鬼滅の刃

□炭治郎は人の話を聞かない
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「責任とれよ!!お前のせいで結婚できなかったんだから!」
確かにそう言った。
それも何度も。
だってあとちょっとで結婚できそうだったのにそのたびに炭治郎が邪魔するから。
でもだからといって、「わかった。じゃあ俺と結婚しよう。俺は長男だから責任は取る」なんて屈託のない笑顔で言われるとは思ってなかった。
いやまさかそう来るとは思わないだろ。
こいつやっぱり普通じゃない。
「いやふざけんなよ」
真顔で言うと、「善逸は疑り深いな」と笑いながらそのまま口を吸われてしまった。
頭が真っ白になって魂が抜けている間に、「これで夫婦だな」と言う声が聞こえてきた、ような気がする。
チュン太郎の声で朝の訪れを知ったときには、何故か俺は裸だったし炭治郎も裸だったし、俺の体の見えるところにはいくつも歯型だの小さな痣だのが刻まれていた。
「こんなことある!?」
かたかた震える。
昨夜何かあったような気がするけど思い出したくない。
「夢であれ夢であれ夢であれ!」
念じ続ける。
「綺麗に痣が出るんだな。なんだかお揃いみたいでちょっと気恥ずかしいな」
そう言って照れたように笑う笑顔に、「うわ…ホントにおかしいんだこいつ…」と実感した。
「ねぇ?!何これ何これ何これ!?何が起こったの?!なんで俺たち裸なの?!ねぇこんな痣とか昨夜風呂入った時にはなかったんですけど?!」
泣きながら問い詰めた。
「すまない。善逸が可愛すぎて我慢できなかった。でもほら、善逸だってやってるぞ?」
そう言って炭治郎が見せてきた背中に走る何筋もの痛々しそうな爪の跡。
「おあいこだな」
笑う炭治郎を見ながら顔が近い顔が近いと思っている間にまた口を吸われた。
こいつはとんでもねぇ炭治郎だ。
改めて体が震える。


それからは何度も何度も。
意識は飛んでいても音は聞こえている。
「可愛いよ善逸」
「好きだ善逸」
「ここが良いのか善逸」
そのときの声を思い出しても理解がついていかない。
俺が?可愛い?
俺の何処が?何が良いのよ?
待って。
俺はお前とは違う。
なんだかとんでもないことをされてしまっている気がする。
そういやじいちゃんにもよく言われていたっけ。
「善逸。泣いてもいい。逃げてもいい。鬼と遭遇したとき意識を手放すところまではまだいい。でもお前…。人を食うのは鬼ばかりじゃないってことは忘れるな」
なんで今あんなこと思い出すんだろ。
まさか俺、食われちゃってるの?
誰に?
…炭治郎に…?
えっ何それ。全然意味がわからないんですけど?!


「俺は可愛い女の子と結婚したいんだよ!女の子にはな、おっぱいが2つ、お尻が2つ、太腿が2つもついているんだぞ?!」
そう抗議すると、不思議そうな顔で「善逸にもついているぞ?」と首をかしげられた。
その晩俺は、自分にも確かにおっぱいが2つとお尻が2つ、太腿が2つついていることを思い知らされた。
炭治郎の前以外では隊服も脱げないほど、見えない場所は吸われた痕と歯型だらけだ。
首元まである隊服に感謝する。
これがなければ目敏い相手にはばれてしまう。
いや、なんか最近伊之助にはばれてしまっているような気もするが。


「だから俺はお嫁さんが欲しかったんだよ!お嫁さんになりたかったわけじゃなーい!」
いつものように致されそうになったからそう喚いた。
「そうか。なら俺がお嫁さんだな。なんだか照れるな、善逸」
その屈託のない笑顔に固まっていたらまた致された。
結局そういう雰囲気になったときで致されなかったことが一度でもあるか?ないんじゃないか?
なんでこんなことになってるんだろ。どういうこと?もう一体どういうこと?
教えてくれよチュン太郎。
あ、駄目だ。この時間ならチュン太郎寝てるわ。


「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!俺が気持ち良いところに挿れて気持ちよくなりたいんだよ!なんで当然みたいにそうなっちゃてんの!?」
そう泣いた。
なんでいつもいつも俺が抱かれているんだ。どういうこと?もう一体どういうこと?
思い切り喚いた。
「そうだな。俺はまだまだ善逸の体のことがわかってないから。善逸にももっと気持ちよくなって欲しいと思っている」
そう言いながらいつものように脱がせてくるから怒ってやろうと思っていたら、その晩は散々口でも致された。
「気持ちよくなってきてるんだろう。ほら、もうここがこんなふうになってきてるぞ、善逸」
その笑顔が太陽みたいにあまりにも爽やかで、俺は夢を見ているのだと願いながら意識を失う羽目になった。
チュン太郎の声で目覚めると、いつものように体中にいくつも痣が残っている。
結局お前もやることやってんじゃねぇか良いご身分だなおい。
睨んでみても、隣で寝ている無駄に顔の良い男からは心地の良い音しか聞こえない。
この音だ。
いつもこの優しい音に騙されるんだ俺は。


「…今夜こそ。今夜こそ」
絶対に逃げ出してみせる。
自慢じゃないが俺は逃げるのも下手だ。
じいちゃんから逃げられたことだって一度もない。
 その決意も虚しく、結局いつの間にやら布団に転がされる羽目になる。
「炭治郎!毎晩毎晩何なんだよ!長男なんだろ?!我慢の出来る長男なんだろ?!」
そう泣くとその涙を舌で掬い取られた。
「もちろん、俺は長男だからな。最近はちゃんと善逸の良いところもわかってきているぞ」
にこやかな笑顔でそのまま致された。
確かに気持ち良かっ…
いやいやいやいやおかしいだろ違うだろっ?!


「炭治郎友達いるけど恋人いたことないんだろ?!おかしいよお前っ!!」
指をさして泣いたその手を握られた。
「そうだな。俺と善逸はもう夫婦だから、今更恋人というのも気恥ずかしいな」
そして口を吸われ肌を吸われ。
待って待って。
俺の地肌ってそもそも何色?
紅いんですけど?
なんか常にあちこち紅いんですけどなんで?


「同じ部屋で寝なきゃいいだろ」
伊之助が呆れたような声で言う。
そうそう。そうだよねぇぇぇ。
なんで早く気付かなかったんだろ。
炭治郎が来る前に押入れの中に潜り込む。
そもそもなんで俺たち2人が同室なのか。
炭治郎なのか。
炭治郎のせいなのか。
炭治郎あいつ本当にすさまじい炭治郎だ。
でもすぐに匂いで気付かれた。
そんな気はしてたんだよねぇぇぇ!
「今夜は押入れの中で寝る」
そう言って拒んだはずなのになんで炭治郎お前まで入ってくるの?
ちょっとでいいから1人にしてぇぇぇ。
「そうだよな。たまには気分を変えてみたいよな善逸」
待ってなんで脱がしにかかるの?!
俺今そんなこと言った??
狭い空間にぎしぎし音が鳴り響く。
扉を閉められてしまったから月明かりでさえ漏れてこない。
何も見えなくて普段以上に耳が敏感になっているのに、更にくぐもった音が反響する。
炭治郎の吐息が熱い。
こんな近くで聞かされる俺の身にもなってみろ。
逃げ場がないから体も密着していてたまらない。
炭治郎の音が熱い。いやもうこれ以上聞かされ続けてたら死ぬと思うので!
俺は炭治郎ほど鼻は良くないけど、それでも死ぬと思うくらい胸の中が炭治郎の匂いでいっぱいなので!!
「たまにはこういうのも良いな善逸。互いの匂いと音により敏感になる」
なんだよその陰りのない笑顔。
今の俺は自分の耳の中で反芻している音と戦うのに必死なの。話しかけないでちょっとでいいから1人にしてお願い。


ある夜は急に抱きつかれ首筋の匂いを吸われ始めた。
「善逸は本当に甘い匂いがする。何の匂いなんだろうな」
胸いっぱいに吸い込まれていると思っていたら、あれよあれよと言う間に互いが全裸だ。
「だからなんでいつも当然のようにお前が上なんだよぉぉ!」
涙ながらにそう喚いた。
炭治郎を指さして責めながら全裸で膝を抱えて泣いた。
「納得できないんですけど!?納得できないんですけど!?」
「じゃあ今日は善逸が上でしてみようか」
さらりとそう言って炭治郎の膝の上に座らされたかと思うと、そのまま下から激しく何度も何度も貫かれた。
自分の体重がかかる分だけ普段より一層深く飲み込まされる。
「いやぁぁぁっ!!」
衝撃に耐えられず炭治郎の体にしがみつく。
「っ、普段より…、締まってるからっ…、ちょっ、善逸、力抜いてっ…」
「無茶言うなぁお前が抜けやぁぁっ!」
「申し訳ないが無理だ。善逸は綺麗に筋肉もついてるから、すごく気持ちいいっ…!!」
「ふざけるなぁ!お前のために鍛えてきたんじゃねぇ!こんなことされるために俺は鍛えてきたわけじゃねぇぇっ!!」
炭治郎の頭にしがみつく。
炭治郎から聞こえる雷鳴のような音が心地良い。
いや、うるさい。
せめてもの抵抗として、炭治郎の肩にがじがじと齧り付いておく。


どうしよう逃げ場がない。
毎晩毎晩とんでもねぇ。
「善逸はいつも甘い匂いがする」
そう言いながら致される。
「馬鹿かぁ!俺でもわかるわ汗の匂いだわぁぁ!」
「そうか。善逸は汗の匂いも甘いんだな」
花も綻ぶような顔で笑ってんじゃねぇぇぇ!!
本当にこいつおかしいんだ。
抱きしめられたとき背中にぞくっと雷が走った気がしたんだから間違いない。


「善逸は足も綺麗だな。本当にすごく綺麗だ」
そう言いながら折り畳まれたり転がされたりひっくり返されたり。
やめろ俺にはお前と違って羞恥心があるんだからな?!
少なくとも泣いてる相手を2つに折って貫くとかそんな非道な真似はしないからな?!
叫び続けて喉が枯れそう。
助けて炭治郎。
そう泣いて訴えたら口移しで水を飲まされた。
違う。そうだけどそうじゃない。


忍び足で逃げようとしても匂いでばれるのかすぐに見つかって連れ戻されてしまう。
俺なんかの何処が良いのよ。
逃げるし。
怯えるし。
すぐに泣いちゃいますし?
「善逸っ…、そんな顔で煽らないでくれっ…!俺にだって我慢出来なくなるときくらいあるんだっ…!」
待って誘ってないよ?!誘ってないからね?!
それにいつ我慢してたのお前!?
なんでこんなに口を吸われながら致されちゃってるの俺?!
「長男は我慢できるって言ってただろ炭治郎?!」
泣きながら頭を振る。
「そうだな。もしも俺が次男だったら我慢出来てはいなかった」
そして激しく貫かれた。
なんて言ったの今?!
我慢してるの炭治郎?!
これで?!
こんなに何度も激しく抜き挿しされちゃってますけど俺?!


「無理だ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ今度こそ死ぬ」
引っくり返って手足を突っ張る。
背筋が伸びて少しだけ気持ち良い。
「大丈夫だ。善逸なら出来る」
太陽の笑顔が俺を見下ろしている。
こんなに泣いているのに本当に気にしてないのね炭治郎。
思い返せばどれだけ泣いても慰められることはなかったんですけれど。
確かに俺は良く泣く自覚はあるけど、そんなに好きだ好きだ言ってるのならちょっとくらいは気にしてくれても良いんじゃないの??
そんなことをつらつら考えているうちに気付けばまたもや脱がされている。
「だから聞いてた?!ねぇ聞いてた?!」


ここのところしばらく炭治郎が任務に出掛けていた。だから俺は久しぶりに炭治郎と顔を合わせた。
「俺はずっと我慢してたんだ。今日は朝までしよう善逸」
何なんだこいつ出会い頭に。
さっきまで任務こなしていて?
夕飯食べて風呂に入ったらすぐにこれですか?
いやなくない?
ないよね?
疲れたら朝まで寝るのが一番なんじゃないの?
寝たら良いと思うよ炭治郎。
「久しぶりの善逸の匂いだ…。安心する…。申し訳ないが今夜は寝かせてやれそうにない」
そして本当に朝までされた。
チュン太郎の声が徹夜明けの耳に刺さる。
いやもう本当にないんじゃないこれ??
そう言おうとするのにすでに口が塞がれている。
強く吸われると頭の芯がぼうっとするからやめてほしいとあれだけ頼んでいるのに。
いつだって炭治郎は俺の話を聞いてくれない。


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