夢 短編

□初雪
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「寒くない?」

少し風がでてきて彼女のマフラーが風になびいていた。
「へっちゃらっ」
それでも彼女は笑ってブイサインをする。
その指先が少し赤くなっていた。
「じゃあ俺が寒い場合、どうすればいいと思う?」
尋ねると一瞬だけ目を点にさせる。
そして「あっ」と短く声を上げあたりを見渡した。
「どこかあたたかい場所にでも」
彼女の親切心からくる言葉を遮って、赤くなっている手を両手で包んだ。
「えっ!?」
「君の手も冷たくなってるよ」
「えっ、あっ、や、山崎さんの手はあったかいね」

照れ笑いに胸が高鳴る。

この握った手を嫌がらないのは、期待してもいいんだろうか。
ほんのりと赤いほっぺたは冷たさのせいなのか、それとも……。
「どうする?お店入っちゃいます?」
「いや、いいよ。そのかわりしばらくこのまま歩いても構わないかな?」
自分の右手だけをおろし、彼女の右手と自分の左手はいまだに繋がったまま。
「私のほうが手冷たいのに、大丈夫ですか?」
「大丈夫。あっためてあげる」
こんなべたな台詞はいて
彼女の右手をつかんだまま歩き出す。

少し肌寒いのなんて忘れるくらい
君の笑顔に夢中な自分がはずかしくって
それに気づいたら余計に体温があがって

そう、この手だって君と偶然会うまでは冷たかったのに
君に会ってから急にあつくなったんだ。

「なんだかデートみたいだね!」

そんなことを言いながら手を握り返してくれる。

あぁ、もうだめだ。
それだけで舞い上がる。
もっともっと好きになる。

照れて赤くなる顔を見られないように
彼女の前を歩いた。

無謀だとわかっていても、もう俺は引き返せない。
引き返すことなんて、できない。







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