文字羅列

□溶解
1ページ/3ページ

さんがつみっか。
三月三日。
 
ひな祭り。
今日は卒業式。

三月三日。
春。
でもまだ、桜なんて蕾が固い。下手すれば雪が残っている。
卒業証書と花束持って、親の世間話が終わるのを待つ。
なんか、ばばあが泣いていた。
いっつもごろ寝して、テレビみて、笑ってたばばあが泣いていた。
風の匂いと日の光の種類が、冬のものと明らかに違う。
寒いけど、骨にしみたりしない。
表皮を温め、髪を透かし、目に眩しい。
今日、卒業した。

「とーる!どした?」
なんか軽い乾いた衝撃が後頭部を打つ。
「タカやん。」
ぼろい花束を持ったたかしがいた。
「なになに?卒業式に感動して泣いちゃうとこだった?」
「違う。」
「いいって、泣けよ。」
笑いながら、たかしが花束で叩いてくる。
チューリップの首がぽーんと飛んだ。
「あ。」
「あ〜あ、だらしない花。やる気ねぇな。」
たかしのちょっと茶色い髪が、日に当たってさらに茶色くなった。
ブレザーの袖も、ズボンの裾も少し足りない。自分のもだけど。
肘のとことか、膝とかの部分がテカテカしている。きっとケツのとこもだ。
普段の何気ない摩擦が、生地を溶かしたのだ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ