藤色の付喪神

□これは正義ではない
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あるべき姿へ。
 それが我らの願いである。




     これは正義ではない




 新たな拠点を作って数日。どこでも休めるというのはわたくし達のよいところかもしれない。そもそも人間でもないのだから、あまり神経質になることもないか。刀剣たちの傷も既に癒えている。今日は同志へ報告と、これからの行動の計画を立てねばならない。拠点を移る際には同志への報告と話し合いが必須だ。互いに連絡が出来るように、現状を把握し次なる手立てを確認するためである。時の政府側ほど、歴史修正主義者に頭数はいない。こちらの刀剣はオリジナルのみなのだ。数に限りはある。ちなみに、ここでいうオリジナルは写しや偽物も含む。大切なのはこちらの呼びかけに応えてくれるかどうかであり、独自の創作性は問わない。

「頭、ここにいらしたのですか」
「打刀、もう時間か?」

 呼ばれて振り向いた先にはわたくしの部隊の打刀が一振り。わたくしたちは主従ではなく、同志である。出来ること、役割は違えど共に歴史を修正すべく、こうして協力してもらっている。しかし既に人でなくなったわたくしには刀種のような呼び名さえもない。妖でも、ましてや神でもない。固有名詞はあれど、歴史修正主義者は互いの名前を教え合わないこととしている。名前は大切なもの。だから、各々の内に大事に仕舞っておくのだ。単に呼ぶだけならば簡単な記号で事足りる。好きに呼んでくれと言ってあるので、呼び名は様々だ。それでも刀剣たちと区別するため、刀剣たちに呼びかけまとめる役として指揮者と呼んでいる。

「もうすぐです。そろそろ準備をされてください」
「ありがとう」

 礼を言えば打刀はふわりと微笑んだ。どこからともなく現れた短刀を連れて、術式を発動させる。やり方に型はない。伝えたい内容を、伝えたいところへ。ひとまず報告はこれでいい。後で端末からも確認しておこう。これから一番近い同志へ会いに行く。道中に危険は無いが少なからず可能性はある。しかしわたくしたちも全く戦えないわけではないし、状況によっては逃げることも出来る。最悪戦闘不能になっても強制送還の呪いが発動する。これは指揮者だけでなく刀剣たちも対象だ。自分の部隊の拠点へ送られた後は、指揮者と他の刀剣とで傷を癒す。互いの意志で、心を通わすように、時間をかけて癒していく。命のないわたくしたちは死ぬことは無い。それでも、致命傷でも負えば消えることもあるのかもしれない。認識されることが存在の証左なら、わたくしたちの死とは忘れられることだろうか。それとも、自我の消失か。

「主ー、遅れちゃうぞ?あの指揮者はせっかちだから急いだほうがいい」
「悪い悪い、先走って考え事をしてた。いけません、いけません」
「俺らがいてよかったな。そんなんじゃ志半ばで倒れちまうぞ」
「ふっ、違いない」

 寸延び短刀に急かされ同志のもとへと道を繋ぐ。頼もしい同志に巡り会えたものだ。心があたたかくなるのを感じながら、わたくしは道へ踏み出した。
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