小説

□傘を口実に
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「山田先輩やないとあかんです」


そう言った彩ちゃんの目には
涙が溜まっていた。






「あ、菜々。またきたで?山本彩」


今年で高校生活も
終了となる3年生に進級した私達。

部活にも入ってないし
後輩と関わる場面なんてほとんどない。

なのに…


「山田先輩!」


またや。

3年生になる前、2年の終わりの終業式の日。


「なんか、あの子、むっちゃこっち見てんで」


愛菜に言われて
振り向いてみたら髪の短い
ボーイッシュな女の子がこっちを見ていた。


「誰?」

「知らん。菜々、後輩に知り合いいたっけ」

「居らん。誰やろ」


知らへん子にむっちゃ見られて
いい気はせえへん。
けどなんか、話したそうな
こっちに来たそうな感じがしたから。

とりあえず首を傾げてみた。


「え、」


それを合図とでも思ったんやろうか。
後輩と思われる子がこっちへやってきた。


「あ、あの!」

「…」

「あ、たし!山本彩って言います!あの、好きですっ」


は?
なんなんこの子。
いきなりきて好きです、なんて。


「ちょっと待って意味わからへん」

「わかんなくていいです!好きなんです!」

「ほんま、なに?待って」

「山田先輩、」


名前。
なんで知ってんねん。


「私のこと、知ってるん?」

「当たり前やないですか!あたしはずっと山田先輩を見てたんです!」

「なんで?」

「なんでって、好きだから」

「意味わからん」


ようわからへんけど
なぜかこの山本彩ちゃんは私のことが好きらしい。

どうして私なのか。
関わりのない、年上である私を好きになる
理由がわからない。


「まずはLINE、交換してほしいです。ダメ、ですか…?」

「LINE?まあ、ええけど…」


と、まあ。
出会いというか彩ちゃんと関わることになった
経緯はこんなもん。
彩ちゃんによるとあの日しかタイミングがなかったらしい。
まあ会うときないしな。


それから学年が上がって
お互いに2年生、3年生になってからというもの。


毎日毎日、彩ちゃんは懲りずにこの教室にやってくる。


「山田先輩、今日予定ありますか?」

「んーないけど」

「せやったら、一緒に帰りませんか?」

「またそれや」

「一緒に、帰らしてください」

「いやや言うても待ってるやん」

「まあ、そうなんですけど」


私はさっきも言ったように帰宅部やから
放課後の予定はバイトくらい。
そのバイトも今日は休みや。


友達が少ない私は愛菜くらいしか一緒に帰るような友達がいない。
そんな愛菜は大抵部活やから私は毎日一人で帰っていた。
それを知ってか知らずか新学年が始まった日に彩ちゃんは
『これから毎日一緒に帰りませんか?』
なんて言うてきて。

断る理由があるわけでもないし
一緒に帰るくらいなんともないんやけど
わざわざ一緒に帰るのもめんどくさいし
後輩と帰る意味もわからんくて
結局初めて誘われた日は適当な理由をつけて断ったんやけど。

それから毎日、一緒に帰ろうと言われるようになった。
毎日断るわけにも行かへんし
渋々折れて初めて帰った日
彩ちゃんは嬉しそうに
『やっぱり先輩、面白くて可愛くて一緒にいて楽しいですね』
なんて言うから
不覚にも少しドキッとしてしまった。


「予定ないから、ええよ」

「ほんまですか?よかった」

「いっつも帰ってるやん結局」

「でも、今日は最初に断らへんかった」

「断ってほしかったん?」

「そんなわけないやないですか!」

「ふふ、冗談」





その日の放課後。


「愛菜、部活頑張ってな?」

「ありがとう。菜々気をつけて帰り?雨降ってくるらしいし」

「え?ほんま?」

「やからはよ帰り。また彩と帰るんやろ?」

「うん、まあ」

「雨降る前に帰りな」


雨降るなんて知らへん。聞いてへん。
大丈夫かな…


「あ、山田先輩!」

「彩ちゃん」


彩ちゃんの手には傘があった。
やっぱり降るんや…。

まだ降ってなさそうやけど。


「山田先輩、傘ないんですか?」

「あー、うん。知らんくて、忘れてん」

「よかった…」

「え?」

「あ、いや!傘、なかった一緒の傘で帰れるかなって……なんでもないです。忘れてください」

「いやいや。なんでやねん」

「引きましたか?」

「引かへんよ。別に。傘忘れて困ってたとこやし」

「ですね…」


アイアイ傘。
好きな人と一度はやってみたいことやと思う。

別に私は彩ちゃんが好きなわけちゃうから
なんとも思わへんけどな…?


「はよ帰ろー?」

「あ、はい!」


私が先を歩くと
小走りでついてくる彩ちゃんを少し可愛いと思ったことは内緒。


「あ、」

「や、ばい!山田先輩早く!」


予報通りに雨は降ってきたらしく
駅に着く直前に降り出した。


「ほんまに降ってきた…」

「ですね」

「しかもむっちゃ強ない?」

「これから雷雨らしいですよ」

「ら、雷雨…?」


最悪や。
雷なんて聞いてへん。
今日親おらへん…。弟も彼女の家やし。

ほんま最悪。


「山田先輩、雷苦手ですか?」

「や!ちゃうよ。そんなんちゃう」


彩ちゃんに図星つかれて
慌てて否定した。


「ほんまですか?とりあえず、今日家まで送ります」


いつもは電車を途中まで一緒に乗って
彩ちゃんが3個目の駅、私は5個目の駅で降りる。


「や、ええよ」

「いやいや。山田先輩傘ないんですよ?わかってます?」

「あ、」


アイアイ傘、することになるんや…。


「送りますね、家まで」


どうしてこんなに彩ちゃんと仲良くなったのか
彩ちゃんが懲りずに私に話しかけてくるのか。
それを私がどうして嬉しいと思ってしまうのか。


今はまだ、わかりたくない。


「ありがと…」





「こっちの駅あんま来ーへんからむっちゃ新鮮や」

「そーなん?」

「はい」


私の最寄駅につくと
彩ちゃんは目をキラキラさせた。

2つしか離れてへんのにそんなちゃうもんなんかな。
ていうかそんな初めて見たようなキラキラした目ーしやんでも。


「彩ちゃん…」

「ん?なんですか?」

「濡れんで?」

「あたしは大丈夫です。山田先輩が濡れた方が困りますから」


そうやって、優しくするから。
好きやないのに、彩ちゃんのことなんか。


「あ、ここ」


丁寧に玄関の直前まで傘を差してくれた。


「じゃあ、また明日」

「うん、ありがとな?」


と、ここでお別れのはず。

だったんだけど…


ゴロゴロゴロっ…!


「きゃあっ」

「え、ちょ、山田先輩?!」


見せたくなかったのに。
雷に怯える姿なんて。


「あっ、ご、めんな?大丈夫やか、」

「苦手なんやないですか。雷」

「や、ちゃうねん!びっくりしただけで、」

「そんな風には、見えませんよ?」


そう言って私の頬を撫でるから。
そんな仕草にドキッとして。

そこで初めて自分が泣いていたことに気づいたんだ。


「あ、」

「泣いてます。山田先輩」

「な、いてへん」

「涙は正直ですから」


怯えてしゃがんだ私に合わせて
彩ちゃんも傘を差しながら目線を合わせてくれる。

そんなところも優しくて、


好き。


好きだ。


「彩ちゃん」

「なんですか?」

「す、」

「ん?」

「すき…」


あぁ。
言ってしまった。

気づいた恋心に、嘘をつくことは出来なかった。


「山田先輩、」

「やっ、」

「やっと。振り向いてくれた…」


傘を捨てて抱きしめてくれる彩ちゃんは
声が震えて、泣いてるみたいだった。


「こんなに好きやのに、振り向いてくれへんから、あたしに望みないんかなって、思って…」

「望み、あるよ…」

「うん。みたいですね」

「気づいちゃってん…けど、私でいいん?」

「山田先輩やないとあかんです」


そう言った彩ちゃんの目には
案の定涙が溜まっていた。

その姿を、可愛いと
そう思った私はもうすでに彩ちゃんにハマっていると
気づいてしまったんだ。


「雷が止むまで、一緒にいてくれませんか…?」

「山田先輩と一緒に居れるなら、ずっとそばにいます」




END


おまけ


「なぁなぁ、なんで私やったん?」


あのあと彩ちゃんを家に招き入れ
先程までDVDを一緒に見ていた。

内容が恋愛ものでなんとなく
私たちに似ていたから
ふと、気になって聞いてみただけ。


「初めて見たのは入学式です。そんとき、むっちゃ可愛い先輩いた!って話題になって。それが山田先輩やったんです。最初は気になるくらいやったんです。けど、朝来る時とか文化祭とか見かける度に目で追いかけてて。気づいたら好きになってたんです」


そんで1年間、片想いですよ
なんて。

照れた笑顔で言うから。
なんでもっと早く好きにならんかってんって
自分を少し責めた。

こんなに可愛い後輩が
自分を好きだと言ってくれていることに
もっと早く気づけばよかった。


「ほんまに、好きやったんや」

「え?」

「初めて話しかけられた日」

「あぁ。あのとき初めて目が合って。今しかないって思って」

「嘘やって思ってた」

「え!信じてなかったんですか?」

「信じられへんやん。急に話しかけられて、好き、やで?」


でもあの日。
彩ちゃんが話しかけてくれて
毎日毎日懲りずに訪ねてくれて
仲良くなれたから。

私たちはこうして恋人になれたから。


彩ちゃんの一途さには感謝だ。


「でも、好きやったんやもん」

「ふふ、かわい」

「山田先輩のほうが、」

「菜々がいい」

「え?」

「名前」

「えぇ〜。むっちゃはずい。緊張する」

「彩って、呼ぶから」

「…ん。菜々…」

「彩」


名前で呼ぶのはこれから慣らしていこうかなって
やっぱり私は彩ちゃんにハマっているみたい。



END


だんだんやけくそですが。
ただ先輩後輩の関係を書きたかっただけです。

さやねえが意外と菜々ちゃんタイプで
菜々ちゃんが意外とさやねえタイプっていう
よくわからん妄想です。

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