贖罪の悪夢

□馬鹿だってこと
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「どういうことだ……」

何の変哲もない1日を振り返ることもなく眠りについた翌朝。

「ありえねえだろ!!」

俺の体は女のそれへと変わり果てていた。






     馬鹿だってこと





落ち着け。
いや落ち着いていられる状況に身を置いていないけれどもとりあえず落ち着け俺。こういうときこそ状況を確認するんだ。
朝起きたら性別が変わっていました。
……ふざけんな!そんな漫画みたいに簡単に性別が変わってたまるか!!なんだ、魔女の力か?G.F.の力が思いがけない暴走でも起こしたのか?って聞いたことないわ!!!
駄目だ……落ち着こうとすればするほど混乱する。だって己の意思で動かせるこの手も、足も、昨日までと違うのだ。俺の手はこんなにも小さかっただろうか?この足はこんなにも華奢だっただろうか?

「……どうしろってんだ」

とりあえずこのおかしな状況を受け入れるとして、どうしてこんなことになったかだ。こんな大々的に変化があるならもちろん何か切欠があったはずだ。何か食べたとか、おかしな実験に付き合わされたとか……後者は無いな。それなら普通に考えて記憶に残ってるだろうし第一了承するはずがない。となると前者の何かおかしなものを口にしたっていう線が濃い。昨日?昨日そんなおかしなものを食べたか?いや、それか誰かに貰ったものを食べたとか。

「いや、無かったな」

誰かに食べ物をもらった記憶はない。一番怪しいのはスコールだが、こんな真似はしない。……たぶん。

コンコン

「サイファー、ちょっといいか?」

ノックの音が響いたかと思えば今まさに疑っていた人物が来たようだ。混乱していたところにいきなりだったためちょっと大げさにびくついてしまった。
さて、普段なら朝から何の用だとか悪態をつきながらドアを開けるだろうがこんな状況だ。正直一番会いたくなかった。こんなみっともない姿を見られてみろ、恋人と言えどからかわれるに決まっている。
早朝から散歩でもしていたことにして居留守でやりすごそう。そう思っていたところに扉が勝手に開く。

「なんだ、いるじゃないか」

……え?俺、今開けたか?

「な、なんで」
「ドアを開けるぐらいなんてことない」

恋人と言えど教えていなかったはずなのにあっさりと突破されてしまった。何時の間に……。

「つーか勝手に入ってくるなよ!シャワー浴びたりしてるとかで出られなかったとか考えなかったのか!」
「あんたのことだから居留守を使っても不思議じゃない」

読まれている。

「ところでサイファー、あんた女だったのか?」
「んなわけあるか!こんなに変わってるのに何今まで気付けなかったなんて、みたいな顔してんだてめぇ!」
「いや、もしかしたら記憶が変わって」
「ねぇよ!!第一セックスしてんだから認識してないほうがおかしいだろうが!」
「そういうことを大声で叫ぶもんじゃないぞ」
「誰のせいだ!」
「さあ?」

これである。何で俺こいつと付き合ってるんだろう?

「それから、色々と見えてるけどいいのか?」
「は?……〜〜ッ!!!?」

そうだった。女になったことで身体が一回り以上小さくなっているのだ。しかも混乱しつつも体の変化を調べていたので下は履いていない。俺は羞恥で死にそうになりながら慌ててシーツをかぶった。

「昨日は普通だったし、今朝からか?」

恋人がこんなおかしなことになっているというのに相変わらず涼しい顔でそんなこと聞いてきやがる。

「……おう」
「原因に心当たりは?」
「……無い」
「原因を探るところからか。とりあえず着替えたらどうだ?いや、服は」
「無いな」
「仕方ない。キスティスに事情を話して持ってきてもらおう」

できることならもう誰にもばれたくない。しかしこの部屋にこもっていても元に戻る方法はおろか原因すらわかりそうにない。外へ出るのに自分の服ではだぼだぼでおよそ人前に出られるものではない。俺より華奢なスコールの服を借りたとしても男と女じゃ体格に差がありすぎる。俺は仕方なく、スコールが連絡するのを見ていた。

「……キスティスか?ああ、ちょっと頼みがある。実はサイファーが女で服がないんだ。え?……何だ?あ、ああ?だから女物の服を……ああ、頼む。じゃあ、後で」

何か誤解を招きそうな言い方だが大丈夫だろうか。

「なんか、何をしたのかって怒鳴られたんだが?」
「大丈夫じゃねえ!!」
「一旦状況を確認に来るそうだからサイズとかはそのときに、だそうだ」

こっちに来るのか。とりあえず誤解は解いておきたい。しかしこいつはSeeDのくせしてなぜ説明が下手なんだ。もはや悪意すら感じる。

「やっぱり詳細を省くと伝わらないもんだな」
「わざとかよ!!」

悪意しか感じない。こいつの言う俺のことが好きだっていうのはからかうのが楽しいからじゃないだろうか。
もうスコールの相手をするのに疲れてぐったりしていると、本日二度目のノックが響く。キスティスだろうがこんなに早いとは思わなかった。
出られない俺の代わりにスコールが扉を開けると、そこにいたのはセルフィだった。

「あれ?スコール?」
「セルフィ?どうしたんだ?」
「サイファーに用事があったんだけど……?」
「どうした?」
「誰?」

セルフィが指差したのは俺だった。驚きのあまり固まってしまっていたがまだばれていないなら上手く取り繕えば……

「もしかしてサイファー?!」
「セルフィ、」
「わあ!大ニュース!サイファーが女の子になってしもた!大ニュースや!!」

俺はもちろんスコールでさえも置いてけぼりでセルフィはどこかへ走って行ってしまった。大方アーヴァインのところだろうがあれはもう……

「諦めろ。セルフィにばれたとなればもう学園中に知れたも同然だ」
「…………」

何故だ……俺は何か悪いことでもしたんだろうか、いやしてるんだろうけども。自分でも遠い目をしていることがわかる。

「どうすんだ……外に出られねえじゃねえか」
「もう開き直ればいいだろ」
「開き直ってどうすんだよ」
「見せびらかす」

ほんと何なんだろうこいつは。
どうしてこうも俺の神経を逆撫でする様なことばかり言えるのか。

「サイファー、いるの?」

今度はキスティスの声がした。これで他の誰かが立っているなんてことはあるまい。
再びスコールが扉を開ける。

「サイファー、大丈夫だった?何があったの?酷いことはされてない?」

びっくりするぐらい誤解されていた。
俺は今朝起きたときの状況からありのままを説明し(その間本当やるせない気持ちにはなったが)誤解を解いた。そもそもスコールが悪意ある説明をしたせいで余計な心配をかけてしまったというのにあいつはどこ吹く風でキスティスの様子をうかがっていた。

「そういうことだったの……それで服が必要だったのね。そうね……サイファー、シーツをかぶったままでいいからちょっと立ってくれない?私とどのくらい身長が違うかわかればサイズを測らなくてもだいたいわかるでしょう」

言われた通りシーツで体を覆いつつベッドから降りた。わかってはいたが目線もいつもより低くなっていた。

「結構髪長いのね。ええと、腰の位置はどのあたり?そう、それと……」
「?」
「下着は、着けておいた方がいいと思うのだけど……バストサイズ、わかるかしら?」
「?!」

もう考えたくない。自分はここまで弱くなかった気がするのに朝から大分と精神を削られて相当参っているのだろうか。

「いや、いい」
「でも……それじゃあいくつか用意するからその中から適当なのを着けてちょうだいね」
「……いや、だから」
「じゃ、なるべくすぐ用意するわ」

キスティスは言うが早いか部屋を出て行った。

「とりあえず朝食にするか?何も食べてないだろう?」
「……ああ」

俺は考えることを放棄した。




******





「大丈夫だと思うけど、合ってなかったら言って」

キスティスが戻ってきたのは朝食を終えて少しした頃だった。シーツを纏っただけなので行儀は悪いがベッドで食べることにした。食べ終わる頃にはいくらか落ち着いてきて、溜め息をつけるぐらいにはなった。
スコールが隣に座ったかと思えば優しく肩を抱かれ、先程までと打って変わった雰囲気に少し驚く。けれど知っていた。たしかにスコールはふざけんなって思うことも多々あるが基本的に優しいのだ。

「落ち着いたか?」

その一言で、わかる。俺の体の変化を見ても冷静だったのは、俺を不安にさせないためだったということ。いつも通りに接することで、余計に意識させないようにしたのだ。相変わらずだ。さりげないというか遠回しというか、そんなところが好きなんだ。お互いをよく知っているからできること。

「ああ、なんとかな」

そっと髪を撫でられる。腰まで伸びた金の髪はスコールが撫でるたびにさらさらと揺れる。それが心地良くてされるがままになる。
そして、気付く。スコールよりも低い身長。華奢な四肢。男には無い胸の膨らみ。やわらかな肌。本来、スコールの隣に立っているべきは、そんな女性で在るべきなのだと。間違っても、男である自分ではない。わかっていた。おかしいということぐらい。それでも、好きなのだ。傍に在りたいと願うのだ。こんなこと、スコールに直接言うことは無いけれど。

「余計なこと、考えるな」
「…………」
「俺は、あんたじゃなきゃ嫌だ」

言葉にしなくとも、わかってくれるのだ。
だからといって、何でもかんでも察しろというのは横暴だが。自分をわかってもらえるというのは存外嬉しいものだ。一緒につるんでいる風神と雷神であってもここまでではない。

「ああ、俺も、お前じゃなきゃ嫌だ」

そうして、キスティスが来るまで二人の時間を過ごした。

さっそく着替えてみてと紙袋を渡され、スコールを連れて部屋から出て行った。

「ちゃんと下着もつけること。いいわね?」

突き刺さる一言を残して。
紙袋を開ければ一見動きやすそうな、そして着脱も簡単そうな服が入っていた。女物と言っていたので不安ではあったが可愛さを前面に出しているとかセクシーさ重視だとかではなかったので安心した。男物とまではいかないがボーイッシュな服に白いコートも一緒に入っていて、キスティスの心遣いに感謝した。これでワンピースだとか可愛さ重視の複雑な服が入っていた日にはリアルに泣きそうだ。色々と諦めながら下着を着ける。たぶんこのサイズであっているだろう。少々手間取りながら、着替えていけば最後に太ももまであるブーツを履いて終わりだ。ちょっと気になって鏡を見てみれば、そこにいるのはいつもの自分ではなく、長い金髪に白いコートの女だ。額の傷も残ったままだし、金髪で白いコート。事情を知らなくてもサイファーではないかとすぐに勘付かれそうではある。
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