贖罪の悪夢

□要らなかった
2ページ/3ページ

*****






「…………」

スコールが部屋を飛び出したあと、もちろん俺も一瞬遅れて追いかけたがついに見つけることは叶わなかった。いつもなら捕まえられるのに、余程俺が嫌になったのかと多少凹んだ。それでも、きっと自分のもとに帰ってくると馬鹿みたいに信じていた。だから、近くをある程度探してそれでも見つからなかった時、きっと誰かの部屋に泊めてもらっているんだ、できれば嫌ではあるがスコールが無事ならそれでいい。そうやって無理矢理に自分を落ち着けて、眠れない夜を部屋で、ただただ彼の帰りを待っていた。いつの間にやらぐっすり眠っていたので救いようはないが、果たして。

「おかえり、スコール」

果たして、彼は自分のもとに帰ってきた。
心配で仕方がなくて、目立った外傷がないのを確認してからはスコールの存在を確かめるように手を滑らせた。
手を握って、髪を撫でて、頬を撫でて。
すやすやと安心しきった顔で眠る彼が愛しくてたまらなくて。そっと、額にキスをした。

「ん、んん……」

ゆっくりと目蓋が開かれ、灰色がかった青い瞳が露になる。

「おかえり、スコール」

俺はもう一度、その言葉を彼に投げ掛けて抱き締めた。
スコールは何かと棘のある言葉を使ったり、そっけない態度をとったりする天の邪鬼だ。そんなこと、こいつと付き合う前から知っている。ずっと、隣で見ていたのだから。完璧に、とまではいかないかもしれないが、スコールが本当に嫌がっているかどうかぐらいわかる。だから、昨日のあいつの言動だって真実じゃないことぐらいとっくにわかっている。素直になれないスコールが、それでも俺の傍に居てくれるのはそこのところを俺が理解しているからだ。普通の相手なら、天の邪鬼をそのまま本当のことだと受け取ってそこで関係は崩れていく。

「……サイファー?」

まだ寝惚けているのかぱちぱちと何度か瞬きを繰り返したスコールは、次の瞬間、ぎゅっと抱き着いてきた。
今までだって抱き着いてきたことはあるが、あくまでさりげなくというか、俺に流されてくれてのことであって、ここまであからさまではなかった。
昨日何かあったんだろうか?誰かに何か言われたとか、いやただ寝惚けているだけなのか。

「サイファー、好き」

ぐるぐると考える俺を他所に、スコールは嬉しそうににこりと笑った。
……待て待て待てこいつ自分の笑顔にどれだけ破壊力があるかわかってねぇのかほんとに寝惚けているのかどうする俺このままだとスコールが起きたとき羞恥で何をしだすかわからないけどこれをあっさり手放すのも惜しい!

「サイファーは?」
「えっ?あ、おお、俺もスコールのこと大好きだぜ」

思わずどもってしまった。それでもスコールは満足したらしく機嫌良さそうににこにこ笑っている。
これを手放すのは正直惜しいがこのままではスコールが後に受けるダメージもでかい。ここらで止めてやるのが優しさだ。

「スコール、そろそろ飯にしよう。準備してくるから顔洗ってこい」
「ん、わかった」

スコールは大人しくベッドから降りた。俺もそれに続いて朝食の準備に取り掛かる。

「……」

戻ってきたスコールは俺にくっついていた。

「スコール」
「?」

名前を呼ぶと俺を見上げてきたが腰に回された手は離れなかった。仕方なくスコールをひっつけたまま朝食を作り終えた。

「うまいか?」

お決まりのそのセリフを俺は口にした。いつもならここで「そこそこな」と返ってくるが今日は違った。

「ああ、美味しい」

そういって嬉しそうににこりと笑う。喜んでもらえて純粋に嬉しいことは嬉しいがどこかくすぐったい。それを誤魔化すように他愛ない話をしながら食事をとった。
今日は二人とも休み、なんてことはない。ガーデンには仕事が溢れ返ってるし、指揮官であるスコールの担当する量はそれはもう大量にある。うまくやっているようで今のところ過労で倒れたりはしていない。ま、俺がついていながらそんなことにはさせないけどな!
支度を済ませ指揮官室へと向かう。キスティスとの挨拶も何もおかしくなかった。気にはなるが仕事は仕事。きっちりやらなければ真面目すぎる俺の恋人さまは怒るのだ。それから昼休みまでずーーっと書類とにらめっこ。そりゃいつも真面目にやってるけど今日は特に、だ。時折ある残業が今日あっては困る。

「さ、休憩にしましょう」
「もう、そんな時間なのか?」
「やーーっと昼飯か!」

周りに構わず仕事に没頭するスコールの為に、キスティスは必ず時間を確認しながら仕事をする。ほっとくと食事を摂ることも忘れるのだから周りの人間は気が気じゃない。そこで、出来る限りスコールの仕事中は誰かがそばにいるか、定期的に声を掛けようということになっている。内緒にするともちろん機嫌が悪くなるうえに相当落ち込むので本人にも報せている。

「今日は私も食堂へ行くから、鍵をかけておくわよ」
「サイファー」
「ちゃんと持ってるぜ」

今朝から可愛らしいことばかりしてくるスコールだったが、人使いの荒さは変わっていなかった。何でもかんでも自分だけで背負うよりはましだが。
食堂につくと多くの生徒たちで賑わっていた。最近ではスコールもこの賑やかさに慣れてきて、こういう人が多い時間帯に来ることが多くなった。そういうのもあって俺たちの関係がバレるのも早かった。何も噂だのお喋りだのが好きなのはセルフィだけじゃないということだ。

「ここの飯もなかなか旨いよな」
「ああ」
「……俺が作ったのとどっちが旨い?」

なんとなしにふざけて(半ば本気で)聞いてみた。答えがどちらにしろ、「くだらないことを聞くな」なんて付け加えられるのがオチだろうがちょっと気になったのだ。

「あんたが作った方」
「…………」
「サイファー?どうかしたのか?」
「え?あ、いや……」

即答のうえいつもなら言われるであろうセリフが無い。思わず固まってしまった。誤魔化すために世間話に持ち込んでみたものの、動揺したのは伝わってしまったらしく気を遣われてしまった。

「サイファー、調子が悪いなら今日は早めに切り上げて……」
「いや、大丈夫だ。ちょっとばかしぼーっとしただけだからよ」
「?でも、あんたがそんなふうになるなんて珍しい」
「だーいじょうぶだって!さすがにやばけりゃ俺だってわかる」
「そうか?無理はするなよ?」
「誰に向かって言ってんだよ」

そう言って笑ってやればスコールの不安も解けたようで安心して食事を再開した。俺もそれに続く。
仕事が待っていることを意識してしまうせいか俺もスコールも食べるのは早かった。ご馳走さま、と食器を返却して学園内を見回る。見回るというよりは散歩に近いが指揮官室にこもってばかりでも情報は限られるのでなるべく外を歩くようにしている。もうひとつ付け加えるとすればスコールの気分転換のためだ。無自覚なのが本当に性質が悪いと思う。
ぐるりと学園内を一周して指揮官室へ戻っても、休憩時間はもう少し残っていた。それでもすぐに仕事に手をつける。スコールがいるので残業になるほど遅れることはあまりないが、それでも定時であがるためにいつも以上に集中する。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ