二次創作小説

□誕生日
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誕生日……だけど、
もう夜なのに、誰も祝いにきてくれない……。

   『あんたの誕生日なんて誰もくるわけないでしょ?』

頭の中で彼女の声が再生される。

  『あんたのことなんかみんな忘れてるわよ』

一人でケーキを買って、ろうそくに火をつける。
真っ暗な部屋の中、ろうそくの火だけが灯っていて、
その小さな明かりが少しだけ心を癒してくれる。
でもこのろうそくを消して一人でケーキを食べるなんて、なんて悲しい光景だろうか。

それを思いだしたらなかなかろうそくの火を消せれずにいた。

だれか、きてくれないかな?
私なんかのために誰もきてくれないよね?
彼女もそう言っていた。
でも、一人は嫌だな……。

目にじわりと水がたまった瞬間。
誰かから聞いたおまじないを思い出した。

   『ろうそくの火を消す前にお願い事をするの。
    そして全部のろうそくの火を一回で吹き消すことができたら、その願いが叶うんだって』

お願い事。
もう数時間で私の誕生日は終わる。
この間に誰か、来てください。
誕生日を祝うためじゃなくてもいいから、のそばにいてほしい。

勢い良く息を吹いてろうそくの火を全部消した。

静まり返った部屋。
あかりもなにもない部屋。
一人はこわい。

トントン

静かに響くノックの音。
誰か、きてくれたの?

ドアを確認しようとその方向を見るが、
あいにく部屋が真っ暗だったため何も見えない。
だがノックをしたであろう相手は返事もしないのに扉を開けた。

「なんで真っ暗なのよ」
「み、ミク?」
「ちゃんといるの? なんで明かりつけないの?」

そう言ってミクは部屋のスイッチをおした。
部屋が急に明るくなって目がぼんやりとする。
ミクはむすっとした顔で座っている私を見下ろしていた。

「ふーん。誰も祝ってくれないから一人でケーキ買って食べようとしてたんだー」

ろうそくの刺さっているケーキを見ると、ミクの表情がいつものいじわるな笑みに変わる。

「あんたってほんと、可哀想なやつ」

クスクスと私を見下しながら笑ってくる。

「ミクー……」

だけど私はその姿を見て何故か安心してしまった。
本当に誰かきてくれると思わなかった。
きたのがいつも意地悪を言ってくる彼女でも、一人じゃないことが嬉しかった。
ホッとしたら、涙が……。

「ちょっ!は!?な、なに泣いてんのよ!?」

そんな私の姿を見て彼女の表情は瞬く間にゆがみ出す。
私にはめったに見せない、焦っているような顔。

「だ、だって……」
「ちょっ!」
「きてくれたぁ……」
「はあ!?別にあんたのためなんかじゃ……!」
「ミクー……」

問答無用で彼女の言葉を押しのけて私は細い腰に抱きつく。
すると彼女は最初こそ抵抗したものの、すぐに呆れた顔をしてため息をついた。

「ほんっと弱音吐いてばっかでうざい!」
「うぅっ」
「早く泣き止みなさいよ!ケーキ食べるわよ!」
「うんっ」

  『あんたのことなんかみんな忘れてるわよ』

そうだね。
ミク以外は忘れていたのかもしれないね。
でもそう言った時点でミクは私の誕生日覚えてくれていたんだよね。

ミクはずるい。
いつも意地悪ばかりするくせに、
罵倒ばっかりはいてくるくせに、
時々嬉しいと思うことをしてくれる。

「ミクゥー」
「もう泣き止まないと帰るわよ!」

焦ってちょっと戸惑うミクが可愛かった。
言ったら絶対怒られるから、これは胸のうちにしまっておく。

「あ、もうろうそく消したのね?」
まとわりついている私の腕を振り払って、隣に座ってくれた。
ケーキには火のついたあとのろうそくが刺さっている。
「う、うん…さっき」
「あぁ、だからさっき真っ暗だったの」
「……うん」
「あれした?」
「あれ?」
あれ、の意味がわからず首をかしげる。
「ろうそく消す時のおまじない」
「……あっ」

ミクだった。
あのおまじないを教えてくれたのは。
そういえば、あの言葉を聞いたあとに、
『まぁあんたの願いなんてかなうわけないけどね』
そう言われた気がする。

「あり…がと…」
勇気が出せず小さな声で呟いた。
「聞こえないわよ、もっと大きな声で言いなさいよ」
目を細めて笑うミク。
意地悪モードだ。
「ありがとう……」

そのあと散々意地悪をはかれながら二人で甘いケーキを食べた。
でも日付が変わるまでずっと一緒にいてくれたことが嬉しくて、
意地悪を言われた気がしない。
私にしては珍しく、嬉しい気持ちが勝ったんだ。



彼女の誕生日には私が一緒にいてあげたいな。
そんなふうに思った。






終わり


おまけあり
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