ソードアート・オンライン 黒猫の爪牙と断罪の鎖
□001:ゲームスタート
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ベータテスト期間終了から数日が過ぎた。
その数日間の間、パソコン研究会ではSAOの話で持ちきりだった。
その一因としては、パソ研の皆が偶然SAOの予約抽選で見事当選したことと、パソ研の全員がゲーム好きだったからだ。つまりパソ研としてはフルダイブ型のVRMMOは当然噂にならないはずがなかった。
そして、正式サービスの前日に段ボールが二箱届いた。
片方は妹の聖奈が部活で使用するための柔道着らしい。
間違え無いように小さい方の段ボールを部屋に運び梱包を解くと、一つのケースが入っていた。
ケースには天空に浮かぶ巨大な城《アインクラッド》がプリントされており、ケースの中には薄めの取扱説明書と小さなROMカードが入っていた。
そして、ベータテストで使っていたナーヴギアにそのROMカードをセットする。
準備は出来た。後は……
聖奈に自慢するだけだ。
「ただいまー」
まるで聞かれていたかのようなタイミングでの帰宅。
俺はナーヴギアを被り、階段を駆け降りた。
「おかえり、聖奈」
少々キザっぽく言ってみる
さぁ羨ましいだろ?
カッコいいだろ?
褒めろ!褒め倒してみろ!!
「どしたの兄貴、中二病が再発したの?」
「なんでやねん!!褒めろや!!カッコいいやん、このナーヴギア見えんのか!、この仮面っぽいの!!。それに中二病なんか再発しとらんわ!!」
「そうだよね、現在進行形だから再発じゃないよね、悪化だよね。ごめんね兄貴、ボクとしたことが間違えちゃった。で……今7時でいつもなら晩御飯作ってある時間だけど……作ったよね?」
「………ピザ取る?」
「あはは、宅配ピザごときが兄貴の作る料理に敵うとでも?頭大丈夫?」
あれ?今褒められてんの?貶されてんの?
「今お父さんがどこにいると思う?」
「か、カリフォルニアに海外転勤中です」
「お母さんは?」
「父さんに付いていきました…」
「じゃあ食費等々は誰が管理してるっけ?」
「わ、わたくしです」
「その中にボクのお小遣いとかも入ってるんだよね。兄貴、お金ってのは無駄遣いしちゃダメなんだよ?……もう一回聞かせて。晩御飯は?」
「カレーで宜しいでしょうか?」
「チキンカレーね」
「仰せのままに、姫」
妹の機嫌が悪いので持ち上げてみる
「ひ、姫だなんて…」
すると聖奈は顔を真っ赤にさせて照れた。照れながら、
「じゃあボクの為にデザートも宜しく。姫の命令ね」
追加注文を受けてしまった。妹>兄な我が家で断ることなど出来ずきっちりとカレーとデザートを作らされた。
その後は、疲れていたのか聖奈はお風呂から上がると直ぐに部屋に向かった。俺も風呂から上がってから聖奈が寝たことをノックして確認してから自分の部屋に向かい明日に備えて眠った。
翌日、目覚めると直ぐに時間を確認した。
時刻は9時23分、少し寝すぎた気もするが今日は正式サービスだから問題ない。
そのまま少なめの朝ごはんを済ませ、今日の正式サービスでの集合場所の確認をした。
確認を終えても時間はあり余り、テレビもマンガも他のゲームも集中が出来ずに正午を迎えた。
「兄貴ぃ〜昼御飯は?」
「…もうそんな時間なん?」
「ついにボケが始まったか…」
「まだ十代やけど!?」
「はいはい、ご飯作ってよ」
「しゃあないなぁ、で、何する?」
「そうだなぁ、親子丼で」
「はいよ」
相変わらず辛辣な言葉だが今日は全くもって気にならない。それよりもSAOの正式サービスが気になって仕方がない。なんというか、心ここにあらずっていう感じだろうな。
と、思いつつも料理はしっかりする。なんたって可愛い聖奈の為だから。
そういえば聖奈は学校で告白とかされないのだろうか?
「なぁ、聖奈ってモテるん?」
「どしたの急に?」
「いや、だってお前贔屓目に見んくても可愛いしな…悪い虫とか付いたら処理せなあかんし…」
「大丈夫だよ、兄貴が心配するようなこと無いし…」
「モテへんやと!?何組や?こんな可愛い聖奈を無視するとか…脳ミソ腐っとんか!!」
「ボクどうしたらいいの!?っていうかご飯は!」
聖奈に言われて鍋の火を止める。危ない危ない
「はい、親子丼」
俺は昼御飯を多目に食べた。聖奈も少し多目に食べていた気がする。体育会系は大変だなぁ。
そして時刻は12時50分。
準備はOK、あと10分
これほどまでに10分を長く感じたことはあっただろうか…いや、無い。
残り5分
残り3分
1分
40秒
20秒
5
4
3
2
1
「リンク・スタート」
こうしてSAOの世界に入った。どうなるかも知らずに
ベータテスト。
ギランは思ったよりも成長が早かった。運動神経ならパソコン研究会随一だが、RPG系のゲームは苦手で主にプレイするゲームはTPS・FPS系のゲームを得意とするタイプ。
良くに言えば直感が利き瞬発力に優れるタイプ、悪く言えば頭が回らないバカだ。
それにソードスキルを使えるまでに時間は掛かったが、慣れてしまえば使い方はとても上手かった。
しかしソードスキルが上達しようとも恐怖心はほとんど和らがない。ずっと小さい頃に祖父の家で檻の中にいた猪を見たが、SAO中のモンスターの方が凶暴で角も鋭いし、サイズが倍近い。それに現実と遜色のないリアリティーで怖い。
だが、そんなモンスターを倒す時の快感は恐怖を遥かに上回った。
そして、やはり楽しいのはNPCの依頼などをこなして進むサブストーリー。
ギランにはベータ時代に咄嗟(とっさ)に思い付いた理由を重ねて巻き込んだ。申し訳無いとは思う。本人は気付いてはいないみたいだが…
そうしてベータテストを終えた。
しかしここまでベータにドハマりしてしまうと正式サービスが待ち遠しくて仕方がない。
特に家族関係が上手くいっていない俺にとっては尚更。
「お帰りなさいませ。駆様」
「俺の前に出てくるな」
俺の現在の義父である山波達郎は大企業の社長である。母とどんな繋がりがあったかは知らないし、今更母のことは考えたくない。それに高校卒業までの少し間だけしか親子関係にならない義父と仲良くする理由はない。
ただ厄介なのは使用人である鳴川魅鈴(なるかわみすず)である。
「しかし。私が怒られてしまいます」
「知るか!!消えろよ!!」
扉を強く閉めて鍵を掛けた。
彼女は俺より2つ上で金髪ロングでクォーターの少女である。
生真面目で愚直、だから俺の世話を任されたのだ。だが俺からしたらいい迷惑なので拒絶し続けている
それでもひたすらに仕事をこなそうとするから余計に腹が立つ。鬱陶しい
「駆様!!ご飯はいかがいたしますか?」
「……」
「はぁ」
無視をし続けるといつものようにドアから離れてどこかに歩き去った。
「いきなりメイドなんて、わかんねぇよ。鳴川も鳴川で黙っててくれねぇし…」
そんなイライラをぶつけるように狩ゲームで時間を潰した。
そして待ちに待った正式サービス。
出来るだけ長くする為に、お昼ご飯は多目に食べた。
「駆様、今日はどうなさったんですか?」
「……今日は絶対に俺の部屋に入るなよ」
「またゲームですか……今晩はお父様が一緒にお食事を取れるとのことなので、6時にはゲームを終えてくださいね」
「……」
そんな鳴川の声は最早俺の頭の中には届いていなかった。
俺は食事を済まして直ぐに部屋に向かってナーヴギアを付けてベッドに寝転んだ
いよいよ正式サービスだ。
またあの世界で、あの剣を振るい、敵を倒す。
このイライラだってスカッとするはずだ。
10
9
8
7
6
5
4
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1
0
「リンク・スタート」
目を瞑りながらそう唱えると、暗かった眼前が明るくなり選択肢が出た。
1秒でも惜しかった俺はベータ時のままの姿でゲームを進行。
直ぐにパソ研集合場所に向かった。
すると既にギランが来ていた。
「よぉカケル。遅かったやん」
「お前が早いんだよ。部長達も全然来て無いし」
「まぁ場所は伝えてるし、直ぐ来るんとちゃうか?」
「そうだな」
1分くらい経つとパソ研の面影がある四人組が歩いてきた。
「おーい部長!」
「おぉカケル。早かったな」
「まぁな、アバターもリアルに寄せて早く作れたからな」
「確かにリアルのカケルに似てるな」
「そういうお前は金髪にしたんだな。面影が一番薄いぞ、ダッカー」
「せっかくのアバターだろ?作らなきゃ損じゃん」
「で、気になっては居たんだが。そっちの金髪はどなたなんだ?」
ササマルはギランを指を差した
確かに別人だもんな
「何でやねん!!俺やん!現実と瓜二つの!」
「あぁ、士黄か」
「流石テツオ!分かってくれんのはお前だけや!」
「確かにウザさはリアルと瓜二つだな」
「ケイタ!?」
「ふふ、みんな自分を美化し過ぎだよ」
「全くだな」
「みんなって、カケルもだからね」
「うっ…」
現実とほとんど一緒のサチが微笑みながらそう言った。
そこまで美化したつもり無いんだがなぁ…
「よし、ほんなら…いっちょお買い物タイムと行こか」
「買い物?」
「ああ、サチはあんまRPGやらんもんな。まぁこのままレベリングしてもええけど、武器あった方がええやろ?」
「そう…なの?」
サチが首を傾げて皆を見る
「まぁ個人差だな」と、ダッカー
「自由にすればいいと思うぞ」と、部長
「つか、ギランがさっさと格好いい武器が使いたいだけだろ?」と、テツオ
「図星だな」と、ササマル
総攻撃だな。
仕方ない。俺もさっさとナイフ使いてぇし、助け船でも出すか
「まぁまぁ。熟練度システムもあるし、とりあえず武器を決めようぜ。いい店知ってるからさ」
「店?なんで店なんか知ってるんだ?」
「あー…お前、あのSAOベータ攻略っつーサイト見なかったのか?」
嘘をつくのは心苦しいが、明日行く予定の森でのレベリングで俺とギランのコンビネーションを見せるつもりだ。
そこで俺達がベータテスターだって明かす。そして、俺達パソ研の目的は攻略組。つまり最前線に立つことだ。
このゲームは課金システムが現時点では存在しない。つまり、俺達みたいな学生でもトッププレイヤーになることが出来る。
と言うわけで、俺はベータ時と同じナイフを3本、投げナイフ数本購入した
「カケルはナイフで良いのか?」
片手剣を振りながら聞いてくるテツオ
「おう、こういうのはピンときた武器が一番良いんだよ。テツオは片手剣か?」
「うーん、そのつもりだったけどもう少し重めの方がいいんだよな…」
「なら片手棍(メイス)がいいんじゃないか?片手剣より重量は増すけど、敵によっては目眩(スタン)効果が付くぞ」
「なるほど、それなら目眩狙いで盾と片手棍でやってみるのはどうだ?」
「いいんじゃないか?武器重量が重い分、片手棍でも敵の攻撃を弾けるしな」
「よし、ありがとうカケル」
目を輝かせながら棍が置いてある場所まで駆けていった。それと入れ替わるようにダッカーが来た
「なぁなぁカケル!」
「どうした?」
「俺さ、今片手剣か両手剣か大剣か両手斧か両手棍か鞭か槍か大槍か小刀のどれかにしようと思うんだけどさ、どれがいいと思う」
「もっと絞ってこい」
「じゃ、じゃあダガーで」
「絞るの早いな!?」
「ダガーなら合わなくてもすぐ変えれるかな〜って」
「そうだな、単価も安いし」
「オッケー、ならどんなのが良いかな〜?」
ダッカーは短剣コーナーに色んな短剣を漁りにいった。
そして入れ替わるように今度はサチが来た。
「ねぇカケル、私は片手剣か長槍にしようと思うんだけど良いかな?」
「ピンと来た武器が一番良いんだよ。こういう時は」
「うーん、でもどっちも良さそうなんだよ」
「なら、槍がいいんじゃないか?パーティー的なバランスも考えてヒットアンドアウェイで後衛が必要そうだしさ」
わざとらしく周りのメンバーを見渡しながらそう言う
さすがに片手剣の方が危険だからとは言えない
「ふふ…分かった、槍にするよ」
「含み笑いしてんじゃねぇ!バランスだから、バランスを考えたたけだからな!」
「はいはい」