闇口の世界理論

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「夜魅」

「なに?」

「キスをしたことはあるか?」

「ないけど」

「ほう」

「意外?」

「まあな」

斜めに降り注ぐ夕陽の緋色 人通りが少ない二人きりの図書館
シチュエーションは完璧と言ってもいいね。これを狙っていたのかは知らないけど

何て考えている内に距離はゼロ
お香のいい香りがするなとぼんやり思った


「…抵抗しないんだな」

ここであらぬ誤解を受けぬように訂正を入れておく。柳くんがキスしたのは唇ではなく、そのギリギリ端あたりだ。
まぁカウントとしてキスに入るのかもしれないけどワザと避けたのであればノーカン。
私のファーストキスは守られたようだ。


「…私は唇にしなかった柳くんの臆病鳥っぷりに驚いてる」

「して欲しかったのか?」

「まさか」

「俺が最初なら光栄だな」

「学校中から嬲られるのが想像できるよ」

「……構わない」


最後に私の前髪をかきあげて額に口付けると席につき破れてしまったノートを嘆いた。
私は再び読書に戻る。ちなみに『嵐が丘』
まるで何もなかったかのようにそれぞれの事に戻り沈黙が続いていた。

でもちゃんと訳は聞いたよ。何でも悪戯に近付いたら私の色香にやられたんだって。
今日は首元にネールオレンジのパウダーを使ったからかな。学校では使わないようにしよう。

私、今さら唇奪われるぐらいで動じないけど



想定外の行動
  (彼は聡明そうなオオカミさん)



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