小説

□記念日
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出会って12年、付き合って10年、同棲して5年。


いろいろあったし別れの危機にも何度も直面した。


『山田なんか知らん』

『彩なんか知らへんから!』


こんな言い合い、昔はよくしてた。

今じゃ家で挨拶できない日があるくらい
停滞期?になってて。

でもなんだかんだ仲はいいと思うし
記念日とか誕生日とかちゃんとお祝いもしてる。

お互いに働いて
いつか形だけでも結婚したいって。
そう思って今まで来た。


「そろそろ行動せな、」


出会った頃は中学生やったのに
今ではもう25歳。

年をとったもんだ。
それほどにあいつとはずっと一緒にいる。


もう十分待ったと思うし待たせたと思う。




「彩〜?」


珍しくあたしと山田は朝がかぶった。

いつもは山田の方が早くてあたしが遅い。
昔は朝起きられへんかった山田が
朝に強くなったことに少なからず驚いている。

帰りも山田は早くてあたしは遅い。
だから帰れば山田は寝てるし
起きれば山田はもういない、なんて日はしょっちゅうだ。


「んー?」


今日は会議やからあたしも早く行かなあかん。
せやけどどうも朝遅いのが身についてるからか
起きられへんくて
結局山田が起こしてくれた。

昨日朝早いって言うといてほんまよかった。


「あ、おった。行ってくんな?」


とりあえず顔を洗ってさっぱりしてたら
もう支度を済ませた山田が顔を出してきた。


「もう行くん?」

「うん。いつもこんなんやで?」


はじめの頃は
あたしも山田に合わせて起きていたが
いつからかしなくなった。

確か、山田が無理して起きなくていいとかなんとか言うてきて
あたしもあたしでそれをまんまと受け入れてしまったからや。

ほんまは無理してでも会いたいんやけど…
今さら朝起きるのも億劫やし
日付けが変わったあとに眠りにつくあたしやから
睡眠時間が短いのも仕事に響くし。

結局山田に会えへん日が続くわけや。


「そっか。大変やな」

「んー、もう慣れた。あ、戸締りちゃんとしてな?この前一回だけドア閉まってなかったことあったで」

「うっそ?!まじで?ごめん、気をつける」

「うん。よし、行ってくる」


いつから山田はこんなに大人になったのだろう。
あたしが見ない間に
すごく大人の女性になっていってて
絶対に会社でモテるんやろなと思う。

すこし嫉妬もするけど
あたしも人のこと言えんしな。


「菜々、」


こうやって話をしたのはいつぶりだろう?
1週間?2週間?
そうやって思い出せないくらいに
あたしたちは久しぶりに話をしたんだ。


「彩?…って、ちょ、」

「…っ。おし、行ってらっしゃい」


行ってらっしゃいのちゅーってやつ?

キスすんのやってそれこそいつぶりやろ。


「彩、」

「時間、なくなんで?はよ行ってき?」


なんか恥ずかしくなって
山田を急かす。


「あ、うん…。行ってくるな?」

「うん、行ってらっしゃい」


もうすぐで付き合って10年目の記念日。

つまりホワイトデー。


バレンタインデーは時期的に受験とかぶるから
あたしらの学校では
中3はホワイトデーに渡すのが暗黙の了解になっていた。

受験終わりのホワイトデー。
あたしはもちろん山田に用意していた。
…告白をするために。

甘いもん苦手やしようわからへんけど
お姉ちゃんに味見してもらいながらなんとか
作り上げた。
普段料理とかしやんしあたしがバレンタインとか
なんかキャラちゃうし今までバレンタインは
買ってきたやつやったけど初めて山田のために作ったんや。

その年はたまたまホワイトデーと卒業式が重なって
あたしだけやなくて
他のみんなも渡しにくかったはずや。
いつ渡そう、とか他の人と渡すのかぶったらどうしよ、とか。

あたしは山田に卒業式が終わったら会いたいと伝えていた。
山田も同じやったらしく
私も彩に言いたいことあんねん!って
むっちゃ嬉しそうな顔で言うから
あたしはガキながらにその意味をなんとなく理解して
たぶんあたしと同じやろなって得意げになった。

待ちに待った卒業式後。
予想は大当たりであたしと山田はお互い
ホワイトデーにチョコレートを作ってきていた。
あたしが先に山田にチョコレートを渡す。


『彩が作るなんて珍しいな?ありがと』


恥ずかしくてあの時のあたしは顔が真っ赤やったと思う。

山田のくれたチョコレートはあたしに合わせて
ちゃんとビターチョコにしてくれて
気が利くというかなんというか。
とりあえずむちゃくちゃ嬉しかった。


『山田、』


と、いつものように苗字で名前を呼んだところで思い直して
告白くらい下の名前で呼んだろ、と気合を入れ直した。


『菜々』


緊張して舌が回らなかったけど、必死やった。


『あたし、菜々が好きや。ずっと好きやった。あたしと付き合うてくれへん?』

『彩…、うん。私も、好き』


高校は同じで大学はあたしが四大、山田が短大。

山田は先に社会人になったから
あたしはそんな山田にもやもやしたこともあった。

飲みに誘われたりした話を聞くと
嫌な方にばっかり考えて嫉妬して山田に当たって。
何度も喧嘩した。

けどあたしも2年遅れて社会人になって
やっと山田の気持ちを理解した。



なんだかんだ今までいろんなことがあった。
10年という月日は長いようで短くて。
もうあたしらは将来を見据えなければいけない年になってきた。


「ただいま」


会議で早く家を出た分
あたしは早く家に帰ることができた。

おかげで山田は起きていたし
久しぶりにあしたはお互い休みだ。
もちろんそれは有給で必然的に取った休みなんやけど。


「おかえり、彩」


リビングに入ると山田はテレビもつけずに
ソファに座って携帯をいじっていた。

昔はテレビをつけていないと
さみしさで泣いてしまっていた山田が
もう今はテレビをつけなくても
一人で家にいられるようになっていることに
またあたしは驚いた。


「なあ、山田」

「ん?」


なんかほんまに知らへんうちに
山田がどんどん大人になっててあたしは焦っていた。


「…痩せた?」

「あー…やっぱわかった?」

「抱き心地、悪なった」


前まではほどよい肉付きで
女の子らしい体やったのに
久しぶりに抱きしめてみればすこし痩せて骨が当たる。


「なんか、疲れてるときとか食欲湧かんねん」

「え?あたしの作ってくれてんのに山田食べてへんかったん?」

「うん…」


確かに食器がなかったなと、今思えば山田が食べてへんかったことに
あたしは気づけたはずやのに。

あたしも疲れてそれどころじゃなかったんや。
ていうか帰ってきたらご飯あるとか
当たり前やないよな。
あたし、気づかんうちに山田に甘えてたんやな。


「ごめんな、気づかんかった」

「やっ、彩のせいちゃうやん。今日は食べる。ちゃんと2人分作ったもん。食べよ?」

「おう」


山田ははじめ、餃子を黒焦げにするくらい
料理ができひんかったのに
一緒に生活していくにつれて
格段に料理の腕が上がっていた。

今ではほんまにそこらへんのファミレスより美味いと思う。


「…おいしい?」

「うん、むっちゃうまい。つかいつも美味い。毎日ありがとな?」

「ふふっ、今日は素直やな」

「今日くらいええやろ」


帰ってくるのがあたしは遅いから
いつもご飯はラップに包まれている。

だからレンジでチンして食べるんやけど
それでもむっちゃ美味い。
1回冷めたやつやのになんでこんな美味いん?ってくらい美味い。

せやからあたしは安心して家に帰ってこれる。
ちなみにあたしは合コンや飲み会の類のものは大抵断っている。
帰れば山田がおるしな。

それがなくても帰るのは遅い。
しゃあないねん。後片付けとか雑用はあたしの仕事やし。
帰れる日はちゃんと早く帰っている。


「なあなあ。明日どっか行く?」

「いや、明日はゆっくりしようや。でかけるのもええけど雨らしいし。昼くらいまで寝て起きたらゆっくりしよ」


明日はあたしたちの大切な記念日。
付き合って10年の記念日や。

ということはもちろんホワイトデーということになる。
やからあたしは明日早く起きて
山田のためにチョコレートを作ろうと思う。
バレンタインもらったしな。
10年前のあの日あたしが初めて誰かに作ったチョコレート。
山田のためだけに人生で初めて作ったものを
明日もう一度やっぱり山田のために作ろう。


「雨なんかあ。じゃあしゃあないなあ。でもお昼まで寝るのもったいないやん」

「ええやんたまには。もうあたしら社会人やで?休みも必要やんか」

「けど!明日やなくたって…」

「そういう記念日やって、悪くないやろ?」

「…怪しい」

「なんでやねん」

「なんか企んでるやろ」

「なんでそうなるねん!企んでへん」

「嘘や、正直に言うてみ」

「ホワイトデー」

「ん?」

「それ以上言わん。察しろあほ」

「あっ、そっかあ。彩ちゃん私のために作ってくれるんやねえ?」

「…わざとらしいしムカつく」

「ふふっ、楽しみやな〜」

「期待しとけ」


もう準備は整ってんねん。
明日無事にチョコレートを作り終えられれば
あとは…プロポーズするだけや。

チョコレートもサプライズしたかったのに
この変に鋭いおばちゃんにはすぐバレてまう。
まあいくら鋭くてもプロポーズのサプライズまではわからへんやろな。


「じゃあ昼まで寝てる。起きたらサプライズ〜やな?」

「もうサプライズにならへんやんか」

「ふふっ、ええねん。起きたらチョコレートくれるってだけでサプライズやんか」

「バレてたら意味ないねん」

「細かいなあ」


ふにゃふにゃ笑ってる山田を見てると
あたしはほんまに幸せやと思う。

山田はいつもあたしに幸せをくれる。
やからあたしも山田を幸せにしたいし
いつまでもあたしに幸せを与えてほしい。
ちょっとわがままかな?けどしゃあないやん。あたし末っ子やし?



2人でご飯食べてお風呂入ってあとは寝るだけ。


「一緒に寝るんも、久々やな」

「せやなー。彩帰ってくるの遅いもんな。待ってたいんやけどなかなか睡魔には勝てへん」


最初こそ待っててくれたけど
山田の朝がだんだん早くなっていったから
山田はあたしを待たずに寝てしまうことが多くなった。

あたしもあたしでだんだん帰りが遅くなっていってたし。


「無理しやんでええ。もうちょっとしたらな、早く帰れるようになれるっぽいねん」

「お!ついに昇格するん?」

「んーわからんけどもう少しで新入社員くるから」

「あ、そっか。もうそんな時期やんな」

「そ。やからそしたら夜は会えるで」

「ふふ、楽しみや」


まだまだあたしはひよっこやけど
新入社員がくるから
今までのあたしの仕事をその新入社員がやることになると思う。
あたしはよく3年もやってきたと思う。


でももうすぐで少し余裕ができる。
帰れば山田がいて
2人でご飯を食べてゆっくりする生活が出来ると思うと
あたしは楽しみで仕方ない。


「よし、そろそろ寝よー?」

「おー。おやすみ」

「うん。なぁ、ぎゅってしといて?」

「ははっ、わかったわかった」

「さやか、おやすみ」





......................................................





あたしは朝早くに目を覚まし
ホワイトデーの準備を始めた。


「あかん、甘すぎ…」


レシピ通りチョコレートをつくってみると
あたしには甘すぎてわけわからん。

これが美味しいのかはわからんけど
たぶん山田は喜んでくれるだろう。


そろそろ山田を起こそうか。
チョコレートと指輪を準備したあたしは
寝室へと向かった。


「やまだー」


山田は布団の中で気持ちよさそうに寝ていた。


「やっぱ寝顔は幼いな…」


子供みたいな寝顔に思わず顔が緩む。
起こすとむっちゃ機嫌悪なるけど。


「起きろー。やまだー」


体を揺するけど全然起きへん。


「起きひんとちゅーすんでー?」


冗談半分で顔をのぞき込んだら…


「…しやんの?」

「うっ、わ!!びっ、っくりしたぁ」

「なぁ、しーひんの?」


突然山田の目が開いたからマジでびびった。
起きてたんかい。
むっちゃ恥ずいし。


「ん」

「んっ。…ふぁ〜。おはよ」

「おはよ」


山田はひとつ伸びをすると
布団から起き上がった。


「むっちゃ甘い匂いする」

「おー。つかいつから起きてたん?」

「『やまだー』って来たとこから」

「おまっ…。最悪やん…」

「それより甘い匂いー」

「あーはいはい」


初めから起きていたなんてほんまに最悪や。
けどまあ、本音やしええけど。

そんなことより早くチョコレートを渡そう。


「ほい。バレンタインはありがとな」

「あ!あんときと同じやん!」

「そうやで」

「去年まで買ってきたやつやったのに今年はなんで急に作ったん?」

「あんな、言わなあかんことがあんねん」

「え、なに?むっちゃ怖いんやけど」

「いやいや、なんでやねん」


あたしは大きく深呼吸をした。
噛まないように…失敗しないように…


「なに?」

「…あたしのそばにずっと居ってくれへん?」

「え、」

「開けて?」

「……ゆび、わ?」

「うん。結婚してほしい」

「さやかっ…」

「わっ、ちょ、」


指輪を渡してプロポーズすれば
山田は泣き出してしまった。

サプライズ成功、かな?


「ありがとうぅ。むっちゃ嬉しいし…」

「ならよかった」

「ずっと一生そばに居るー!」

「ははっ、ありがと」


法律的には結婚なんて出来へんけど
あたしは山田がそばにいてくれたらそれでいい。

あたしはこれからも
山田と一緒に過ごしていきたい。

来年も再来年もまたその次も。
ずっと一緒に記念日をお祝いできますように。



END


終わり方がわからなくて
どーーん。

途中まで書くと飽きちゃいます。
最後までちゃんと書ききることが今年の目標←

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