灰色の空
□非日常
1ページ/1ページ
「………ゃ…み………ぃ」
「んんー………んだよ…………ぁ?」
か細い声にゆっくりと意識が覚醒してくる。声がするほうを向くと、目に今にも零れそうな涙を浮かべ俺の右腕にしがみつく葉山がいた。
非日常
「おい、寝るならベッド行け」
「ん〜……」
「ったく」
うつらうつらと目蓋を閉じては開いてを繰り返している葉山を抱え寝室へ向かう。普段ベタベタしたり騒いだりするうえにこれではただの子供だ。
「ほらっ」
「ぅー………………」
ベッドに投げたのにそのまま寝入られてしまった。余程疲れていたのだろうか。そういえば今日の練習はいつもよりキツかったとか言っていた気もする。風邪をひかないように布団をかけて読みかけの本を読むべくリビングに戻った。
普段飲むよりも甘く作ったカフェオレを片手にテレビをつけると丁度明日の天気を放送しているところだった。
『……所によっては明け方から雷が……』
雷注意報に加え、雨も酷くなるらしい。明日が休みでよかったなんて思いながら、推理ショー目前まで読んでいた本を開いた。
ほぅ…………そんなトリックを……あながち俺の考えも間違ってなかったな。
なかなか面白い言葉遊びだな……あえての短絡的な行動も、一般人を欺くには効果的だ。
全てに理由があるわけではないが犯行動機もなんとなくとは…………こういう輩がいるからなんてよく言われるがそれもどうなんだろうな……俺には明確にわからないが、そういうのは悪いことでもないんじゃないかと思う。
「そろそろ寝るか」
マグカップの中身も空になり、後書きまで読み終えたところで急に眠気が襲ってきた。
ベッドには先に放り込んだ葉山がすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。だが、真ん中で寝ていたため端へ押しやり布団に潜り込む。少々手荒に扱ったわりに葉山が起きることはなかった。
目を閉じれば一日を振り返る間もなく意識が沈んでいった。
「みやじー…………」
心細そうな声で葉山に呼ばれる。何事かと尋ねようとしたとき、カーテンの隙間から強い光が射し込んだ。
「ヒッ!」
葉山がぎゅっと目を瞑って耳を塞いだ瞬間、雷鳴が鳴り響いた。
そういえば昨日の天気予報で言ってたな、なんて思いつつこんな大きな音に気付かないほど熟睡していた自分に驚いた。
葉山はといえば、ビクビクと震えながら縮こまっている。
無視して起き上がろうとすると、動いたことに気付いた葉山に泣きつかれた。
「うああぁぁあぁああぁぁあんみやじーっ!!!」
「わっ……っせぇな何だよ!」
「だってかみなりがっ!!」
「雷ぐらいで泣くな!」
「みやじーっ」
怒鳴り返しても無意味で、葉山はぎゅうぎゅうしがみついてくる。高校生にもなって雷が怖いってどうなんだ。
動けないのも困るので、葉山を背中にくっつけたまま洗面所へ向かい、涙でぐしゃぐしゃの顔を洗うよううながした。
「みやじー……」
「ほら、行くぞ」
「待ってーッ!」
再びしがみつく葉山を気にせずにキッチンでカフェオレを二人分作る。
「ん」
「え?いいの?」
また泣いていたのか葉山は頬を濡らしたままキョトンとしている。普段は作ってやらないから無理もない。黙ってマグカップを差し出すと、恐る恐る手に取り一口。
「えへへ……甘いね」
「ふん」
いつもいつもウザいくらいメールしたり電話したり休日は押し掛けてきたり何故か合同練習があるからと家にも来たりベタベタしたりするくせに。
まぁ、たまには
こんな非日常も悪くないか
END