アイス

□気に入らない
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気に入らない




「もう!」

何で上手く歌えないんだろう。どうして上手に踊れないんだろう。

歌いたいのに
踊りたいのに

その気持ちとは裏腹に練習をしてもちっとも上手くならない。楽しかったのに、今では悔しくて悲しくて仕方がない。
でも、誰かに教えてもらうなんてできなくて。
どうしよう……とぐるぐる悩んでいた。

「歌の練習か?」

普段話しかけてくることなどほとんどないギルティが部屋に入ってきた。
俺はなんとなくギルティが気にくわない。だから日頃から二人で話すこともそうそうなかった。

「そうだけど、何か用?」

ちょっと棘のある言い方になってしまったがイライラしているのだ、仕方ない。

「もう夜だ。そろそろ休んだらどうだ?」
「夜っていってもまだ早いだろ」
「なら、もう一曲歌ってから休め」

こういう、さりげない気遣いがいちいち癪にさわるんだ。
まだまだ子供だと思われているようで腹がたつ。

「なんでアンタに聞かせなきゃならないんだ」
「聞きたいから」

突っ張ってみせてもひらりとかわされる。

「さっきの曲を頼む」

しかもリクエストまで。
イライラする自分を抑えながら曲を流し始めると、ギルティがいきなり頭を撫でてきた。

「何を……!」

わしゃわしゃ髪を乱されたかと思えば何もなかったかのように扉の横で壁に寄りかかった。
乱された髪を手櫛で直すと、ひとつ深呼吸。
不思議とさっきまでのイライラや悔しさはなくて、曲の中にすんなりと入り込めた。

「♪〜♪〜♪」


歌い終わると、ギルティがささやかな拍手を送ってきた。
いつもなら不快に思ってもおかしくないそれにすらありがとうと感謝の言葉を口にした。

歌えた。
とても、自分らしく。
歌い終わったときに、こんなにも穏やかな気持ちになれるなんて。

きっとギルティには見透かされていたんだ。
結構酷く接していたけどこれからは改めようかな、なんて思った。

「良かった」
「……ん」

でもやっぱり素直にはなれなくて、照れ隠しに顔を背けてしまった。

「さぁ、約束だ。今日はもう休め」

そうだった。歌に夢中で忘れていた。

「でも、もう少し」
「駄目だ」

ギルティに手を引かれベッドへと移動する。そのまま寝かされ、耳元で囁かれた。
「おやすみ…………よい夢を」
「待っ」
「♪〜♪〜♪」

反射的にギルティの服を掴むと、彼はベッドに腰掛け歌い始めた。
僕とは違う、大人びた声。
安心しろ、とでもいうかのように優しい眼差しを向けられ、だんだんと意識が遠退いてきた。
やだよ。
まだ。
もう少し だ け


いっ しょ に いて





目が覚めると、ギルティの姿はどこにもなかった。
リビングに行くと、探し人はコーヒーを飲みながらくつろいでいた。

「おはよ」
「ん?起きたのか。おはよう」

昨日の穏やかな気持ちはまだあったけれど、何だか恥ずかしいことを考えていたような気がして目を合わせられないでいると、クスリと笑い声がした。

「無意識かと思ったが……違ったみたいだな」
「え?」
「昨日、なかなか離してくれなかったから一緒に寝たらまさか抱きつかれるとは思わなかったぞ?」

な…………
何してるんだ僕!!!
羞恥で顔がどんどん赤くなっていくのがわかった。
ギルティは相変わらずクスクス笑っている。

「なかなか可愛かったぞ?」

ああもう!やっぱりこいつなんか


気に入らない!!


END

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