アイス

□寒いから
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寒いから


そろそろ雪でも降るんじゃないかという程寒い日のこと。
アカイトはいつも通り家事をこなしていた。ミクオもいつも通りまだ寝ている。ちなみに、ミクオはそんなに遅くまで寝ている訳ではない。いたって普通だ。つまり、アカイトが早すぎるのだ。ミクオが起きる頃には午前中に済ませる家事はほとんど終わっている。――実は二人でゆっくりする時間が欲しいと言うのはアカイトだけの秘密である。
今日も今日とてミクオが起きると、その音を聞きつけたアカイトがテーブルに朝食を並べ始める。アカイトは既に食べ終えているので並べられる食事は一人分だ。

「おはよう」
「ん〜、おはよ…またアカと食べれなかった」

早起きなアカイトと一緒に朝食を摂るのはミクオの密かな目標だったりする。まぁ、達成されたことはないのだが。

「昨日は早く寝たのになぁ」
「疲れてたんだろ」

そうなのかなぁ、なんて良いながら目をさするミクオの前に皿を並べたアカイトは掃除に戻った。

「じゃあ、あっちで掃除してるから、」
「食べ終わったら下ろしとけばいいんでしょ?」
「ああ」

ミクオの出る幕もないほど家事は徹底的にアカイトがやる。
ミクオも家事はある程度できるのだが、如何せん要領が悪い。それを見かねたアカイトが、家事は全て自分がやると言い出したのだった。

僕は一緒にやりたいんだけどなぁ…

提案してみようかと思ったことはある。が、タイミングが悪く実際きちんとアカイトに伝えたことはない。
今日こそは言ってみよう!と密かな決意を胸に、食べ終えた食器を洗い始めたのだった。




******




「ん?ミクオ?」

掃除を終えて帰ってきたアカイトは、てっきりリビングにいるだろうと思っていたミクオがいないことに気付いた。
探そうと一歩踏み込んだとき、キッチンのほうからカチャカチャと音がした。

「ミクオ、ここにいたのか」
「ん〜?あ、掃除終わったの?」
「ああ。お前は何してるんだ?」

ミクオは、既にアカイトが洗って乾かしていたものも含め、食器をなおしていた。

「やらなくて良いって言ったろ」
「でも俺だってできる。アカイトと一緒にやりたい」

さっきまでのツンはどこに行ったんだ、と言うほど顔を真っ赤にしたアカイトは、何かを言おうとして口をパクパクと開くがそこから言葉は発せられない。
「アカイト?」
可愛いがこのままでは話が進まない。ここでうやむやにしてしまっては、一緒にいる時間を増やすことは出来ない。

「〜〜〜ッ!ぃやだ」

顔を逸らして発せられた言葉は拒絶のそれだった。

「……何で?」

自分でもビックリするほど一気に心が冷めた。声に表れてなければ良いが。アカイトの様子を見る限りでは大丈夫だろう。ちら、とミクオを見ては逸らし見ては逸らしを続けるアカイトにもう一度口を開く。

「ねぇ、僕はアカイトともっと一緒にいたいよ。アカイトは嫌?」
「……嫌じゃない」

蚊の鳴くような声だったが、ミクオは聞き逃さなかった。ミクオが安堵の表情を浮かべると、アカイトもようやく話す気になったのかまっすぐミクオを見た。

「俺が……早く終わらせたら、たくさん……一緒に…いれると、お、もって……」

途中で羞恥に耐えられなくなったのか、俯きながらもなんとか最後まで言い切ろうとした。けれど、可愛らしい恋人にミクオの方に限界がきた。

「アカイト!!!!!」
「ふあ?!」

ぎゅぅっと抱き付いてきたミクオに驚いたアカイトが声を上げる。困惑しながらもちゃんとミクオの背に手を回している辺り、無意識なのだろう。
それを嬉しく思いながら、さらにぎゅうぎゅう抱き締めると、さすがに苦しくなってきたのか背中を叩かれる。

「も、くるし」
「ごめんごめん」

顔を覗き込めば、うっすら涙を浮かべた真紅と目があった。

「ね、アカイト。ゆっくり出来なくても、一緒にいるほうが良いな」
「あ……ぅ、好きにしろ!」
「ホント?じゃあもっとぎゅぅーってしたいな」
「なっ!」
「駄目?」
「…………さ、寒いから…良いぞ」



寒いから、なんて
本当は思ってないでしょう?



(あ、のさ)
(ん?)
(寒いから、じゃなくて…………くっつきたいから、でもいいか?)
(〜〜〜ッ!もちろん!!)


END

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