長編

□太陽と月と向日葵
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東流魂街 第75地区『葵菫』




「はぁっ…はぁっ…」

「ぜっ…ぜっ…」

「涼太っ、だいじょーぶか!?」

「だい、じょうぶっス!」



「テメーらぁぁぁ!!俺の水返せぇぇぇ!!」



「っ!」

「ちっ、もう追いついてきやがった!涼太行くぞ!!」

「うっうん!…あうっ」


ドシャァッ


「涼太!?」

「いた…ひざすりむいたっス…」

「ばっか…血ぃ出てんじゃねーか!」

「こっこれくらいへい「まてぇぇぇぇ!!」
「!」


「…涼太、この水持ってろ」

「え?」

「ぜってーここ動くなよ?」

「ちょっ…大輝!?」





*******************




「ひっく…うぇ…」

「りょーたぁー」

「だい…き…?」

「ってうぉっ!?なに泣いてんだよお前!?」

「だってぇ〜…大輝がなかなか帰ってこないから、おれ、おれぇ〜」

「わりー…あいつなかなかてごわくてさ。ちょっと時間かかっちまった」

「っ、けがしてない!?」

「ん?ああ、霊圧こめてなぐったら一発だったからだいじょうぶだ」

「…よかったぁ〜…」

「お前こそひざ、いたくねーか?」

「うん!おれ、水もちゃんとまもれたっス!ほめてほめて!」

「へいへい。よくできました」

「むっ…大輝てきとー!」

「うるせぇな。せいだいにこけてけがしてるようなヤツに言われたくねーよ」

「うっ…はんろんできねっス…」

「ぷっ…さっ、早くかえろーぜ。お前のひざの手当もしねーと」

「うっうん」

「よーっし!家まで競争なよーいドン!」


「へ?ってええぇ!?ちょっ…ずりーっスよ!」

「ハハッ!こういうのは早いもん勝ちなんだよ!」

「〜〜〜っ!負けねーっスよ!」

「勝てるもんならやってみろよ!」





*******************





ここは東流魂街 第75地区『葵菫』

流魂街には東西南北それぞれに1から80の地区がある
1が一番治安が良くて、75なんて最低のそのまた下って言ってもおかしくないほど最低な街



そんなゴミ溜めみたいな街で俺と涼太は出逢った

いつから一緒にいるとか、どうやって出逢ったとかはもう覚えていない


でも、いつの間にか一緒にいて
どんなときも一緒にいた

そうして、気がついたときには、俺達は既に“家族”だった


ここはクソみてぇな連中がクソみてぇな生き方してるクソみてぇな街で

大人はみんな盗っ人か人殺し
子供はみんな野良犬

周りはそんな連中ばっかだった


俺達はそんなクソみてぇな環境から逃れるべく、街外れの森に家を建て2人だけで暮らし始めた



俺と涼太は生まれながら霊圧の素養を持っていたため、他の連中と違い腹が減る


そのため、近くに川があるから魚を獲ったり、木の実や動物を森ん中で採ったり…
時には街に行って、水や日用生活に必要なものを盗ったりした


たまに大人達に殺されそうになりながらも、俺達は必死に生きてきた

涼太と2人ならどんなに苦しいことがあっても幸せだった



食べ物や飲み水に満足しているわけでもない
殺されるかもしれないという恐怖から解放されているわけでもない



けど、隣を見れば涼太がいる

いつでも俺の心を照らしてくれるような、暖かい陽だまりのような笑顔を浮かべてくれる


それだけで俺はこんな苦しい生活でも幸せを感じることができていた






「だいきー!朝っスよ、起きてくださいっス!」

「ん、おー…はよ」

「おはよ!」


涼太は毎朝俺より早く起きて、朝飯の用意をしてから俺を起こす
もうそれが当たり前のように

重い瞼を持ち上げれば、そこに広がったのはキラキラと輝く黄色


「…近ぇよ」

「だってなかなか起きないんスもん」


起きるよ。今起きようと思ってたんだよ
だからそんなに近づくな


しっしっと虫を払うように涼太をどかせる
当の本人はその態度に少しムッとしてから、若干怒ったような口調で

「朝ごはん冷めたら大輝のせいっスよ!」

と言い、食事を始めてしまった


「オイオイ。食事は一緒に、つったのどこのどいつだっけ?」

「知らないっス。というか、ちゃんとおふとんたたんでよ?」

「うっせーな、そんなに怒んなよ」

「怒ってないっス」


(怒ってんじゃん…)

まったく、涼太はいつも変なところで機嫌悪くなるからよく分かんね
まあ、こんなときにはこれを言うとあっさり機嫌が良くなるけどな


「飯食ったら組手やってやるから機嫌直せ」

「ほんとっスか!?」



ほらな
今まで眉間に皺よせてたのにこの一言でぱあっと笑顔になる

なんて単純なヤツ



「おー、それにお前、霊圧の使い方もいまだへただしな」

「う…きょ、今日こそうまくできるんス!そして大輝に勝つっス!!」

「へー…それ昨日も同じこと言ってた気がするけどな〜」

「きょ、今日こそなんス!」

「いってろいってろ」



大輝のばーかと言ったひよこ頭を軽く殴ってから俺も食事を始める


俺達は毎日組手など、対大人のために稽古をしている

時には木の棒などの武器を使って
時には霊圧を込めた拳を使って
時には戦いのためではなく、純粋に遊びのようにチャンバラ用の棒を使って


毎日毎日、飽きることなく
俺達はただひたすらに強くなるために鍛え上げてきた


そうして、俺達はここらじゃちょっと有名になるほど“最強”という存在になっていた


同じくらいのガキ達は恐れて近寄らないし、大人たちは力で捩じ伏せられる



俺は良太と2人ならどんな敵でも倒せると思ってた

そして、何があってもこの手で涼太を護れると思ってた





――あの時までは






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