贖罪の悪夢

□その瞳が
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それから停止していた思考回路が再び動き出したのは、スコールが出て行って少しばかり時計の針が進んでからだった。
スコールが、俺を好き?だからあんなことをした?あんなに怒っていた?
動き出したとはいえ混乱したままでは何が何だかわからない。ひとまずシャワーを浴びて頭でも冷やすことにした。
冷やすとはいっても流石に水を浴びるには寒かったのでお湯を被りながら、一つずつ整理していく。
今日俺はラグナさんと会っていた。帰ってきたらスコールが怒っていた。で、襲われ……かけた?そんでもってスコールは俺のことが好き。
……つまり?
ちょっと落ち着こう。こういう意味不明な時はあれだ、客観的に、あらゆる可能性を考えて、視点を変えてみたりして、物事を見る。
とりあえずスコールが怒っていたことと俺のこと好きってのは結びつくか?好きなやつの帰りが遅かったから心配したとか。ん?この「好き」ってどの「好き」だ?俺たちは幼い頃から一緒だったけど友達というより今ではライバルというか仕事仲間か?友愛だとか家族愛みたいなのがかろうじて当てはまるだろうか?
しかし。襲ってきたあれは完全に性行為に及ぼうとしていた。ということは恋愛感情での「好き」?そういえばラグナさんが俺を気に入ってるとか言ってたか?そして俺もラグナさんを慕ってる。つまり、恋愛感情で好きな相手が他のやつとくっついてしまったと思った?
……いや、さすがにおかしいだろ。辻褄はあっている気がするがまず俺もスコールも男だ。同性愛がいけないとかいうわけじゃあない。愛し合っているなら、というと理由があればいいなんてふうに聞こえるが本人たちがそれでいいなら何も問題はないと思う。ただ、スコールは普通に異性が好きだろうと思っていたから矛先が俺に向いてることにびっくりしただけで……あれ?
そこまで考えてあることに気付いたが、ふと現実に引き戻されいつまでシャワーを浴びているつもりだ、と慌てて湯を止めた。着替えたところで、先程気付いたことを再び考えてみる。
もしかすると、自分もスコールのことが好きなのだろうか?
いやいや、この流れでそんな都合のいい答えが出てくるか?襲われてそこでそいつのことが好きだったことに気付く?あり得ない。それこそ恋愛小説でもそんな都合のいい展開は無いだろ。ロマンティックの欠片もない。
そうは思いつつも、スコールのことを考えてみると恋愛感情でなければ好きと言える自信はある。嫌いだなんて思ったことは覚えている限り一度もない。

「……こんなの俺様らしくないよな」

こんなに考えて考えて考えて。まるでスコールじゃないか、なんて苦笑して。

「行動あるのみだ」

日付は越えていたけれど、俺はスコールに電話を掛けた。三回。三回コールして出なかったら、もう考えるのはやめて寝てしまおうと決めて。
果たして。

「……もしもし」

スコールの沈んだ声が聞こえた。

「あのさ」
「…………」

彼のことだ、自分では想像もできないくらいに落ち込んでいたのだろう。けれどそんなことを気遣ってやる余裕はなかった。

「お前、俺のこと好きって言ったよな」
「……ああ」
「それは、どういう意味で?」
「…………」
「スコール」
「……そういう意味だ。あんなこと、するぐらいの」
「つまり、恋愛感情ってことでいいのか?」
「……忘れてくれていい」
「スコール、そういうことじゃなくってだな……お前は俺を好きだとしても、俺はどうかわからないって話だ」

辻褄があうように考えて導き出した答えに、流されてはいけない。
それこそ、こんなことなら。

「なあ、聞かせてくれよ。お前、ホントにおれが好きなのか?」

何で、ではなく本当かどうか。好きになるのに理由は要らないとも言う。気にならないと言えば嘘になるが、理由よりもスコールが本当に俺を好きなのかどうかのほうが大切だと思った。

「……好きだよ。愛してる。サイファー、アンタが俺を嫌いになっても……誰にも渡したくない。俺は、アンタと一緒に在りたいと願うよ」

ああ、こいつには敵わないな。と、そう思った。
スコールの真っ直ぐな気持ちが、心に響いた。
そして同時に、今にも泣きそうになっているであろうスコールが愛おしく思えた。

「スコール、聞いてくれるか?」
「嫌だ」

訊いた俺が馬鹿だった。どうしようもなく後ろ向きなのはわかっていたはずなのに。即答された言葉を無視して俺は言葉を紡ぐ。

「俺さ、あれから考えた。でも考えても考えても仕方ないって思って電話した。俺がお前を、恋愛感情で好きかわからなかった」

スコールは電話を切ることなく、黙って俺の言葉を聞いている。

「お前のことは好きだけど、お前のそれとおんなじかまではわかんなかった。でも、今お前と話してわかった」

俺もお前のことが好きだよ、スコール。

「……嘘だ」

もちろん、スコールは俺の告白を否定する。だから言ってやったんだ。

「嘘じゃない。でも、たぶんお前ほどでもない。だからよ、俺を夢中にさせてみせろ」
「!」

息を飲む音が聞こえた。
言ってしまって、何故だか急に恥ずかしくなった俺は「じゃ、それだけだから、オヤスミっ」と慌てて電話を切ってベッドにもぐりこんだ。
好きだと言った時よりも恥ずかしいというか心臓がうるさい。こんなので眠れるだろうか、明日どんな顔して会えばいいんだと火照る顔で考えているうちに俺はいつの間にか眠っていた。


翌日、スコールに会わないなんて不可能でさっそく朝からばったり出くわすと、スコールは真面目な顔で俺に確認した。

「迷惑じゃ、ないんだよな?本気にしていいんだな?」

その様に、もしかして早まったかとたじろいだがすぐに気を取り直して「おう」と答えた。

「男に二言はねぇ」
「……そうか」

覚悟しておけ。そう言い残してスコールは指揮官室へと向かった。
もしかしなくても早まったかもしれない、と思ったがどこか嬉しいような気さえして。ぱん!と頬を叩いて気合を入れ直した俺はいつも通り、スコールの入っていった扉を開けたのだった。

それからというもの、スコールのアプローチは正直思っていた以上だった。けれどもそうして俺に近づくたびに、俺はスコールに惹かれていく。時には俺が仕掛けたりしてスコールが照れてるのを楽しんだりもした。そんな日が続いたある日、俺は思い出したんだ。
こうして両想いになって、プライベートで二人でいる時間も増えてキスだってした。もちろん触れるだけのものだ。けれど、その先には至っていない。あの日スコールがしたことを考えれば、そういうことも含まれているはずなのだ。けれどもスコールは手を出してくる様子はない。

『アンタが俺のものになるまで』

スコールはそう言っていた。ということは自分が下?俺が?スコールに抱かれる?
もしかしてスコールもそこで思いとどまっているのか?普通に考えて俺がそんなことを許すはずがないとそう考えたから何もしないとか。
男相手なんざ初めてだしまして抱かれる側なんて御免だが……。

「…………」

とりあえず、男同士のやり方、調べておいた方がいいよな。
俺は別に、スコールが相手なら……いや、そうじゃなくてアレだ、ほら怪我しても困るしとりあえず調べておかないと、なんて思いながら時間のある時にでも調べておこう、と赤くなる顔を冷たい水で洗った。惚れた弱みとかじゃあない。それならスコールの方が先だったし。俺だって男だ。プライドだってある。でも、あいつがやりたいって言うなら……それが嫌とは思わなかった。あの時だって、知らないスコールが怖かっただけで、行為についてはよくわからないというのが正直な気持ちだ。本当に嫌ならそれを伝えればスコールだってわかってくれる。そういう優しさがあるから、あの時ブレーキをかけることができたんだ。

それから数日後、目的を達成した俺はいわゆる「準備」をしていた。

「〜っ」

何で俺がこんな!と心の中で悪態をつきながら、調べたとおりにナカを洗う。
女のようにそのための器官があるわけでもない、代わりとされる場所は行為をするには不適切だ。だからこそ、多少気分が悪くなりながらもきちんと調べて、行為に必要な準備を抜かりなく行うことにした。

「……ん、く」

精神的なダメージを受けながらなんとかそこを洗浄し終えた俺は、シャワーを浴びて落ち着きを取り戻した。ベッドに戻る頃には主に心の疲労から眠れそうなほどだった。

「と、これからだよな」

綺麗にしたそこを、解してやらなければならない。用意しておいたローションを取り出し、手のひらで温める。ベッドの上で己の後孔を広げるなんて、傍から見れば間抜けな恰好ではあるがそんなことを気にする余裕はない。固く閉じられたそこにローションを塗りつけて、変に緊張しないよう注意しながら解していく。

「っ、ぅ……んん」

ようやっと人差し指が入った時、いきなり扉が開いた。
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