小説

□チョコより甘い関係
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もうすぐ世間はバレンタイン。

去年は1年やったから同い年以外に
先輩にたくさんもらった覚えがある。

今年はどうなんねやろ。
後輩とかがくれそうな気、するな。


「彩今年も作らへんの?」

「料理あんませえへんし」

「いっつももらってばっかやんか。こんな顎のどこがいいんだか」

「おい。よく見ろ、見た目や」

「自分で言うな、この顎が」

「んやねん。肩幅は黙っとき」


まあ先輩だろうが後輩だろうが
あたしが欲しいチョコレートは1つしかないねんけど。

だいたいたくさんもらってもあたし
甘いもん好きちゃうしいっつもお兄ちゃんとか
あいつに食べてもらってる。

あいつは毎回嫉妬してくるけど。


「菜々ちゃん今年はどんなの作るんやろ」

「なんで岸野が楽しみにしてんねん」

「だって菜々ちゃんの作るやつむっちゃうまいやん」

「朱里に言うたろ」

「朱里は頑張ってんの伝わってるからええねん」

「惚気んな」

「菜々ちゃんのはプロ並やろ」

「それは褒めすぎやろ」

「いや割りとマジやって」


たしかに山田の作るものは美味しいし
チョコレートだけじゃなくて
他の料理やってむっちゃ美味い。

けどな、山田はみんなに作ってくるから
みんな山田の作るものが美味しいことを知ってるし
こうやって楽しみにされるから嫌やねん。


「お前にはやらん」

「いや、菜々ちゃんはくれんで?」

「なんなん」

「妬くなや。細かいやつやな」

「うっせ」


山田はきっとクラスのみんな分作ってくると思う。
1週間前くらいから材料買わなって言うてたし。

去年はトリュフとクッキー作ってたなあ。
まああたしには特別に甘さ控えめのやつ作ってくれたけど。
なんでみんなと同じなん?って思ってむっちゃ
悔しかったなあ。

そしたら彩は甘いの苦手やから
今日は料理作ってあげるとか言うて
手作り料理をおもてなししてくれた。
あれはかなり嬉しかったな。


「おはよー」


ついに山田が登校してきた。
今年のバレンタインは土曜日やから
みんな前日に持ってきてて
山田もその中の一人やった。

あたしはバレンタイン前日にもかかわらず
バレンタインライブの朝練で山田と登校できひんかった。


「菜々ちゃんおはよー」

「里香ちゃんおはよ」


なんであたしより先に岸野やねん!
ほんま岸野は…。
マジで朱里に言うたろ。


「山田」

「彩おはよう。朝練どうやった?」

「完璧。明日楽しみにしとけ」

「ふふっ。わかった」


山田はあたしと少し会話を交わすと
そそくさとクラスメイトに
チョコを配り始めた。
今年はガトーショコラにしたらしい。

みんな甘いの作ってくると思うから、らしい。


「菜々ちゃんのむっちゃ美味そうやん!大事に食べるな?」

「まーちゅんありがとう」


あーもう。
ほんまなんなん?あたしにはないん?

意味わからへんしみんなムカつく。


「なあ彩〜、菜々ちゃんからもらってんけどむっちゃ美味そうやな」

「ほんま肩幅黙れ」

「お、顎が鋭い。怖いわ〜」


岸野が一番ムカつく。
あたしが妬くってわかってんのに言うてくんねん。

今年も朱里はライブを見に来てくれるはずやから
もらったら速攻自慢したろ。
まあ、岸野ももらうやろうけど。


「よし!配り終わったかな?」


は?

山田はあたし以外の全員に配り終えたらしく
あたしには渡さずに席についた。

ほんまに何?なんなん?


「あれ、彩もらってないん?どんまいやな〜」

「岸野マジで覚えとけ」


なんでやねん…。
あたしにはくれへんのか。

意味わからんわ…。






結局山田はくれなくて
あたしからくれへんの?って聞くわけにもいかないから
その話題には触れずに部活に行った。


「え?じゃあもらえへんかったん?」

「おー…」


何が楽しくて
恋人のバレンタインチョコを
他のやつから自慢されなあかんねん。


「さっき食べてんけどむっちゃ美味かったで」

「うっせ」


ほんまむしゃくしゃする。

練習頑張ってな?って言うてバイト行っちゃうし。
まだチョコ持ってたから
バイト先の人にもあげるんやろうな。

恋人のあたしにはあげないで。


「まあ言うてもバレンタインデー明日やん。菜々ちゃんのことやから明日バレンタインライブ終わってからくれるんちゃう?」


あ、それあるかも。
山田のことやし。
もしそうやったらむっちゃ嬉しいやん。

単純なあたしはもうご機嫌。


「うっし、明日のために練習すんで!」

「ほんま単純」

「肩幅黙れ」


岸野はムカつくけど同じバンドやねん。
なんでこいつと四六時中一緒に居らなあかんねん。

岸野はベース。
ドラムがまーちゅん。
んで、あたしがギターボーカル。

たった3人のバンド。
それでも人気はあると思う。

明日のバレンタインライブは
当日にもかかわらず体育館の半分くらいを埋め尽くすくらい来る予定やって言うてた。


「明日成功させな」

「菜々ちゃんが待ってるもんな」


岸野もまーちゅんも面白がってるけど
あたしは真面目や。

あいつが当日にくれるんやとしたら
あたしはそのために頑張るだけ。





『きゃー!』


他のバンドの出番が終わり
あたしらはトリを飾る。

山田は端の方やけど一番前にいてくれた。
朱里と一緒にいる。


「朱里と菜々ちゃん一緒に居るやん」

「みたいやな」


このバレンタインライブは
誰でも観覧OKになってるから
朱里みたいに受験生の子とかも見に来てくれてる。

朱里は受験後かなり自信ありげだったらしい。
まあむっちゃ勉強してたしな。
しかも恋人が岸野ときたらもう受かったも同然やろ。


「今度はここの生徒として見てくれたらええな〜」

「なんなん。集中しろあほ」

「してるわ」

「ロリコン野郎が」


岸野と朱里は同じ中学やったらしい。
朱里が岸野に一目惚れして
猛アタックしたとか。
なんで岸野なんやろ。朱里くらい可愛くてスタイルよければ
男なんて選び放題やろうし。
よりによって男やなくて女でしかも岸野なんて。

朱里も物好きやな。って、失礼か


「2人とも、行くで?」

「うっしゃ、行くか」

「成功させよな」


ステージに出れば鳴り止まない歓声。
その中にはもちろん山田と朱里の姿もある。

笑顔がそりゃもう可愛くて、ってちゃう。
ライブに集中せな。


「みなさん最後まで盛り上がってくれますか?!」


歓声を受けてあたしたちのライブは幕を開けた。

最後まで歌いきりあたしらのライブは大成功に終わった。

やりきった。そう思って
ステージからはけようとした、そのとき。


「彩!」


客席から山田の声。


「うぇっ?あたし?」


びっくりして変な声出たし。

突然あたしの名前を呼んだかと思ったら
おもむろにステージに上がってきた。


「彩、ハッピーバレンタイン!」


山田は後ろに隠していた
箱を前に出した。

ほんまに、今日やったんや。


「山田、」

「彩のために、作ったから」

「あり、がとう…」

「むっちゃかっこよかったで」


マイク切ってへんかったから
山田の声はマイクを通じて客席に響いてる。

それでもお構いなしに山田はしゃべり続けてた。
だからあたしもマイクを気にせずに
むしろみんな聞け!って思って


「あたしやって、山田のために歌ったから」

「ちょ、彩!//」


案の定山田は顔を赤くさせたけど。

客席からは悲鳴みたいな声がむっちゃ聞こえる。


「来てくれて、ありがとう。バレンタインも」

「うん」


とんだサプライズにはびっくりしたけど
何はともあれバレンタインライブは大成功に終わった。






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