灰色の空

□そんなわけない
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「みやじーーーーーーーーー!!!!!!」
「朝からうるせぇ!!」




そんなわけない




着替えと朝食を済ませ食器を片付けようと立ち上がると、インターホンも無意味な叫び声に呼ばれた。
近所迷惑だろ、とかインターホン使え、とか連絡ぐらいしておけ、とか言いたいことはあったが放置しているのは本当に迷惑になるのでドアを開けた。瞬間目の前に広がる白。

「は?」
「お菓子買ってきたーー!」

ニコニコとコンビニの袋を掲げる葉山が急かすように押し入ってくる。そのまま葉山は一人で奥へ進んでいく。これも慣れたものだが、できることなら慣れたくなかった。
後を追ってリビングに入れば、たたたっと葉山が駆けてきた。そのまま待てを命令された犬のようにそわそわと俺の前に立ち止まる。

「どうした?」

今までならそっからすぐに抱き着かれたり、押し倒されたり、キスされたりとさんざんだった。だから何故そこで止まってるのかがわからず、普段なら邪魔だと一蹴して押し退けるのだが今日は訊いてみた。

「宮地、抱き着いてもいい?」
「…………」

今頃訊くのか。そして俺にどうしろと……いつも通り拒否でいいのか?
葉山はといえばいつものヘラヘラした顔ではなく、緊張しているような、不安げな目でこちらを見ていた。
それが余りにも、切ないというか可哀想というか…………

「…………好きにしろ」

小さくだがそう告げたときの嬉しそうな泣きそうな感極まった顔はおそらく一生忘れることはない気がする。

「えへへー。みやじーみやじー」
「あー……食器片すから避けろ」

正面から抱き着いていた葉山は離れる気はないらしい、後ろに回った。歩きにくいが仕方がない。そのままキッチンへ向かい、洗い物を再開した。

「ねぇねぇみやじー」
「あー?」
「ポッキーゲームしよ!!」

また何を言い出すかと思えばこいつは。

「やらねぇよ」
「えーっ何で?!」
「何が楽しいんだよ」
「だって宮地にキスできるじゃん!」

そんな……すごい発見をしたみたいに言うことじゃねぇだろ。

「ねぇーみーやーじー」
「あーはいはい後でな」
「やったぁ!!」

途中でミスったとか言って折ればいいか。
水気を拭き取った食器達をなおして葉山をくっつけたままリビングに腰を降ろす。
やっと離れた葉山が先程のコンビニの袋をひっくり返した。
ポッキーゲームと言うだけあって数種類のポッキーとこれまた数種類のチョコレートがテーブルにぶちまけられた。
その中からスタンダードなポッキーを手に取り封を開ける。

「はい」

ポッキーを差し出す葉山はニコニコと笑っている。躊躇いもなくくわえたが、葉山がくわえる気配はない。ポッキーゲームって両端から食べていくやつじゃないのか?サクッと音をたてて食べ進めてみるが葉山は相変わらずニコニコとポッキーを持っているだけだ。
そろそろ食べ終わるのにいいのか?ひょっとしてからかわれただけなのだろうか。だとしたら轢く。
最後の一口を口に含もうとした時、葉山の指が離れた。え?と思った時には唇に触れる温かいもの。

「…………」
「みやじー?」
「…………」
「えっ?怒った?」
「…………」
「みやじー、顔真っ赤だよ?」

不意討ちとか…………ッ!!
いつもはしつこいくらいキスしてくるのに今日は触れるだけとか…………ッ!!
離れた瞬間嬉しそうに笑うとか…………ッ!!

葉山はごめんだとかちょっとふざけちゃったとかオロオロしている。自分でもわかるくらい赤くなっているのがさらに恥ずかしい。こいつ俺を殺す気なのかふざけんな。

「黙れ」
「ごめんなさいっ」

ちょっと泣きそうになっている葉山を後ろから抱き締めるようにしてその肩に顔を埋めた。

「えっ?えっ?宮地?」
「黙れ」
「…………好きだよ、宮地」
「…………知ってる」

腕の中で葉山がこちらに向き直った。

「宮地は?」
「…………好きだよばーか」

そう言って葉山の瞳を覆ってキスをした。






ここまでして、
好きじゃないとか
そんなわけないだろ



END

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