混合系

□本田探偵社奇譚
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――実は私の友人がストーカー被害にあっているみたいなんです。

「ストーカー、ですか」

 この探偵社の社長、本田菊に頷いて返すのは今回の依頼人、エステリーゼ。
 彼女の話によると、ここ数日、彼女の有人が留守にするたび、ものが微妙に動いていたり、壊れていたりするらしい。

「盗まれたりするんじゃなくて、壊されるんですか」

 彼女にお茶を出しながら探偵助手の奴良凜が訊ねる。
 この少女は家柄が《ちょっと》特殊なため両親が交友のあった菊に預けられた、ようは探偵社の居候。しかし、働き者ですぐに居候から住み込みの助手へと昇級したのだ。彼女の一言で一気に解決した依頼だってある。
 そんな彼女を菊は信頼していた。今回もその一言に顎に手をやった。

「確かに、これまで携わってきたストーカー被害とは何か違うようですね」

 固まって考え込み始めた菊に代わり、凜がエステリーゼから詳細を聞き出していく。
 聞けば聞くほど普通とは違うストーカーの様子に凜も段々、頭がこんがらがっていく気がした。
――つけてくる視線は殺気じみている。
――電話や手紙がくることはない。
――身に覚えのない血痕が家の中に増えていく。
 ストーカー被害と言うにはあまりに奇怪な出来事の連続に被害者である少女は鬱ぎ込み、今はエステリーゼの家にいると言う。

「ご事情はわかりました。後日、被害者の方とその方のご自宅にお伺いしたいのですが」
「あ、はい。わかりました、つたぇ、て……!」

 一通り話を聞き終わり、これからのことを話そうとしたとき、エステリーゼが泣き出してしまった。
 凜は気に障ることを言ってしまったかと慌てたが、そうではなかった。

「ごめんなさい……今までこんな真剣に聞いてくださる方はいらしゃらなくって」

 しばらくして落ち着きを取り戻したエステリーゼは帰っていった。その際、彼女は再度、深々と頭を下げた。

「あの……彼女のこと、よろしくお願いします!」

 パタンと扉がしまると同時にずっと黙り込んでいた菊が口を開いた。



「凜、あなたのお兄様の出番のようです」



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