贖罪の悪夢

□馬鹿だってこと
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「これでいいか?」

部屋の外にいる二人を招き入れ、反応をうかがう。

「うん、大丈夫みたいね。よかったわ」
「ああ、助かった」
「まあね」

ぐるりと確認してキスティスはうなずく。素直に感謝すればその言葉の意味を正確に読み取った彼女からウインクを返される。こういう時、キスティスはすごいと素直に思う。よくわかっているというか、きちんと人のことを良く知ろうともしているし、実際よく見ているからこうして助けられることも多い。素直に礼を言えたことは数えるほどしかないが。

「じゃあ、私はリノアに話を聞いてくるわ。連絡はつくだろうし」
「それなら俺が」
「あんたは今日任務が入っていただろう」
「……自分で言うのもなんだがこんな状態で任務に行かせるのか?」
「じゃあ他にまわしていいのか?」
「やだ」
「ほら」
「う……」
「ということで、異論はないわね?」

もしかすると俺がわかりやすいだけなのかもしれなかった。
そんなこんなで俺とスコールは任務にあたるために執務室へ向かった。
道中生徒たちに目撃されるのは諦めた。どうせセルフィから知れ渡っていることだろうし今更何を取り繕うというのだ。

「あ、あれじゃない?」
「え?わぁ、すっげー美人」
「嘘、ほんとにサイファーなの?」

「何かお似合いだよね」
「指揮官もどことなく楽しそうだよな」
「ん?あの隣の女誰だ?」
「お前知らねぇのか?あれサイファーだよ」
「は?!まじで?なんで?」
「セルフィ情報だから五分五分だけど間違いないだろ」

「あ、いた!」
「何処?あ、ほんと!」
「写真撮らせてもらえないかなー」
「無理でしょー、二人ともそういうの嫌いだろうし」
「目に焼き付けとかなくちゃ」

「お、今回は本当だったな」
「あれがサイファーだなんて信じられないよな」
「いやでもそれっぽいっちゃそれっぽいぞ」
「……踏まれたい」
「あー、ちょっとわかる」
「あれもはやカップルだよな」
「え?付き合ってんだろ?」
「え?」

もう、なんとでも言いやがれ……。
ちなみに俺の隣ではスコールがにこにこしながら歩いている。 見せびらかすと言っていたが本当にこの状況を楽しんでいるように見える。実はこいつが黒幕だったと言われても納得できそうなほどだ。
なんだか振り回されてばかりな気がして面白くない。何かしらやり返してやりたいとは思うが力では敵わないことがわかっているため勝負を仕掛けるのは無謀だ。どうしようか?
そして自分の容姿を思い出す。そうだ、今は女なのだ。つまり、男の時ではできないこともできる。

「スコール」

さっそくいい悪戯を思いついて隣に声をかけた。

「?……?!」

そして俺は素早く唇を重ねた。
さすがのスコールもこれには驚いたようで、呆然としている奴の腕を引いて胸にあたるように組んだ。もちろん微笑むのも忘れない。俺がこんなことをするとは誰にも予想できなかっただろう。周囲のざわめきも一層大きくなった。俺は構わずスコールの腕を引いて歩いていく。ちらりと見やればあいつはまだきょとんとしていた。

「おーい、スコール!」

向こうからゼルが走ってくる。何故か俺を見て不審な顔をした。

「えーと……一応言っとくと、スコールに手は出さないほうがいいぜ?」

もしかして俺だと気づいていないのだろうか。見当違いな忠告をするゼルに呆れながらネタばらしをするか考えてどうせならと悪戯を続ける。幸いスコールはまだ戻ってきていない。

「あら、どうして?」

女の言葉遣いはキスティスのでも真似しておけばいいだろう。セルフィの話し方は独特だったし。

「あー……なんていうかさ、先約がいる、みたいな?」
「だから?」
「だからって……いや、そいつも怒るかもしれないからさ、やめといたほうが」
「そんなの知らないわ」
「え」
「アタシはスコールが好きなの。先約が居ようとアタシに振り向いてもらえばいいだけじゃない」

強気に言って見せればゼルは目に見えて動揺する。それもそうだ。なんてったってその先約は俺で、しかも男なのだ。説得も難しいだろう。しかもゼルなのだからその難しさは跳ね上がる。

「ね、スコール?」
「え、あ、ああ」

やっと我にかえったのかスコールが曖昧に返事をした。それを聞いて今度はゼルが驚きの声をあげる。

「え、スコール!それでいいのか?!」
「?何が?」
「だから、彼女のこと好きなのか?」
「?ああ」
「!?」

絶句するゼルにスコールはさも当然とばかりに追い打ちをかける。

「こいつじゃなきゃ嫌だ」

信じられないと顔を真っ青にさせていくゼルが面白くてもう歯止めがきかない。

「愛してる、スコール。離さないで」
「ああ、勿論だ。愛してる」

ぎゅっと抱き締め合えば周りから黄色い声があがる。
と、騒ぎを聞きつけたのかセルフィとアーヴァインがやってきた。

「あ、ほんとだ」
「ねー?今回は本当なんだよ!」

どうやらアーヴァインに話したところで信じてもらえなかったらしい。実物を見たことで納得したらしいアーヴァインは真っ青になって固まっているゼルに驚いた。

「わ、ゼルどうしたの?顔色悪いよ」
「またサイファーに何か言われたの?」
「いや……だって、え?」
「も〜、だめじゃんサイファー」
「そうだよ、こんなになるほどいじめちゃ駄目だよ」
「……え?え?」
「いーじゃねーか。こいつが勝手に勘違いしてんだからよ」
「え?」

状況がわかっていないゼルはもはや置いてけぼりである。
そこにスコールが助け船を出した。

「ゼル、彼女がサイファーだ。今朝起きたら女になってたらしい」
「……は?」
「そういうことだ、チキン」
「え、じゃあさっきのは」
「当然のやりとりというわけだ」
「え、さ、サイファー?」
「おう」
「あんた、めちゃくちゃ綺麗だな」
「あ?」
「だろう?だからこうして見せびらかしているんだ」

まあ、男であろうと見せびらかすけどな。と、スコールは締めくくる。さすがにこれには俺も恥ずかしくなって顔が少し赤くなった気がする。

「サイファー照れとる〜」
「う、うるさい!」
「さっきは大胆にキスしてたくせに〜」
「あ、あれは……!」
「あれは本当にびっくりした」

悪戯とはいえ思い返すと我ながら恥ずかしい。思い切りすぎただろうか。でも。

「いつもはしてくれないからな」

たまには、自分からもしたいと思うのだ。しかも今は女の身。キスしたところでなにもおかしいことはない。
女だったらこんな風に何も気兼ねせずにスコールに愛してもらえる。
女だったらこんな風に隣で戦うことはできなかった。
うつむいて黙り込んでしまった俺を、スコールは抱き上げた。
これは所謂……。

「サイファー、今日の任務は先送りにしよう。緊急でもないからな」
「え?」
「じゃあ、俺たちは部屋に戻る。何かあったら報せてくれ」
「りょーか〜い」
「はやく戻るといいねぇ」

セルフィとアーヴァインはのんきに手を振っているが俺はそれどころじゃない。
だってこれは、所謂お姫様抱っこというやつで、男のときでも何度かされたことはあるがさすがに人前じゃなかった。羞恥で顔がどんどん赤くなっていく。黄色い声にいたたまれなくなってスコールの胸に顔を埋めるとくすくすと笑い声が降りてくる。

「あんたは変なところで大胆だよな」
「うるせぇ」

普段からそれくらい大胆でもいいだぞ?とからかうように笑うスコール。そりゃ好きな相手だから甘えたいとは思うけれどどうしても羞恥が邪魔する。それでも、今ならとスコールの首に腕を回して引き寄せる。

「仕方ないだろ」

そう言って再び口づける。

「そんなあんたも好きだ」
「……おう」

わかってる。
スコールに嫌われやしないかと不安がること自体不要なのだ。
だってこんなにも愛されていて、愛している。
こうしていつも実感する。
そして願う。
これからも、どうか一緒にいて欲しいと。


俺がこんなどうしよもなくお前が好きであきれるくらい馬鹿だってことは、お前はもう知っているんだろうけど。












翌朝、俺の身体は元通り男のそれに戻っていた。結局リノアにも分からなかったらしく原因も切欠も不明なままだった。ただ、あれから学園中に俺たちの関係が知られ何故か受け入れられていて驚いた。生徒たち曰く「あんなふうに見せつけられたらもう反論する気も起きないよ」だそうだ。そんなことでいいんだろうか。

(よかったな、これで堂々とあんたを連れて歩ける)
(別に今までと変わらねえじゃねえか)
(変わるさ。手も繋げるし抱きしめることもできる)
(……そうかよ)
(サイファー)
(何だ?)
(好きだ。これからも、傍にいてくれ)
(はっ、言われなくても)





END
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