藤色の付喪神

□ちび兼さんをよろしく
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「いずみ、いずみはどこだ」
「長谷部、どうしたの?」
「目を離した隙にいずみが脱走した」
「何回目だよ……」




ちび兼さんをよろしく



大和守と加州に出会い頭、和泉守を見ていないかと聞いたものの答えは予想通りのもので、長谷部は何度目かわからない溜め息をついた。
何のバグか影響か、この本丸の和泉守兼定は短刀のように幼子の容姿で顕現された。既に顕現されていた刀剣と審神者とで原因を追究するも、それらしいものには一向に思い至らず、一先ず誰かお世話係を決めておこうと結論付いた。そこで任命されたのがへし切長谷部だ。比較的早く顕現され、短刀たちとも馴染んでいた彼ならばと審神者が推したことで、他の刀剣たちも「長谷部なら安心だ」と満場一致で決まった。 もちろん、すべて押し付けるわけではない。基本的に皆で面倒を見るものの、出陣や遠征でいつも本丸にいるとは限らない。ならば情報共有や割り振りを決めるものが居た方がよいだろう。何しろ短刀のような容姿ではあったものの、短刀とは違い中身も少々幼いときた。審神者の「子供は本当に、何をするか分からないときがある。とにかく目を離すな。何かあってからでは遅い」という言葉によりお世話係は必須となった。
そんなこんなで長谷部を筆頭に、時には厳しく時には甘く、幼い和泉守兼定を育てる日々が始まった。審神者は幼いからよくないのでは、と返り血や傷を見せない方がよいと考えていたがそこは幼くとも刀である。刀剣全員が「問題ない」と断言し、和泉守もまた「へいきだ」と答えたため部隊の見送りと出迎えは日課となった。加州と大和守によれば、和泉守と持ち主を同じくする堀川国広という脇差がいるという。この本丸ではまだ顕現されておらず、馴和泉守と染みのものがいるならば一緒がいいだろうとその日から堀川国広の捜索を開始した。部隊の編成を何度も練り直し様々な出陣先へ赴いて3日ほど(ちなみにこの間、鍛刀では成果は得られなかったので捜索は休むことなく行われた)経った頃、念願の堀川国広を連れ帰ることが出来た。顕現してすぐの「兼さん」呼びに、なるほどこの二振りは一緒の方がいいなと全員の心の声が一致した。
それまで和泉守お世話係を務めていた長谷部も、馴染みのものが来たならばとその任を辞退しようとしたところ、和泉守が今までで一番大泣きしたうえに堀川も特別気にしているふうでもなかったため続行となった。しかも堀川には「兼さんをよろしくお願いします」とまで言われた。いや、何も嫁いだりするわけではないのだが。
その数日後には何故か出陣していた陸奥守が日本号を見つけてきた。道中あれやこれやと話しているうちに長谷部と馴染だということがわかり、帰還早々主への報告も後回しにして、庭で遊んでいた和泉守を縁側で見ていた長谷部のもとへと連れてきた。穏やかに幼子を見守る長谷部を見止めた日本号は時間も忘れてその場に突っ立っていた。「ちょっと黒田でのことを思い出しちまってな。ついでに一目惚れだ」と日本号は後に語った。気付いた長谷部が驚きで目を見張っていたが、「懐かしいな」と日本号に言われ「そうだな」と微笑んだ。まあその後すっかり報告を忘れ陸奥守は和泉守と遊びまわり、日本号と長谷部はそれを見守りながら思い出話に花を咲かせていた。たまたま通りかかった山姥切に驚かれた拍子にしまったと顔を青くした陸奥守と長谷部が日本号を引っ張り審神者へ報告に行った。

「主、すまんかった、日本号を見つけてきたちゃ」
「ええと、日本号だ。あんたがここの主か」
「いかにも。いやあ、吃驚だねぇ」
「申し訳ありません、主」
「いいっていいって。今日は歓迎会だな!」
「ところで主さんよ」
「なんだい?」
「長谷部を嫁にください」

綺麗に頭を下げた日本号に全員が驚きで固まった。加えて長谷部は真っ赤になって混乱した。さりげなく長谷部の肩を抱きながら再び言葉を重ねた日本号と、いち早く復活した審神者によって「長谷部がいいなら」と話はまとまったのだが長谷部としては何も言われていないのにいきなりでたまったものではない。それを半ば怒鳴りつければ日本号がすぐさま長谷部を口説きだす。結局長谷部は真っ赤になったまま小さく「……不束者ですが」と返して二振りは夫婦になった。審神者と陸奥守は何かに耐えるような表情で二人を祝福した。日本号と長谷部が退室したのちに、一振りと一人は「甘々じゃったの」「砂糖吐けるかと思った」と呟いたのは歓迎会でぼかしながらも茶化しておいた。
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