小説

□人のせいにしてはいけません
1ページ/1ページ





最近、高野がうざい。


「菜々さん!」

「あ〜ゆいぽん〜!」


山田に必要以上にちょっかいを出してくるし
あたしが山田に近づこうもんなら
無理やり引っ張ってMの方に連れていってしまう。

山田はあたしの彼女やねんけど。


「菜々さん、また細くなりました?」

「…お腹つまんで言うことちゃうよな、それ」

「あっはは、冗談ですよ〜」

「それも失礼や!」


余裕ぶった顔。

ムカつくし、うざい。


この前すれ違いに『菜々さんって、可愛いですよね』とか言うてきたし。
先輩やぞ?!しかもあたしの彼女やぞ?
喧嘩売ってるとしか思えへんし
あわよくば、奪おうとか、思ってると思う。

山田も山田で満更でもないような
嬉しそうな顔してる。
それがさらにあたしをイライラさせる。


「菜々さんやっぱり可愛いですよね」

「ほんま、やめてって」

「ま、冗談ですけど」

「もうなんなん?ゆいぽんいやや」

「愛ですよ〜」


仲良しを見せつけられてるみたいで。

山田はあたしに見向きもしないし。


ほんま、意味わからへん。


でも。
素直に聞けない、あたしも
意味わからへん。


「ゆいぽんは大人っぽくなったよな〜」

「私もう21歳ですよ?」

「せやけどさ。垢抜けたっていうか」

「あー。でも言われます、それ」

「やろ?変わったもん」

「変わってませんよ、なんも」


鈍感じゃない限り気づくと思う。

真剣な目で、見つめられたら。


しかし山田はどうだろう?
鈍感、天然、アホ。
三拍子揃いが、気づくかと言われれば
気がつかないだろう。


「変わったって〜」

「はは、ありがとうございます」


高野の想いを踏みにじるように
笑顔を向ける山田に
あたしはなぜか、気づいてやれよと
思ってしまった。

ちゃうねん。


「……っ」


声を出したくても、出せない。
なぜなら、


「ゆいぽん、可愛いな〜」


ただの可愛い後輩としか思っていない山田が
山田を想っている高野の頭を
優しく撫でたから。

勘違い、されんねん。


「菜々、さん」


顔を赤くして、俯いているゆいぽんを見て
山田は何かを思わないのか。

いや、思わないだろうな。


「あ、ごめん。無意識」

「や、大丈夫です。ていうかむしろ、嬉しいっていうか」

「ふふっ、いつでもしてあげるよ?」


お姉さんぶる山田に嫌気が差す。

あたしには、しないくせに。







と、まあ。
楽屋の片隅で1人音楽を聴きながら
そんなことを思ってみても
山田がこちらに振り向くわけでも、ゆいぽんがこっちを見て
ニヤついた顔をするわけでもない。


ただただあたしは
二人を見て、勝手に落ち込み、イライラするだけ。

何にも解決しないのに。
あたしは一歩も動けずにいる。


「…か、…。さん、さやかさん!」


イヤホンをつけたまま
ずっと目を瞑って考えていたら

誰かに呼ばれた。


「あ、」

「どんだけ大音量で聴いてたんですか?もうすぐ収録始まりますよ」


ゆいぽんだ。

いつの間に山田とわかれたのか
山田はもう楽屋にはいなかった。


「…おー」

「彩さん」

「お?」

「私、好きですよ」

「は?」

「菜々さんのこと」


…宣戦布告だ。

高野祐衣とは、こういうやつだ。


「奪わせへん」

「どうでしょうか」


余裕のある含み笑いにまたイラついた。


「ゆいぽん?と、さや、ねえ?」


高野に宣戦布告をされていたら
山田が戻ってきた。


「あ、菜々さん」

「ゆいぽん、ちょっと外して」

「ごめんなさい、出来ません」


真剣な目。
まただ。

ゆいぽんは、本気だ。


「ゆいぽん」

「菜々さん」

「ごめんやけど、いい?」

「…菜々さんが言うなら」

「ごめんな?」


山田に言われてようやく楽屋の外に出てくれた。

そういえば、他のメンバーは居らんのかな?


「山田」

「ん?」

「他のメンバーは?」

「先にスタジオ行ったで。さやねえと私は遅れる言うといた」

「そっか」

「なあ、さやねえ」

「…ん?」

「私に言いたいこと、あるんやろ?」


山田はふと、お姉さんの顔になることがある。

さっきまでゆいぽんとふざけ合っていたのに。


「…あんたさぁ、ゆいぽんのことどう思ってるん?」

「どうって、ただの後輩やん」

「けど、ゆいぽんはそんなこと思ってへんと思うで」

「なんなん?そうやったとして、どうしてほしいん?」

「どうしてって…」


あたしは、どうしてほしいんだろう。

高野の想いに気づいて欲しい?
高野と山田がくっついてしまう可能性を考えてる?

…いや、ありえない。


「わかってるよ。ゆいぽん、むっちゃ真剣やねんもん。告白も、された」

「えっ…」

「けどな、もちろん断ったで。私には彩しかおらへんから」

「山田…」


ゆいぽんは余裕なんかじゃなかった。
きっと必死なんだ。
本気で山田を好きで、あたしから奪いたいと思ってる。

それでも、山田はあたしのだし
山田もあたしを選んでくれた。
あたしは恋人という肩書きに満足していたんだ。


「彩さんと私とどっちといる方が楽しいですか?って聞かれてんか。私な、答えられなかってん」

「…」

「さやねえといる時、確かに多くは語らないしくだらない楽しさって言うのかな、そういうのは正直ないねん。けど、さやねえとは誰よりも気が合う自信があるしとにかく好きやから一緒にいるだけで幸せやねん。それも一種の楽しさやん?ゆいぽんと居るのも楽しいのは楽しいねんけど、さやねえといる時のこの気持ちに勝てるものはないと思うねん。やからな、楽しいっていう言葉だけじゃ表せないから、だから答えられなかってん」


あたしたちは確かにくっつく柄じゃない。

山田はお姉さんって感じやから
特定の人と仲良くするようなことはあまりしないし
あたしはあたしで真面目なタイプやから
同じ匂いのする人とは仲良くするけど
年下にはお姉さんづらするし
年上は先輩って思っちゃってなかなか自分から話しかけられないところがある。

そんなことを無意識に言い訳にして
あたしは山田との時間を大切にしていなかったのかもしれない。
恋人だからって、余裕ぶっていたかもしれない。


「なんで、ゆいぽんに告られたん言わんかったん?」

「言おうと思ったんやけど、さやねえやけにゆいぽんのことライバル視っていうか対抗した目で見てるから言うたらゆいぽんになんかするんちゃうかなって思って」

「…あぁ」


否定できひん!
別になんもせーへんけど何でか否定できひん。


「ゆいぽんな?心配してくれてんねん。彩さんが冷めた態度ばっかしてたら祐衣が慰めてあげますよって会うたびに言うてくれるねん」

「あたし、冷めた態度してたか…?」

「私はもう慣れてるからそんなこと思わへんけど、周りから見たらそう見えるんちゃう?」

「そっ、か…」

「ゆいぽんにもな、周りから見たら彩さんは冷めてますって言われて、そんなの見たくないって言われてん。やから多分、無理やりでもさやねえと私を近づけたくなかったんやと思う。ごめんな?」

「山田が、謝ることちゃうやん」

「そうやけど」

「あたしのせいやんな。あたし、山田の恋人やからって調子乗ってた。ゆいぽんに取られることなんかありえへんって」

「さやねえ」

「けど、ゆいぽんが本気って気づいて急に焦った。あたしが山田に構ってあげられへんかったのに、最低やんな」

「そんなことない。私はさやねえがいい」

「あたしも、山田がいい」

「名前」

「ん?」

「名前だったらもっといい」

「…菜々」

「彩」

「誰よりも、好きやから」

「私も好き」


ゆいぽんはあたしたちを応援してくれている。
というか、山田の幸せを願ってる。

やからあたしが山田を幸せにできひんなら
奪うつもりやったと思う。


けど、山田が否定してくれた。
山田の言うことにNOと言えないらしいゆいぽんは
ゆいぽんなりに心配をしてくれていた。

後輩の方が一枚上手みたいで
ちょっと気に食わないけど
ゆいぽんのおかげであたしは大事なことに気づけた気がする。


ゆいぽんには渡せへんけど
これからも山田のことを見守っててほしい。


「あとで、ゆいぽんにお礼言わな」

「私も行こっか?」

「あー、あたし一人やとなめた態度取られそうやから一緒に来て」

「えーゆいぽん彩のことなめてへんよ。むしろ尊敬してたし」

「嘘や」

「ほんまやって!菜々さんのことになると彩さん敏感って言うてた」

「それ尊敬されてないやん。むしろやっぱなめられてるやろ」

「そうかなぁ?」

「まーとにかくさ、あたしが山田大好きなのに嫉妬してんやろ」

「ゆいぽんが?そんなキャラちゃうけどな」

「表に出さへんタイプやろ、あれは」

「ていうか今山田大好きって言うた?言うたよな?もっかい言って〜」

「あーうるさいうるさい。ほら、もう行くで?」

「あっ、やばい!収録忘れてた」

「あんたあほやな」


あたしは山田が思ってる以上に
山田のことが大好きやで。


それこそあたしのキャラじゃないと言われるくらい
あたしは山田を独占したいんだから。


ゆいぽんには感謝してる。
あたしに改めて山田が好きなことを
自覚させてくれたから。

うざいとか思ってしまったけどその裏にはゆいぽんなりの優しさがあると知って
あたしは少し、嬉しくなった。



END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ