BOOK

□鳥の巣
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 全身に絶え間なくかかり続けるGはもう慣れたもの。酸素マスクから無理やり肺に送られてくる高圧酸素もまた然り。機体と自分自身とを一体化させ、目の前の敵から目をそらさない。
 相手の機体が僅かにブレたその隙を見逃さず、すかさずそこに撃ち込む。
爆音と振動に皮膚が震えた。
直撃と思った瞬間、一瞬の内に視界から消えた敵を追って急降下。
つかの間の無重力に眉を寄せた。辛い訳ではない。自然と体に力が入った。
 その力が抜けるのより早く、視界が僅かに陰った。

___くそっ!背後につかれた…!

 これは色んな意味でマズイ。一度機体を上下に揺らし、そのまま左に旋回した。残る二機も、斜め左右にしっかりと位置をとっている。
 二機との距離が等しくなったその瞬間、今度は軽く前後に揺らし、一呼吸おいてから一気に加速した。横眼で左右を確認すれば、他の二機も別方向に加速している。
 周囲のどよめきに、ざまあ見ろとほくそ笑む。と同時に、こちらに注がれる胸糞悪い視線に、操縦桿を握る手に力がこもる。武器は十分持っている。機関銃に、落下爆弾、誘導ミサイルetc…

『撃つんじゃねえぞ、“鷹”』

 呆れたような笑いが無線から流れた。“鷹”と呼ばれた男は短く舌打ちをして周囲から目を逸らす。

『“狗鷲”残り時間は』

 ちょうど自分の目の前に現れた機体を攻撃しながら、鷹はその機体を操縦している男に無線を飛ばした。

『三分ってとこかな。“鴉”はどうした。』

 狗鷲の問いに、二人して周囲を見回してみる。鷹と、狗鷲と、あともう一機、鴉がいるはずなのだが、さっきのパフォーマンスから姿が見えない。
 いつも割かし自由に飛び回っている鴉だが、仕事はきっちりやる男なのに。しかたないから、二機で絡まるようにして飛ぶ。もちろん攻撃と防御も忘れない。そうやってまた周囲がどよめき、またほくそ笑む。

『おい鴉!お前どこにいんだ!』

『…横。』

『うぉお!?』

 狗鷲の若干音割れした声に眉を顰める間もなく、二機の間に現れた機体に操縦桿を思い切り倒した。周囲からは歓声と拍手。本当、こういうことをやらしたら鴉の右に出るやつはそうそういないな。

『ギャラリーに媚び売ってたら遅くなった。』

 無線で会話しつつも、三機は撃ち合いを続ける。標準は全て相手の命を狙ったもの。本気で相手を落とそうと撃ってくるものだ。
 一瞬の油断が、それこそ命取りになる。敵は自分とまったく同じスペックできている。相手の機体が自分より優れている点も劣っている点も、そしてその逆もない。
それは、何よりも相手の行動が読めない状況。
 そしてそれは、永遠に決着をつけることができない状況なのだ。
『鷹、鴉、そろそろだ。』
『ああ』
『・・・。』
 狗鷲、鷹の二機は絡まり合いながら急上昇し、そのまま雲の中に身を隠した。鴉はその一瞬後に、二機に対して斜めに急上昇。しばらく、その場にはエンジン音と銃撃の音だけが轟いていた。
 数秒後、煙を上げだ一機が雲の中から姿を現し、その場は一気に沸いた。直後に響く耳障りな警笛。
 「戦争」終了の合図だった。
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