小説

□想ってるだけじゃ伝わらないから
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好き、やのに。


言われへん。言ったらあかんから
それが私たちのルールやし、破られへん。
わかってんねんけどそろそろあかん。
言ってしまいそうで怖い。


「あれ、山田?まだおったん?」


最悪なタイミングだ。

たった今あなたのことを考えていたのに。


「さやねえ、お疲れ様」

「おー」


疲れている、と言い訳できるだろうか。

抱きしめたらさやねえは怒る?


「さやか…」

「え、ちょ、」


疲れてんねん。ただそれだけ。

それ以外に理由なんてないねん。


「疲れてるから、許して…?」

「なんなん…」


もどかしい。

言いたいのに、言えないなんて。


「あかん、かな」

「疲れてんなら、理由になるんちゃう?」


ふっと微笑んで彩は許してくれた。

その笑顔、好き。


「ありがとー」

「おー」


普段はこんな関係なんかじゃない私たち。

だけどわかってる。


「言いたい、なぁ」


無意識に口からこぼれた。

なんでこんなに自信があるかって?
わかってんねん、好かれてるって。
好いてるのに、好かれてるのに
どうして言われへんねや…。


「…せやな」

「あかんよな」

「……せやな」


でももう。

止められそうにない。


「でも、」

「さやか?」

「言わんともっと、苦しくなる、と思う」


あかんって言ったのに矛盾してんで?

でも、なんか彩が言ったら妙に納得するしどーでもよくなる。


「なら、ええの?」

「わからへん」

「…好き」


もう言うしかないやん。

このまま言わんかったら彩が言うように
苦しむだけや。


「うん」

「両想い、やんな」

「あたしも、山田が好き」


わかってたつもりやったけど
やっぱり直接言われたらどこかくすぐったくて
嬉しくなった。


「約束、破っちゃったなあ」

「ん?」

「恋愛きん、し?」

「あー…、やんな」


でも、と彩は続けた


「共犯やで?」

「わかってるよ」

「もしバレたとき、一人で逃げたらあかんで?」

「逃げへん」

「逃げんなら、今やねんで…?」

「だから逃げへんってば」


そんな生半可な気持ちやない。

彩のことがずっと誰よりも好きやったんやから。


「キス、してもいい?」

「そういうの聞くん?」

「だ、だって…緊張すんねん」

「ふふ、かわええな」

「うっせ」


彩は慣れてなくて
そこがまた可愛かった。

やっぱり好きだ。


「どうしよーな?」

「楽しんでるやん」

「んー?なんかな、彩とやったら何でも大丈夫な気がすんねん!」

「どーゆーことやねん」


彩が一緒なら何でも乗り越えられる気がする。

たとえバレたとしても
彩がそばにいてくれるならわたしは何もいらないから。


「ずっと、好きやった」

「ん。あたしも」

「やっと、言えた」

「やな。言っちゃったな」

「言わせたん誰やねんー」

「山田が勝手に言うたんやろ?」


ずっとそばにいたけど
それはメンバーとして。

キャプテン、副キャプテンっていう
信頼の元だった。

けどもう違う。
私らは、好き合ってるんや。


「なあ、」

「ん?」

「私たちは、さ」

「…メンバーや」

「え、」

「表向きは、な?」

「彩…」

「あたしと、付き合ってください…」

「うん…!」


生まれて初めて
心の底から人を好きになった気がする。

彩と一生一緒にいたい。


これから、私たちはただのメンバー同士から
恋人に変わる。
バレたらあかんってわかってるけど
みるきーとか鋭いからすぐバレちゃいそうやなあ。


「とりあえず、帰ろ?」

「あ、うん」

「あのさ、」

「どしたん?」

「あたしの家、来うへん?」

「え、」

「あかん?」

「行く…、行きたい」

「うん、行こ」


まあバレたとしても
みんな優しいから、笑って許してくれるんちゃうかな?
私の女の勘で言うと
たぶん里香ちゃんと朱里もそんな雰囲気出てるし。


「なんかあれやな」

「なに?」

「やっぱ言うたらあかんかったかも」

「え?なんでなん?」

「初日から、止まれそうにないわ」

「は…っ」

「好きやのに触れられへんのつらかった」

「う、うん」

「がっつきすぎて、引かれそ」

「引かへん。むしろ、がっついて…?」

「ここで釣るな、あほ」


抱きしめてくれる彩は
いつもの意地悪なさやねえではなくて
私だけに見せてくれる
優しい笑顔の彩だった。




END

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