂に花冠が完成してしまった。

本当に、なにやってんだか。

深い溜め息を吐くとピーヒョロロロと気の抜けるトビの鳴き声が響いてくる。空っぽな筈の肺から更に溜め息が漏れた。
風が強いのか背後で森が騒めき揺れている。
葉や枝の擦れる音が心地よく、また緩やかな睡魔がやってきた。

ざわざわざくざくざわざわ──



「Hey,you!」





だから、まさか外人に声をかけられるなんて思ってもいなくて。
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