小説

□堕ちるときまで、ずっと
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「はよ帰ってきてーや…」


明日から日本武道館でのコンサートが始まる。
やからあたしらは
東京に何日か泊まることになってて。

ホテルの部屋割りはもちろんあいつと同じ。
こうやって同じ部屋で寝ることやって
もうなくなるんやから。

はよ帰ってきて。


「寝ちゃうぞー…ほんまに…」


あーあかん。
眠い。けど山田に会わな寝られへん。


「ただいまー、って、ちょ、」


土下座みたいな格好して
寝えへんように
あたしは山田の帰りを待った。

そしたらようやく山田が帰ってきて
あたしは即座に飛びついた。


「…おかえり」

「どしたん?」


山田に早く会いたかった、なんて素直に言えるわけないから
あたしは山田の肩に顔を押し付ける。


「彩?」

「…んやねん」

「いや、こっちのセリフや」


卒業が近くなってから
山田とあたしの距離は急激に縮まったと思う。
いや、離れてたわけちゃうんやけど
お互い素直になった、というか
山田が素直に甘えてくるようになった、というか。
いや、逆か。あたしがちゃんと山田に甘えられるようになったんや。

とにかく一緒にいることをしっかりと感じるようになった。


「…遅いねん」

「えー、しゃあないやん。最後のコンサートやし、成功させたいやんか」

「あたしと部屋一緒って、わかってて?」

「もぉ…子どもみたいなこと言わへんのー」

「ひとり、意外と寂しい、ねん」

「ふふっ、おこちゃまやなあ」

「うっせ」


ひとりが寂しいんじゃない。
山田に会えないことが寂しいんだ。

どれだけ待ったことか。
いや実際には30分とか、そんくらいしか待ってないんやと思う。
けど、あたしにとっては1時間も2時間も待たされていたような感覚やった。


「待っててくれて、ありがとな?」


あたしが甘えれば
こうやって、お姉さんな山田が出てくるから。
あたしはもっともっと甘えてしまう。


「お風呂、入る?」

「んー明日本番やしなあ。彩、入ったん?」

「…まだ」

「もしかして、それも待っててくれた?」

「…あかん?」

「ううん、むっちゃ可愛い」


ふにゃって笑って頭を撫でてくれる。
そうやってお姉さんしてくれる山田があたしは好きや。


お風呂に一緒に入って
髪の毛乾かしてやっと寝る準備。
もう時計の針は12時を指しそうなところだ。


「明日やな」

「そうやなあ」

「なあ、山田、」


山田に背を向けてたから
振り返ろうとしたら

山田がそれを阻止してきた。
つまり、抱きしめられた。


「山田?」

「こっち、向いたらあかん」


背中に伝わる温度は
山田の体温だけではない。

涙の温度だ。
そう、山田は泣いていた。


「あした、顔腫れたら台無しやで」

「わかってる」

「落ち着くまで待ってる」

「ん、」


とりあえず山田が落ち着くまで待とう。

そう思っていた。


「え、ちょ、…山田さん?」

「落ち着くまで、待ってくれるんやろ?」

「え、は?」

「彩に触れな、落ち着かへん」

「いや、まっ、」


何を言い出すかと思えば…


「私やって、彩に触れたいねん」

「んっ、」

「いつもしてもらってるから、お返し」

「はぁ…っ」


なんや急に大人になりやがって。
前振り長すぎんねん。

素直に言ったらええのに。
ま、あたしに似てるから無理やな。


「彩、好き…」

「ん、あっ…//やまっ、」

「あーかーんー。菜々、やろ?」

「んっ、菜々、」

「ふふっ、気持ちよくさせたる」


こいつ…いつの間にこんなうまくなったん?!

初めてしたときは
むっちゃ下手やったやん!まあそれが逆に気持ちよかったけど!
じゃなくて!なんなん?!

手つき、前と全然ちゃうやん…


「ちょっ、ちょっとまってっ、はぁっ…ななっ」

「もー、なにー?」

「いやっ、なんか、慣れてへん?」

「はあ?!何言うてんの?」

「前と全然ちゃう、から」

「そんなん当たり前やん。あの時は初めてやったしむっちゃ下手なんわかってたし」

「え、練習したん?」

「はあ?するわけないやんか」

「じゃあなんで、」

「大人になったってことやろ」

「勝手に手つきが成長するわけないやん」

「もう彩うるさい」

「え、…んぅ、」


丸め込まれた…。

ほんまはなんとなくわかってんねん。
ひとりで、したことあるんやろな。
あたしが構ってあげられなかったとき。

流石に言うてくれへんか。


「しゃべれへんくらい気持ちよくしたるわ」

「あ、っ…はぁ、」


明日コンサートやのに
容赦なくキスマークつけてくるんやから
こいつは相当な確信犯。
最近何かとキスマークに厳しいんやから
見えるとこにつけられてたら終わる。

でもそれを止められないあたしは
すでに余裕がないらしい。


「おっぱいやらか…」

「んっ、は、あっ…や、」

「さやか可愛い」

「あっ、あかんっ//」


あかん、こいつむっちゃうまい。

気持ちよすぎる…


「きもちいの?」

「きもちっ、うぁ…っ」

「下もこんなに濡らして…やらしい」

「ちょ、まっ、あっ!///」


太ももを撫でられてやさしくキスをされる。

普段あたしが上やけど
あたしはがっついててあんまり菜々を優先させられてないかもしれない。

あたしも次はやさしく撫でたりしたろ。


「んっ、」

「うぁっ、は…ふっ、あんっ、」

「しょっぱい」

「はぁ、あほ…」

「けどむっちゃ美味しい」

「いやや…」

「あー顔隠さんといてや」


声が出てしまうことも山田があたしのを
舐めてるってわかっちゃうことも
全部全部恥ずかしくて耐えられへん。

あたしはこんなキャラちゃうし
自分がどんな顔してるかわからへんけど
多分いつもの山田のように
やらしい顔をしてしまっているに違いない。

そんな顔を見せるなんて恥ずかしすぎて無理や。


「もうあかん…」

「可愛いから、見して?」

「いやや、可愛くないし顔へんやん今絶対」

「えーもぅ。可愛いのに」


可愛いと言われることも
あまり慣れてなくて恥ずかしい。
しかも山田に言われると余計に。

自分の可愛い顔ってどんな顔やろ。
可愛い=やらしい顔
しか思い浮かばへん…。


「菜々、」

「ん?」

「焦らすの、やめ…っ」

「じゃあ言うて」

「菜々、の、…うぅ」

「さーやかー」

「無理や…」

「じゃあこのままやなあ。風邪引くで?」

「言うっ、から!菜々の、指、欲しぃ…ぁぅ」

「彩可愛すぎやろ。しゃーないからあげる」


ほんま恥ずかしすぎる。
けどあたしは今、菜々が指をくれないと
安心できない。
菜々がそうさせたんやで。


「ああぁっ…!」

「きもちー?」

「うっ、はぁ…っ、もっと、」

「えー?欲張りやなあ」


今日のあたしは素直だと思うし
かなり甘えていると思う。

でもこうでもしないと
山田を感じていないと、
あたしは寂しさで押しつぶされてしまうから。


「あっ、ん、」

「締め付けすぎやで?」

「ああっ、はぁ…っ」

「そろそろいく?」

「んっ、んっ」


まともにしゃべられへんくらい
あたしは感じていた。

まんまと山田の言うたとおりになってしまったな。


「ひくひくしてんで」

「んっ、いきそっ…」

「いく?ええよ?」

「あっ、いっ、!」




果てたあたしはただただぼーっとして
しばらく動けへんかった。


「お疲れ」

「ほんま、疲れた」

「はい、お水」

「ん、さんきゅ」


時計の針はもう1時を指しそうやった。
あたしら1時間もこんなことしてたんか。

盛ってんなあ。


「あ、」

「ん?」


急に何かと思ったら
首筋を舐めてきた。


「ちょ、なんやねん」

「つけてた」

「は?」

「消えへんかったら見えるわこれ」


え、いやいやいや
まってまって

見えるとこつけたん?!あほなん?!


「おまっ、」

「わあー怒らんといて、しゃあないやん!余裕なかってん」

「そんな言い訳聞けるか!あほ!」

「ごめん〜」


反省する気はないらしいので
とりあえずそこらへんにあった鏡で
自分の首筋を見る。


「ほんまに、ついてるし」

「川栄ちゃんみたいに言われちゃうかな」

「そうなったら山田にやられたって言いふらす」

「それは芸能人生棒に振るうな」

「あんただけな」


堕ちるときは一緒やろ?

そんなことを耳元で囁いてくる
こいつのことをあたしは怒れない。
止められなかったあたしにも非はあるし
むしろ端から止める気なんてなかった。


「ていうかやっぱあたしは上がいい」

「甘えてきたん誰やねん」

「いや、今日はええねん。けど、やっぱ上や」

「たまには私も上がいい」

「考えとくわ」

「いっぱい甘えてきてな?」


多分これから先
山田に甘えることが増えるんちゃうかな。

卒業してしまったら
お互いさらに会えなくなってしまうわけだし。
そうなったらこんな暇さえもないかもしれない。


そうなったら甘えられるときに甘えるしかないんだ。

最初は自分じゃないような自分を見せることが
ほんまに恥ずかしくて嫌やった。
キャラじゃないのもあったし
自分が甲高い声を出してることも
裸で足開いて腰振って…とか
想像しただけでも寒気がする。
そんな姿を好きな人に見せるなんて嫌すぎる。

と、思っていた。
しかし考えてみたらどうだろうか。
あたしはそんな姿を見たいと思って山田を求めている。
好きな人のそんな姿やったら見たいと思って当然やん?って。
それって言いかえれば
好きな人にそんな姿を見せるのも当然っちゃあ当然なんかなって
そう考えるようになって。

せやったらあたしは自分が恥ずかしいと思うことを
にやにやだらしない顔をしながら
山田にやらせているわけである。
山田があたしを求めたとき、断るのは間違っている。

そんな考えを持てるようになったとき
あたしは素直に山田に甘えることができるようになった。
普段の家でのように。末っ子やからって甘えてきたように。
あたしは山田に甘える。それはこれからもずっと

上がいいとは言ったけど
甘えたい時はとことん甘えようと思う。


「あたしが甘えても、嫌な顔すんなよ?」

「するわけないやん。むしろ嬉しいし!」

「あたし、むっちゃ甘えるで?」

「ふふ、もう知ってる」


山田にだけは甘えられる。
山田にだったら甘えたい。

あたしにとって山田は
家族よりも大切な大切な人。


だから、


「あたしらは永遠やで。堕ちるときもな」




END



よくわかんないけどとりあえず
甘えた末っ子彩ちゃんが好きということですね。

大人な菜々ちゃんも好きです、はい。

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