地獄の話
□一話
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「ーー針山は特に問題なし。不喜処地獄はどうですか?」
背にホオズキの絵柄が一つ入っている黒い着流しに身をつつんだ鬼が問いかけた。
「従業員不足ですねぇー」
「罪人の数が多すぎんだよ」
黒い着流しの鬼の隣で長い銀髪を無造作に一つに束ね、深紅の着流しに黒い羽織をはおっているヒトが舌打ちをしながら言った。
と、一人の鬼がこちらに駆けてきた。
「鬼灯様ー、悠様ァー、天国の桃源郷から人材貸し出しの要請が…」
悠と呼ばれたヒトは持ってこられたバインダーを覗き込んだ。
「天国の世話までしてられねぇよ」
「全くです」
鬼灯と呼ばれた鬼は悠からバインダーを受け取り、目を通しつつ同意する。
「オイ、今こっちの相談してたんだぞ、割り込むなよ」
「…どうせ、あのアホ(閻魔大王)が面倒だからこちらに相談しろとでも言ったんでしょう」
「今さらっとアホって言った?」
鬼灯の言葉に恐縮してしまう鬼たち。
「桃源郷ですか…。まぁよくも罪人もいないのにヌケヌケと…。ゆったりたっぷりのんびりしてるくせに……何でもかんでも回してくる」
「…」
彼のぼやきにさすがの悠も苦笑いを零した。
鬼vs宿敵 地獄第一番
「桃源郷への人材貸し出し?桃の木はこれ以上いりません」
パシッとバインダーをたたいて言う鬼灯。
「そもそも、仙桃を大量に作って妙薬を確保しようという天国の政策には反対なんです」
「万能薬は少ないから貴重なのに、多くしたら話になんねえだろ?」
「ですが桃源郷は天国の最大の観光スポットですし、かつ重要文化財として景観の維持を…」
二人の圧力におされそうになりつつも必死に説明をする鬼。
「ああ…まあ、手入れは必要ですが…」
「とにかく、芝刈りだけでも手伝ってほしいと「鬼灯様ァァァ、悠様ァァァ」…」
「……?」
「どうしました」
突然、小鬼が叫びながら駆けてきた。
「スミマセンッ、ちょっとトラブルが…」
よほど全速力で走ってきたのか、とぎれとぎれにかたで息をしつつ、話を続ける。
「桃太郎とかいうのが来て…」
「桃が来た?いりません」
少々聞き間違えてしまった鬼灯は迷惑そうに眉を寄せ、即答する。
「あ…イヤ…あの、別にお中元とかじゃないんですけど…」
「桃じゃなくて桃太郎。新卒困らせてどうすんだよ」
悠が助け舟を出すように聞き違いを訂正してやる。
「とにかく来てくださいっ!」
小鬼は鬼灯の手を掴み、そのまま連れて走って行く。悠は特に何も言わずそれについて行った。
「あっ…ちょっと、今こっちの…」
「オイッ、こっちのが先だったのに…」
後ろからそんな文句達が追いかけてきた。