藤色の付喪神
□練度の低いへし切長谷部と仲間たちはどう戦うか
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「ちなみに、明日の演練メンバーは……長谷部と大倶利伽羅と、岩融とにっかり、乱と小狐丸だね」
加州がメモを読み上げる。基本的に全員と話したことはあるが、どうしてもなかなか一緒に過ごすことがない刀剣も居る。この場合はにっかり青江と乱と小狐丸だ。粟田口の短刀は早めに顕現されたことや、早々に数が揃っていたことで練度がかなり上がっていて手合わせなどでとても世話になっていた。けれども数が多いせいか、付き合いに斑がある。かつての主が同じだったことで縁がある博多、厚、薬研は特に過ごす時間が長いように思う。そこへ混じって前田や五虎退と話をすることもあるが乱はあまり一緒にいることが少ない。小夜も気遣ってくれたようで、時折お茶とお菓子を持って部屋を訪ねてきてくれる。最初の何度かは小夜一振りであったがいつの間にか宗三も共にお茶をする仲になり更には江雪も交えてお茶会をするようになった。
にっかり青江は挨拶こそするものの、彼方此方とふらふらしているものだから滅多に会うことはない。話に聞いたことのある他所の本丸のように、食事時は皆でという決まりはこの本丸にはないのだ。ただ、厨当番や風呂掃除の当番は時間が決まっていないと大変だろうということで本丸発足時にいくつか決まり事が作られている。そのため、時間帯が被る刀剣もいれば、すれ違いまくっている刀剣も居る。にっかり青江は後者である。一度、彼の発言を鵜吞みにして歌仙に説教を受けたことがあったので正直避けられているのではと思っていたがもしかしたら杞憂だったのかもしれない。
小狐丸は話をすることはあるものの会話が長続きせずに終わってしまう。そうしてお互い特に何もないままに誰かしらが声をかけてくるなり用事を思い出すなりして、そこで別れるのである。この間いきなり髪を梳いてくれと頼まれたときは何事かと焦った。櫛を手に持たされたまましっかり固まっていた。小狐丸に急かされてそのままなんとか髪を梳かしたものの、駄目出しを食らったので深呼吸をしてから再度あの綺麗な髪を梳いてみた。二回目は大丈夫だったようで満足気に礼を言われそのまま帰っていった。ちなみにこの間、全く会話はなかった。
「まあ、皆長谷部と組むの楽しみにしてるから大丈夫でしょ」
その言葉が単純に嬉しくて、口元が緩んでしまう。今日の出陣は本当にすごかったのだ。我が本丸の刀剣たちは皆強い。きっと明日の演練も、彼らの戦いっぷりを堪能できるに違いない。あ、いや、俺も一緒に戦うのだから堪能している暇はないのだが。
「楽しみで寝れない、とかならないようにな？寝不足は危ないぞ」
「う……大丈夫です。たぶん」
「そこそこ疲れれば嫌でも寝るでしょ。後で鬼ごっこするって聞いたし混ざってくれば？」
「失礼します」
この声は愛染か？主が「どうぞ」と答えるとそっと障子が開く。
「長谷部、もう大丈夫か？」
「ああ、主が手入れしてくださったからな」
「じゃあさ、じゃあさ、一緒に鬼ごっこしようぜ！今誘ってるとこ」
「いいのか？」
「おう！」
「ありがとう」
「厨には入るなよ？」
「わかってるって！」
じゃあな！と元気よく退室しようとした愛染は寸でで立ち止まり、「失礼します」と障子を閉めた。ここではこれが当たり前だ。特に誰が決めたわけでもないというが、俺はよいことだと思う。たまに慌てた誰かがいきなり障子を開けて吃驚することもある。一番驚いたと言われているのは、夜更けに何振りか刀剣が集まってホラーゲーム（使えるものは使う主義の主は生活用品から娯楽の道具まで手当たり次第に取り揃えている。部屋が三つほど埋まるほどに）をしていたところに、寝惚けた鶴丸国永が足音ひとつ立てずに入ってきてちょこんと座りこんでいたことらしい。ゲームを終了して振り返ったら居なかったはずの鶴丸が儚げに座り込んでいて、ホラーゲームを楽しんでいた面子が揃って悲鳴を上げたという。ちなみにその悲鳴で目が覚めたらしい鶴丸に話を聞いたところ、ふと目が覚めたら同室の燭台切と大倶利伽羅がいなかったので寂しくなって人気のある所を探していたらしい。さすがに怒れなかったので次からは誰かしらが一緒に寝ようということで解決した。
「手入れは終わったが、無茶はしないようにな」
「はしゃぎすぎてコケるなよー？」
主と加州に見送られて庭へ出る。既に誘いを受けた刀剣がちらほら集まっているようだ。
「お！長谷部も参加できるんだな！」
「ああ、先ほど手入れが終わったんだ」
「はーせべっ！明日演練一緒だねー！」
「乱、ああ、よろしく頼む」
「いいなー、俺も演練行きたかった」
「御手杵は今日出陣だったじゃん」
「そーだけどさー」
「皆で話し合って決めたんだからわがまま言わなーい」
集まっていたのは厚と乱、御手杵と蛍丸だ。そこへ骨喰、堀川、鶯丸、宗三、鳴狐、秋田、小夜、それから愛染が合流し夕餉までの鬼ごっこが開始された。