文字羅列
□溶解
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さんがつみっか。
三月三日。
ひな祭り。
今日は卒業式。
三月三日。
春。
でもまだ、桜なんて蕾が固い。下手すれば雪が残っている。
卒業証書と花束持って、親の世間話が終わるのを待つ。
なんか、ばばあが泣いていた。
いっつもごろ寝して、テレビみて、笑ってたばばあが泣いていた。
風の匂いと日の光の種類が、冬のものと明らかに違う。
寒いけど、骨にしみたりしない。
表皮を温め、髪を透かし、目に眩しい。
今日、卒業した。
「とーる!どした?」
なんか軽い乾いた衝撃が後頭部を打つ。
「タカやん。」
ぼろい花束を持ったたかしがいた。
「なになに?卒業式に感動して泣いちゃうとこだった?」
「違う。」
「いいって、泣けよ。」
笑いながら、たかしが花束で叩いてくる。
チューリップの首がぽーんと飛んだ。
「あ。」
「あ〜あ、だらしない花。やる気ねぇな。」
たかしのちょっと茶色い髪が、日に当たってさらに茶色くなった。
ブレザーの袖も、ズボンの裾も少し足りない。自分のもだけど。
肘のとことか、膝とかの部分がテカテカしている。きっとケツのとこもだ。
普段の何気ない摩擦が、生地を溶かしたのだ。